足のしびれ(入院以前のこと 2)
肩甲骨や腕の痛みとは別に、2004年春頃から足にも異常を感じるようになった。
お風呂の湯舟に左足から先に入っても何とも思わないのに、右足を入れて初めてお湯が熱過ぎるのがわかる。裸足で冷たいタイルを踏んでいるのに冷たさも感じない。
横断歩道を渡ろうとしたとき、折悪しく信号が点滅を始めたので走ろうとしたが走れない。気持ちはあるのに足がついてこない。
駅のホームを歩いていて、ちゃんと歩いているのになんとなく不安な気がする。足に力が入らないような、膝が抜けるような、奇妙な感覚。
そのうち、足を軽く引きずって歩くようになった。
例のF病院の老先生にたずねると、「老化現象」という返事。
「え~! まだそんなトシではないんですけど」
「なに言ってんの。もう始まってるんだよ」
自信満々に言われてしまうと納得せざるを得ない。そうなのか。そう言えば、最近、自転車にばかり乗って、たいして歩いていないからなぁ。
そこで、エレベーターやエスカレーターをやめて階段を使い、用がなくても散歩に出て1日1時間は歩くようにした。
実は前年(2003年)の夏にも左足の甲が軽くしびれるような感覚があったのだが、気にするほどではないので忘れていた。それがいつの間にかしびれをはっきり意識するようになり、F病院に通い始めた頃から徐々に悪化していた。
しびれは左足の甲から少しずつ上に上がってきて、7〜8月には腿の上=脚の付け根までしびれて痛く、じっと座っていても集中力がなくなるくらい不愉快だった。
どこかに血栓ができているのかもという人があり、心配になってT大医学部付属O病院の循環器内科へ行ってみた。
診断の結果、血流は正常で外見もおかしくないということで、同じ病院の神経内科に回された。
神経内科では、やはり左足は感覚が鈍いことが認められ、電気を通して脳への伝達速度を調べることになった。それと、腰のMRIも撮ることに。
電気の刺激を与える検査では、左足の膝から下15カ所ぐらい(もっとかも)に計5、6回、右足はもっと少ないが何10回か電気を通された。つまり、電気ショックだ。
「じゃあ、行きますよ。ちょっと我慢してね」と声を掛けられ、次の瞬間ビリッと来る。我慢してと言われても、脚がビクンと動いてしまう。痛くていやな感じの検査だった。
私の感覚としては右脚が鋭く、左脚は鈍く感じたが、伝達速度は左右の相違なしとのこと。
腰のMRIは1カ月後の9月17日、神経内科の受診は10月14日に予約が取れていた。それより早くは無理だった。
10月14日、MRIの写真には脊髄に一つ、小さな丸いものが写っていた。神経内科の先生は、これはしびれの原因ではないと思うが、腫瘍らしいので念のために整形外科の先生に診てもらってくださいと言って紹介状を書いてくれた。宛先は同じT大の助教授で脊椎専門のM先生。
M先生は写真を見るなり、腫瘍かもしれないので造影剤を使ってMRIの再検査をした方がいいと言い、私がためらっていると、「ぼくならすぐに撮りますね」と言った。
その日のうちに再検査となり、4日後に結果を聞きに行くことになった。
10月18日、MRIの結果は気分が落ち込むような話だった。
前回みつかった小さな丸いものは確かに腫瘍だったが、それは足のしびれの原因ではない。その近くにもっと大きな腫瘍があって、と、M先生は脊髄の断面の写真を見せながら説明を続けた。
一見、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)のようだが、ここを見ると、硬膜(こうまく)から出ているように見える。こっちはいいが、こっちは神経にくっついているので触れない。これを手術して取るのは非常に難しい。全部は取れないだろうし、少しでも残しておけば、そこから再発するだろう。かと言って、このまま放置しておけば、いずれ歩けなくなる。
脊髄の断面にはぼんやりと色の違う部分があり、それは脊髄の中に大きく広がっていた。
手術してもうまくいかなければ車椅子ということもあるのだろうか? 手術の成功率は?
M先生の腰が引けているようなのも気になるし、思いがけない結果に不安でいっぱいになった。
そこへ最後の一撃。M先生がセカンドオピニオンを勧めてきた。
「どなたか専門の先生をご存じですか?」
とたずねる私に、M先生の返事はそっけないものだった。
「慶応でも慈恵医大でも、大きい病院なら整形外科はあるから」
紹介状を書いてくれる気などさらさらないといった感じで、MRIのコピーを数枚くれただけで帰された。
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