頭に爆弾を抱えている(自宅待機 12)
頭痛は毎日していた。
起き上がるときの例の脈打つような痛みだけではなく、夜寝ている間中、後頭部が痛かったり、夜中は何ともなくて朝起きたら頭の右側が痛かったり、強弱の程度は日によって違うが、常に後頭部か頭の右側が痛かった。
前の日に動き過ぎて疲れると頭痛がひどくなると思って、1日に体を動かす量を制限していた。
仕事の用事で出掛けたら買い物には行かないとか、お風呂に入ると体力を消耗するので、出掛けたり洗濯もした日には入浴しないとか。
それと、空腹を我慢しても体力がなくなって頭痛がするような気がして、明け方目が覚めたら起きて何か食べるようにしていた。
ひどい頭痛がするたびに、前の日にしたことを思い返して、けっこう動き回ったから疲れたはずだとか、たいして動いていないのにどうしてだろうと考えた。
頭痛が脳腫瘍のせいだとは思いたくなかった。
ところが、ネットで小脳に腫瘍ができた人の記録を読んだら、この脈打つような頭痛が脳腫瘍特有のものであることがわかった。
やはり私の頭痛も脳腫瘍の影響なのか。
痛みのある後頭部から右側にかけては、ちょうど小脳の腫瘍ができている部分だ。
認めたくなかったが、もはや心の底では確信していた。
入院の日取りが決まってからは腹をくくって待つしかなかったが、頭に爆弾を抱えているような気分で毎日を過ごしていた。
数年前にくも膜下出血で開頭手術を受けた友人が、”先輩として” メールでいろいろ助言してくれた。
「髪の毛をどのくらい剃られてしまうのか……おそらく全体を、でしょうから、いまのうちにスカーフや帽子、かつらなどをご用意なさるほうがいいかと思います」
それを読んで、私も帽子を買っておこうと思った。
ご近所のNさんが帽子を買いに行くのに付き合ってくれると言うので、休日にデパートへ連れて行ってもらった。
坊主にされてしまうなら、頭がすっぽり隠れる帽子でなければならない。
春先から初夏までかぶれるような素材で、カジュアルな服装に合うデザインのものを選びたかった。
帽子売り場のお得意さんであるNさんには馴染みの店員さんがいる。
その人に探してもらった中から、明るいベージュの、折り畳んでもシワにならないふくれ織の布でできた、チューリップ型の帽子を選んだ。
私は頭が小さいらしく、普通サイズでは大き過ぎたので、店員さんが内側の頭周りにテープを貼って調整してくれた。
本当はデザインがあまり気に入らなかったのだが、頭がすっぽり隠れるからいいと思った。
ところが、品物を受け取ってから、同じフロアの別の売り場で、しゃれたプリントの帽子を見つけてしまった。
こっちの方が私の好みにぴったりだったが、もう内側にテープまでつけてもらったので交換はできず、その素敵な帽子に後ろ髪を引かれる思いで諦めた。
実際には手術時に頭を坊主にされることもなく、開頭する部分を剃られただけで、その上に長い髪がかぶさるように上の方の髪は切らずにおいてくれた。
帽子をかぶらなくても、ぱっと見ただけでは頭を剃っていることはわからなかったのだが、紫外線除けに、折り畳んでもシワにならないこの帽子は重宝した。