手編みのワンピースやショール
編み物の仕方を教えてくれたのも母だった。
例えばマフラーを長編みで編むなら、かぎ針編みの鎖編みで目を作り、最初に12センチ程度の幅になるように何目か作って長編みで編み始め、鎖編みをいくつに長編みを何段編むと10センチ角になるといったゲージの取り方や、細編み、長編み、半長編みといった基本的な編み方を教えてもらった。
高校時代はマフラーやミトンを編んで使っていた。
棒針編みもかぎ針の鎖編みで最初の目を作り、2段目から棒針で編んでいくと教わった。
棒針編みはかぎ針編みほどはかが行かないので、最初のうちはかぎ針編みしかしなかった。
叔母が叔父と結婚したとき、お祝いに、かぎ針編みの細編みで男の子と女の子の編みぐるみを作ってあげた。
これは編み物の本を見て作り、男の子にはフムフム、女の子にはヌクヌクという名前を付けた。
ハワイ語でフムフムヌクヌクアプアアという魚がいることを知って、そこからとった名前だった。
大学時代に棒針編みを始め、並太毛糸でロングワンピースを編んだ。
このワンピースを着たときは幅10センチほどの焦茶の皮のサッシュベルトを締めた。
Cさんが「ファッショナブル!」と言ったのは、こんなふうに着こなしていたと言ったときだった。
同じ毛糸で、帽子と、上に羽織るゆったりしたカーディガンも編み、髪の毛を全部帽子の中に入れて、水泳キャップのようにしてかぶっていた。
Cさんにファッショナブルと言われた装いで、行きつけの横浜のジャズバー「FIRST」へ行き、常連の面々(地元の学生たち)と一緒に、元町だったかどこだったか、あの辺りのレストランに行った。
そこには彼らの仲間たちが何人も集まっていたので、合流して食事を楽しんだ。
私は手編みのワンピースに焦茶の幅広のサッシュベルトを締め、同じ毛糸で編んだ帽子をかぶり、焦茶のロングブーツをはいて黒いコートを羽織っていた。
今のようにスマホや携帯がある時代ではなかったので、写真がないのが残念だ。
同じ毛糸で編んだカーディガンは縄編みは入れずにシンプルなメリヤス編みにして、袖口は2目ゴム編みを8センチ編み、折り返して着るようにした。
両側にポケットも付けた。
ワンピースを着て叔父のお寺に遊びに行ったら、叔母がこの色合いがいいと言って欲しがった。
叔母は結婚してから太ってしまい、私が着ているものを欲しがっても着られないのだが、カーディガンならワンピースの上から羽織るようにかなりゆったり作ったので、太っている叔母でも着られるだろうと思って、カーディガンは叔母にあげた。
数年前にワンピースをメルカリに出したら、即、買い手がついた。
売る前にこのワンピースと、同じ毛糸で編んだ帽子の写真をうにゃさんに送ったら、近くの公園に散歩に行くのに冬は寒いからこの帽子をかぶりたいと言うので、帽子はうにゃさんにあげた。
かぶったところを写真に撮って送ってくれたが、なかなか可愛かった。
うにゃさんは髪が多いし頭も私より大きいらしく、頭全体にすっぽりかぶることはできないようだったが、これをかぶると温かいと言って喜んでくれた。
20代の頃に編んだものはたくさんある。
・レンガ色とカラシ色とコバルトブルーをミックスした毛糸で、かのこ編みのシャネルスーツ。
スカートも編んだのに、お腹周りにゆとりがないのでほどいてしまった。
編み直すつもりで毛糸を取っておいたが、編んでももうスカートをはくことはないので、何年か前に処分した。
・冬にパジャマの上から着るガウン。
並太2本取りで、グリーンだけ、グリーンと紫、カラシ色とグリーン、カラシ色とこげ茶、こげ茶とグリーンと言うように色を組み合わせて、それぞれ幅10㎝〜15㎝のボーダー柄に編んだ。
分厚いガウンに合うように、ダッフルコートに付けるような、どんぐりのような形の木のボタンを付けた。
冬場の寒いときにはパジャマだけでなく、普段着の上に着たりもした。
・大好きな色合いのグリーンで編んだ帽子とマフラー
帽子はピンクのワンピースの帽子と同じサイズで同じデザイン。
マフラーは自分ではもう使わないので、だれか使いたい人に使ってもらう方がいいと思い、区の古着の回収に出した。
・もう少し濃いグリーンに他の色が微妙に混ざったミックス毛糸で編んだマフラー
これも好きな色だったが、区の古着の回収に出した。
・自分用の帽子2つ
・学習塾の生徒たちに編んであげた帽子
余り毛糸がたくさんあったので、6年生の男子全員に編んであげた。
上の写真のこげ茶の帽子と同じデザインで、4人いる男子それぞれのイメージに合わせて編んだ。
みんな喜んでかぶってきた。
・母が早朝の台所仕事をするときに着たいと言うので、アイボリーの中太毛糸で、かぎ針編みのゆったりした半袖のセーター。
本当は前開きのカーディガンにすれば良かったのだが、前立てやボタン穴を編むのが面倒だったので手抜きした。
・父にベージュのカーディガン
・弟に紺色とブルーの毛糸でボーダー柄のニットジャケット
・叔父にはベージュのベスト
叔父は学生時代にボディビルをしていたそうで、筋肉隆々とした体格だったから、カーディガンは編むのが大変そうなのでベストにした。
本人の要望ではなくサプライズプレゼントしたので、とても喜んで着てくれた。
・真紅の中太毛糸でかぎ針編みのストール
これは下に黒いセーターを着たときに上から掛けた。
・かぎ針で淡いピンクの極細毛糸と細い銀色のラメ糸を一緒に編んだ、ふんわりとした小さなマフラー。
カナダの友人にクリスマスプレゼントで送ったら、レストランで食事するときに、シンプルなセーターの襟元に巻いていたそうだ。
クリスマスらしく銀ラメがチラチラして、素敵なアクセサリーになっただろう。
そんなふうに使ってくれるなんて、彼女はセンスがいいなと思った。
・玉ねぎの皮で染めた毛糸で編んだベスト
学習塾の生徒の親からきなりの毛糸をもらったので、玉ねぎの皮で染めてみようと思い、友人たちに手紙を書いて、玉ねぎを使ったら薄皮をとっておいて送ってと頼んだ。
自分でも薄皮のきれいなところを溜めていたが、半年ほどすると岩手のユキさんやらんさん始め、友人たちから届いた玉ねぎの薄皮が大鍋に溢れるほどの量になった。
みんなからの玉ねぎの薄皮を大鍋で煮込み、1時間ほど煮て薄皮を取り出し、ぬるま湯に通した毛糸を浸して沸騰させないように煮てから火を止めて一晩置いた。
毛糸は温かみのあるなんとも言えない良い色に染まった。
それから何年も経って、自営業時代、仕事場にその毛糸を持っていってベストを編んだ。
編んでいる間スタッフのジムは興味津々だったが、出来上がりを見せるとえらく感動したようで、 “I’m impressed!” を連発して、自分にもそういう縄編みを入れてセーターを編んでくれとせがんだ。
ジムには日本人のガールフレンドがいたが、彼女は異常なほど嫉妬深いので、妙に勘ぐられても嫌だし、喧嘩の元を作るようなものだから断った。
「彼女が見たら怒るから嫌よ」
「隠しておくよ」
「着ていたら見るでしょう。誰が編んだって訊かれるわよ」
「買ったって言うよ」
「こんな手編みのセーターなんか売ってないわよ。洗濯はどうするの? 結婚したら彼女が洗濯するでしょ?」
「自分で洗う」
「彼女に編んでって頼みなさいよ」
「彼女は編めない。下手です(ここだけ日本語)」
訊いてもみないくせにそんなこと言って。
ジムはしきりに食い下がってきたが、私はがんとして譲らなかった。
ジムがそんなに私の手編みのセーターを欲しがるほど、ベストが上手に編めたのは嬉しかった。
・母のために薄紫色の極細1本取りで編んだショール
これはかぎ針で編んだが、長編みで編み進め、途中に鎖編みでフリルのように飾りを付けた。
鎖編みの段は幅が出ないので、編み終わるまでとても時間が掛かった。
幅は45㎝、長さは126㎝ある。
編み物をしたことのある人なら分かると思うが、こういう長いものを最初から最後まで同じ幅で編むのは難しい。
そのときの気分で編み目が緩くなったりきつくなったりするからだ。
私が編んだものの中で一番大変だった。
母に渡すとき、恩着せがましく「大事に使って、私に遺してね」なんて言ったが、母は喜んで受け取り、大事に使ってくれた。
プロバイダーで接続サポートをしているとき、厚手のオフホワイトのハイネックのセーターにオフホワイトのパンツで、このショールをゆるく首に巻いていった。
職場のHさんに羨望の目で眺められ、「素敵ねぇ」と言われた。
編んだものは他にもたくさんあるが、書き切れないのでこの辺でやめておく。