雪の大晦日~悲惨なお正月(自宅待機 3)
大晦日は大雪になった。入院中も何度か降ったし、暮れのうちにこんなに雪が降るのは珍しい。
午前中に洗濯。病院でも下着やパジャマなどはコインランドリーで洗濯していたが、家に帰ったらシーツなど大きいものも洗うことになる。
腕の力がないので、大きなものは洗濯機から取り出したり、広げて干したりするのがひと苦労だ。
まったく、呆れるくらい力がなかった。
ふとんはもちろん敷きっ放しだが、寝ているうちにずれてしまった掛けぶとんや毛布を整えたくても、毛布を両手で持って広げることも容易にはできなかった。
午後になって、買い物を頼んでおいたボランティアのEさんが来てくれた。
雪の中をお雑煮用の野菜やお餅を買いに行ってもらったが、もう売り切れになっている品物が多く、私が注文したものを探すのに、スーパーや個人商店を何軒も回ってくれたらしい。
結局、添加物のないお餅は売り切れで、小松菜もなかったとかでほうれん草を買ってきてくれた。
夜、野菜を茹でて下ごしらえし、お雑煮のつゆを作った。
まだキッチンに立ち通しで包丁を使ったりできないので、椅子に座ってテーブルで大根や人参を刻んだ。
自分でほうれん草を茹でたりしないで、冷凍の小松菜を買ってもらえば良かったのに、これまで使ったことがないから思いつかなかった。
夕食は近くのそば屋から年越しの天ぷらそばを取ろうと予約の電話を掛けたら、マンション名を聞くなり出前はしないと断られてしまった。
うちのマンションは丘の上に建っているので、雪が積もって坂道を登るのが大変だからだろう。
出前を取るつもりでいたから、Eさんには夕食用の食料を頼まなかった。そんなことならスーパーのお惣菜売り場で何か買ってきてもらえば良かった。
そば屋が出前を渋るほどの雪の坂道を、私の頼りない足で出掛けるのは危険きわまりない。
仕方なく、インスタントの味噌汁と、何を食べたか今となっては思い出せないが、缶詰めか冷凍食品か何かで夕食を済ませた。
毎年大晦日の夜の「紅白」は見ないが、その後の「ゆく年くる年」は必ず見る。これを見ないと年を越したような気がしない。
前の晩、友人たちに退院を知らせるメールを出したので、みんなから返事が来ていた。
それを読んだりネットサーフィンしたり、疲れたらふとんの上に座椅子を乗せて座り、「ゆく年くる年」の時間になるまで眠いのを我慢して起きていた。
チビはふとんの中で、私の足の間に座って眠っていた。丸くならずに座って箱を作っていたのは、きっと寒かったからだ。
私はチビと一緒に年を越せることに満足していた。
元日の朝は例年のように、母の遺影にお茶とお水とお雑煮を供えた。
母は敬虔な仏教徒だったから、無宗教の私も母には毎朝お茶とお水を供えている。元日はそれにお雑煮が加わる。
我が家のお雑煮は関東風で、かつおだしの醤油味のお澄ましに、大根、人参、里芋、小松菜、油揚げ、蒲鉾が入る。お餅は四角い切り餅を焼いて入れる。
子供の頃から母が作ってくれた我が家のスタイルを継承しているが、今年は小松菜がほうれん草になり、里芋も蒲鉾も油揚げもなし。
お餅も添加物が入ったわけのわからない代物で、作ってはみたものの、ひと口食べてげっそりするようなまずさだった。
翌日のお昼は近くのコンビニにお弁当を買いに行った。
ところが、店は開いていても並んでいる物は品数が少なく、どれも食欲をそそらない。
かといって歩いて5分以上かかるスーパーまで行く気にはなれず、夕方また出て来るのも大儀なので、昼食と夕食にハンバーグとスパゲティがセットになったものと、クリームドーナッツとピザパンを買って帰った。
買い物は前にも書いた通り1度にたくさん持ってこられないので、毎日買いに出なければならなかった。
足のリハビリだと思って出かけるのだが、マンションの前の坂道を登るのはきつかった。
左足のしびれは手術前より軽くなったとは言うものの、まだだいぶ痛かったし、少し歩くとしびれが脚の後ろ側をお尻の方まで上ってくる。
弱い右足は体重を支えるのに耐えられず、くるぶしの周辺が常に腫れて痛かった。毎日湿布を貼っていても腫れている。
だから、遠くへは買いに行きたくないのだが、お弁当やお惣菜を同じ店で買っていると飽きるので、遠く(歩いて10分ぐらい)のスーパーへも出掛けていった。
5日にボランティアのEさんが掃除に来てくれたので、掃除機を掛けてふとんを敷き直し、天袋から前開きのカーディガンを出してもらった。
首のカラーが邪魔でかぶりものは着ることができないが、どうせ一時のことだから新しい衣類を買うほどのことはない。
20年もしまいこんでおいた編み込みのと、アンゴラのカーディガンを交互に着ることにした。
この日はEさんには買い物を頼まず、郵便局や銀行にも用があるので自分で出掛けた。
足の状態だけでなく全体的に体力がないので、毎日買い物に行くのは本当に大変だった。
チビが食欲をなくして猫缶もカリカリも食べなくなったので、魚を煮てほぐしてやったらどうかと思い、スーパーに鍋の材料を買いに行った。
魚売り場で、アルミホイルの鍋に切った野菜や魚の切り身を並べ、そのまま火にかければ手軽に鍋ができるようになっているものが売られていた。
買ってみたが、脂の多い変な切り身やカマのところが多く、まずくて半分も食べられなかった。ついてきたビニール袋入りの鍋用つゆを使ったのも失敗だった。
チビもいやがって食べないし、こんなことなら水菜と鯛の切り身でも買ってきて、醤油と酒であっさり煮た方がずっと良かった。
アルミホイルの鍋セットをリュックに入れて背負ったら、私には充分な重さで、それ以上は持ち帰れないので他の食べ物を買わなかった。
もう1度出掛ける体力も気力もない。
その晩はまずい鍋の魚を食べるよりほかなかった。