レントゲンが多いわけ(頚椎腫瘍 17)
手術から2週間たった12月6日(月)、またしても首のレントゲン検査があった。
「えっ、また?」
前の週の木曜日にもレントゲンを撮ったばかりなのに。
術後はメモをつけていなかったので定かではないが、その前も1度(か2度)レントゲンを撮っている。
「こんなに立て続けにレントゲンを撮って、被爆しちゃわないかしら?」
とぼやくと、
「もう、とっくにしてる」
と国分寺のお姉様。
「大丈夫ですって、言われているけど」
と三崎口夫人。
この人は旧家の奥様で60代。窓際のKさんがいたベッドに入ってきた。
若いときからリュウマチを患って、何10回となく手術を繰り返しているそうだ。膝にも股関節にも人工関節を入れているし、手首にはボルトが入っているし、話を聞くと、まるでサイボーグのような体だ。今回は腰の手術で入院してきた。
「そうかなあ? 技師さんたちだって、危ないんじゃないの?」
「そう。特に若い人はね」
「だから、レントゲン技師はみんな男の人なのか」
「いや、男だって気をつけなくちゃ」
などなど、いつもだれかが話し始めると、ひとしきり話がはずむ。
何度目に撮ったときだったか、N先生ができあがった写真を持ってきて見せてくれた。
「この通り、ワイヤーはちゃんと留まっていますから」
手術前の説明通り、腫瘍を取り出すために外した首の骨の代わりに骨盤の骨をつないで、チタンのワイヤーで留めてある。
ぼんやりした半透明の骨の連なりの間に、細いワイヤーが輪ゴムのように丸く、くっきりと写っていた。骨や肉とは明らかに異質な人工物。
ワイヤーはどうやって留めてあるのだろう? ペンチのようなもので挟んでくっつけるのだろうか?
写真を見た感じでは、小さなビーズのようなものにワイヤーの両端を通して、ぎゅっと固めたように見えたけれど。
ワイヤーがそんなに簡単に外れるものだろうか? ちゃんと留めてないならともかく……。
いや、レントゲンをこんなに立て続けに撮るということは、ひょっとして……?
国分寺のお姉様にそう言うと、
「先生に聞いてみたら?」
と言う。わざと真顔になって、
「先生、ワイヤー、ちゃんと留めなかったの?」
と、つぶらな瞳を見開き童女のような口調で問いかける。
まったく国分寺のお姉様ときたら、いつもこの調子なんだから。
そうよね、N先生のことだもの、しっかり留めたに決まっている。ということは、しっかり留めてあっても、やっぱりワイヤーは外れやすいってことか。怖いな~~。
骨盤の骨が首の骨にくっつくまでには3〜4カ月かかるという。それまでは不安定な状態で、特に術後数週間は先生にしてみれば気が抜けないというわけだ。
とは言え、患者がよっぽどおかしなことをしない限り、ワイヤーがそんなに簡単に外れることはない(と、後で聞いた)。
心配性のN先生のおかげで、私は首をびくとも動かさない模範的な患者になっていたのだった。