見出し画像

朝礼の話

 毎週月曜日は朝礼があり、社員全員が会議室に集まって、社長とAさん、Mさんの話を聞くことになっている。

 コロナ以降は出社できる社員は会社に行くが、私や地方在住の技術者、持病があってコロナに感染すると危険なテスターの男性などは、自宅でMeetにつなぐ。
 通常は海外で仕事をしているAさんもMeetを使う。
 会社でも社長がMeetでつないでスピーカーの音量を大きくするので、全員で話を聞く。
 社長やAさんの話は会社の動きがわかる。

 Mさんの話の後、だれが話してもいいし、仕事の話でもプライベートな話でもいいことになっているが、毎週だれも何も話さない。
 話すのはいつも私だけ。
 それで、いつしか「アンヌさんの時間」というコーナーになり、私がプライベートなよもやま話をすることになっている。

 この3月にnoteを初めて、2カ月経った5月半ば過ぎに、朝礼で入院記録の紹介をしようとnoteの話をしたら、社長が読みたいと言った。
「じゃあ、リンクをメールしますね」
 と言うと、Aさんが
「全員に送って」
 と言ったので、全員に送った。

 営業アシスタント兼経理の女性はすぐに読んでくれて(しかも、その時点でアップしてあった記事を一気読み)、感想をメールに書いて送ってくれた。

 翌週の月曜日の朝礼でそのことを話し、
「社長は読んでいないでしょ」
 と聞くと、案の定
「読んでいない」
 という返事だった。自分が読みたいって言ったくせに。

 17年間の会社生活の中で、一時期社長のパワハラ時代を経てきている。
 それについては書くつもりはないと、朝礼でそう言ったら、社長が「書いていいよ」と言う。

 んじゃ、書くか。
 いや、実にひどかった。
 理不尽なことや、重箱の隅を突っつくようなことを言う。小姑じゃあるまいし。
 毎日、毎日、今日は何を言われるかとピリピリしていたものだ。

 私は社長に何か言われても、納得できないときは言い返す。
 相手がたとえ社長でも、自分が納得できなければ譲歩しないから、しつこく言われて怒鳴り合いになることもあった。
 隣に座っていたプログラマーに「うるさい」と言われたこともある。もちろん、社長がいないときにだが。

 腹立ち紛れに転職しようとハローワークに行って、窓口の担当者に愚痴を聞いてもらったこともある。
 前のバイト先で仲良くなったTさんには、夏休みに会ったとき、帝国ホテルのロビーのラウンジで、延々1時間も社長の悪口と愚痴を聞いてもらってスッキリした。

 社長のパワハラがどんなだったか、1つ2つ挙げてみよう。

 私は出荷するCDに製品名を印刷してから、中身の製品をコピーして送っていた。カスタマイズの場合はお客さんの会社名も印刷する。
 プリンターはCD用のもので、私のデスクには置けないので、隣のデスクに置いていた。
 隣はだれのデスクでもなく、空いているので上には何も乗っていない。

 ある日、社長がそれを見て、私だけデスクを2つ使っているのはけしからん、デスクは1人1台だと言った。
 でも、私はCDに印刷するからCD用のプリンターが必要で、自分のデスクには乗せるスペースがないので、隣の空いているデスクに乗せているのだと言った。
 それでも社長はデスクは1人1台だと言い張った。

「じゃあ、このプリンターはどこに置けばいいんですか?」
 私がそう聞いたときの社長の返事。

「知らない」

 はぁ?

 この後はエンドレス……。

 またあるとき、仕事のできる営業部長がお客さんから注文を取ってきた。
 私はAさんから製品のコピー元のCDを製品別に何枚かもらっていて、注文が入るとそれを新しいCDにコピーして出荷していた。
 Aさんからは、パッケージ版はこれだけで、他にはないと言われていた。

 営業部長が取ってきた注文は、私が預かっているパッケージ版とは、ほんの少し違う部分があった。
 だから、元のCDをコピーして出荷することはできない。

 営業部長にそういう製品はないと言うのを社長が聞いていて、
「そんなはずはない」
 と言った。

 私が、預かっているパッケージ版にはないと重ねて言うと、社長は逆上して、
「そんなことがあるはずはない」
 と言い、口論になった。

 私がAさんからはパッケージ版はこれだけだと言われていて、その中には今回注文の製品はないと何度言っても、社長は納得しない。
 Aさんにメールして聞いてみろと言う。
 社長は私の横に突っ立って、私がAさんにメールするのを待っている。
 私は怒りで手が震えて、キーボードの文字がうまく打てなかった。

 そのとき私の上司のTさんは、自分のデスクでそれを聞いていて、何も言ってくれなかった。
 Tさんだってパッケージ版にはどんなものがあるか知っているくせに、なんて頼りない上司だろうと腹が立った。

 そのTさんも社長のパワハラに遭っている。

 ある日、外から帰ってきた社長は、Tさんに腹を立てていて、Tさんを叱りつけた。
 Tさんは、
「申し訳ありません」
 と謝った。

 そばで聞いていて、それはTさんが悪いわけじゃないのにと思ったが、Tさんは言い訳しなかった。

 それでも社長はしつこくて、延々とTさんを叱った。
 Tさんも何度も謝った。

「Tさんは悪くないのに」
 後でTさんにそう言うと、
「会社勤めはこんなもんです」
 という返事だった。それで私にも味方になってくれなかったのか。

 ちなみに、Tさんは私の上司だが、歳は親子ほど違う。
 社長もAさんも私よりずっと年下だ。
 この会社に限らず、IT企業には私と同世代の人はほとんどいない。
 ここでもMさんが入るまでは、私が1人で社員の平均年齢を引き上げていた。

 話を戻すと、社長は後で自分が言い過ぎたと思ったのだろう、翌日Tさんに、
「Tさん、昨日は済みませんでした」
 なんて謝っていた。

 朝礼でこの話をしたら、営業アシスタント兼経理の女性がメールをくれた。
 なんと、彼女も社長のパワハラに遭っていたのだそうだ。
 夜8時過ぎているのに、怒りが収まらないと家に電話を掛けてきたり、長々と怒りのメールも送ってきたりしたそうだ。

 えーっ!
 私だけじゃなかったの?

 Tさんの一件を除いては、この時期、社長のパワハラに遭っていたのは私だけだと思っていた。
 私が言い返すから、社長もエスカレートして、私を目の敵にしているのだろうと。
 それなのに、何も言い返さない人にまでそんなことをしていたとは!

 もう読んでびっくりやらおかしいやら。

 彼女も私の話で社長のパワハラを思い出し、「もう懐かしいやらおかしいやら」と書いていたが、社長のパワハラはあまりにもひど過ぎて、今では笑える話になっている。

 笑えるのは、今はそんなことがないからだ。
 社長は自分でも昔と比べて丸くなったと言っているが、あのパワハラはすっかり鳴りを潜めて久しい。

 去年は社長が自分で漬けた梅干しを、塩分10%だから血圧が高い私でも食べられるだろう、夏バテ気味のときや食欲がないときに良いからと、瓶に詰めて炎天下にわざわざ私の家まで持ってきてくれた。

 減塩なので、梅酢に浸かっていない部分は白カビが発生するかもしれないと言われたが、ちゃんと土用干しをしてあるので、カビもせず、おいしくいただいている。
 大きな梅で、柔らかくておいしい。

3日ほど土用干しにしたあと、梅酢に戻しているとのこと。


いただいた梅干し。
空気に触れると白カビが発生するからと、ラップで空気に触れないように密閉してあった。


 朝礼で、社長のパワハラ時代のこともちょっと書いたと言っても、読まないんだろうなぁ。
 読んでも構わないんだけどね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?