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ポゼットポット 表参道

 表参道のハナエモリビルの角を曲がって、クレヨンハウスの前を通り過ぎ、十字路を渡ったすぐ先の左手に、鬱蒼とツタの絡まる建物があった。
 ツタは玄関ポーチの上にも伸びて、ポーチの屋根から垂れ下がっていた。

 一見普通の家のようだったが、通りすがりに小さな看板が出ているのに気が付いた。
 お店なら中に入ってみたいと思い、ロビンを誘って行ったのが最初だった。

 そこがポゼットポットで、中は少し入り組んだ造りになっており、床は黒光りのするフローリングで、アンティークな家具がいくつも置いてあった。
 もともと普通の家だったのか、各部屋の壁をぶち抜いたように部屋が分かれていた。

 いつも奥の部屋の、中庭の見える窓際の席に座った。
 窓の外には、手の届きそうなところにシダなどの植物が植えられていた。
 昼間はクラシック、夜はジャズが流れていた。

 この店にはロビンとよく行った。
 トドとロビンと私の3人で飲みに行ったこともある。

 昼間、ロビンとお茶しに行ったこともある。
 彼の誕生祝いにマグカップを渡す目的で行ったのだった。
 赤っぽい粘土の上に綺麗なブルーの釉をかけてRobinという文字を抜いてあり、そこだけ下の赤い土が見えている。
 友人が近くに窯元があって注文できると言うので、オーダーメイドで焼いてもらった。

 ある晩、ロビンと2人で行って、いつもの席に座ってピザを頼んだ。
 待っている間に話し込んでいて、だいぶ時間が経ってから、いつまでもピザが来ないことに気が付いた。
 お店の人に聞いてみたら、なんと、ピザを焼き過ぎて焦がしてしまったと言う。
 私たちの他にお客はいなかったのに。
 もう一度焼いていると言うので、ビールを飲みながら待っていた。

 このときだっただろうか、彼が子供のときに亡くなったお父さんのことを話してくれたのは。
 お父さんの名前はアーロンだった。

 アーロンという名前は、高校生のときに好きだった、水野英子の少女漫画「ファイヤー!」の主人公の名前だった。
 シリーズを買い揃えて夢中で読んだものだ。

 このポゼットポットは、表参道で8年間営業していたそうだ。
 いつから8年間かわからないが、私がよく行っていたのは1989年から90年にかけて。
 外観も内観も独特の雰囲気があり、カフェの中で一番好きな店だった。
 もう一度あの店の様子を見てみたいと思ってネットで探してみたのだが、画像は見つからなかった。

 10年ほど前に、「カフェの扉を開ける100の理由」という本にこの店のことが紹介されているというのを知って、ネットの古書店で購入した。
 2006年に出版された本で、店の写真も載っていたが大した写真ではなかったように思う。
 著者は川口葉子という人で、東京カフェマニアというブログをやっている。
 この本は蔵書を大量に処分したときに手放してしまった。

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