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病み上がり・近所付き合い

 退院した週の土曜日は朝食後散歩に行って、帰ってきてから敷パッドを洗濯し、洗濯機が動いている間に、入院する前にnoteの下書きに入れておいた記事に写真を付けてアップした。
 それから洗濯が終わったので干した。
 干しているときに下でチョキチョキ音がするので見ると、斜向かいのご主人が夜顔のツルを切っていた。
 声を掛けたら、これからは枯葉が落ちるだけだから切っているのだと言った。
 うちの朝顔はまだ咲いているし、タネもついたが青いので、枯れるまで待っているなどと少し喋った。
「下りてくる?」と聞くので、「忙しくて」と断った。
 休みの日は仕事のある日にできない家事をするから忙しい。
 敷きパッドを干した後、部屋に入ってnoteの記事をいくつか読んだ。

 そろそろお昼だったが、先に掃除機を掛けてしまおうと立ち上がったら、なんだかフラフラする。
 疲れて横になりたいような、何かおかしい気がしたので、念のために血圧を計ってみた。
 すると、朝起きたときは121だったのに154あった。
 これは降圧剤を飲んだ方がいいだろう。
 買い置きのレトルトの参鶏湯があったので、ゼラチン質のたっぷりついた手羽元は苦手だからよけて(何で参鶏湯を買ったのだ?というツッコミが聞こえてきそうだが)、ご飯を少し足して温めて食べ、降圧剤を飲み、畳んだ布団をまた押し入れから出して敷いて寝た。

 血圧が150台に上がることは月に1度や2度はあるので、この具合の悪さが何だかわからなかった。
 眠れなかったが1時間ほど寝て、少しは気分が良くなったかなと思ったとき、玄関でチャイムが鳴った。
 起きて玄関へ行って、ドアの内側から「どなたですか?」と聞いたが返事はなく、ドアを叩く音がする。
「どなたですか?」
 もう1度聞いてみた。
 最近は高齢者が押し入ってきた賊に襲われる事件が相次いでいるので、誰が来たか確認しないでドアを開けないようにしている。

 返事がないのでもう1度大きい声で「どなたですか?」と聞くと、女の人の声が聞こえた。
 誰だかわからないがドアを開けると、1階のCさんが立っていた。
「キーウイ好き?」
 と聞きながら、紙の手提げ袋を差し出した。
「好きだけど」
「たくさん届いたんだけど、うちの娘はアレルギーがあって食べられないのよ」
 袋の中にはキーウイが3個入っていた。
「キーウイのアレルギー知ってるわ。怖いのよね。人によってはアナフィラキシーショックを起こすんだって」
「5個持ってこようと思ったんだけどさ」
「いいわよ、3つで」
 そんなにもらっても食べ切れない。温州みかんもあるし、バナナも届いたばかりだし。
「Mさんも果物好きよ」と教えてあげた。
 3階に上がっていくのが大変だとCさんが言うので、
「電話して、取りにきてって言えばいいのよ」
 と言ったが、Cさんはスマホを持ってきていないし、電話番号も知らないと言う。
「私が掛けてあげるから、ちょっと上がって」
 そう言って、上がってもらった。

 Cさんは髪の毛をショートカットにしているが、いい形にカットしてある。
 髪の毛の量も多い。
 私は今年になってからいやに抜け毛が多くて、このまま行くとかつらをかぶらなくてはならないんじゃないかと心配している。
「いい形にカットしてあるけど、どこの美容院に行ってるの?」
「自分で切るのよ」
「えー!? 自分で切ってるの? 器用ねぇ」
「そぉお? 自分でちょちょっと切ってるの」
「よくそんなに上手に切れるわね。美容師の資格を持っているわけでもないんでしょ?」
「全然」
「髪の量も多いし」
「私は髪の毛が細いんだけど、量はあるのよ」
「私もそうだったの。髪は細いけど量は多いですって、昔、美容師さんに言われたことがあるわ」
 それなのに、最近は抜け毛が多くて髪が薄くなっている。

 器用と言えば器用な人はいるもので、髪の毛を後ろで1本の三つ編みにするのに、頭の上の方から脇の髪を少しずつすくって三つ編みを作り始め、頭に三つ編みパンがくっついているみたいなヘアスタイルにする人がいる。
「うちの娘はそれをするのよ。器用なの」
 とCさんが言うので、
「私にはできないわ。無器用なのね。でも、手先は器用なところもあるのよ」
 と、編み物が得意だったことを自慢した。

 毛糸でワンピースやカーディガンやガウンを編んで着ていたこと、母や父や叔父にもベストやカーディガンを編んであげたこと、極細毛糸で母に和装のショールを編んだことなどを話し、実物を押し入れから出してきて見せた。
 ショールが薄紫色だったことから色の話になり、写真アルバムを開いてカナダ旅行ですみれ色の服を着て撮った写真や、iPadに保存してある手編みのワンピースやおそろいの帽子の写真なども見せた。
 Cさんが私の手編みのワンピースを見て素敵だと言うので、それをどういうふうに着こなしていたかも話すと、「わぁ、ファッショナブル!」と言われた。
 ほめられて嬉しくなり、Mさんに電話することはそっちのけで、あれやこれや話に花を咲かせた。

 結構長いこと喋っていて話は尽きなかったが、いつの間にかもう暗くなってきていたし、Cさんは鍵をかけてこなかったから帰ると言って帰っていった。
 私は時計を見なかったが、後でCさんから2時間も喋っていたと聞いた。
 どおりで、Cさんが帰った後でどっと疲れが出て、また寝てしまった。

 翌朝、病院からもらってきた書類を見たら、
 ・数日間はできるだけ安静にしましょう。
 ・「力仕事」「冷え」「長時間の同じ姿勢」を避けましょう。
 と書かれていた。

 退院した翌日に仕事に復帰して、朝10時から夕方5時まで長時間同じ姿勢でいた。
 翌日は自転車でスーパーに行ったり、物を片付けたり、料理をしたり、1日中立ち働いていた。
 その翌日も翌々日も仕事していた。
 全く安静になどしていなかった。
 具合の悪さはそれでだったのだろう。

 そう思って、日曜日もゴロゴロしていることにしたが、やっぱり少しは用をしたり、ざっとだが掃除もしてしまった。
 お昼頃、Mさんに電話してらんさんからの紅茶を取りに来てもらった。
 玄関で立ち話しだが、ここのうちは湿気が多くてなどという話をしていたら、Cさんがやってきた。
 Mさんにもキーウイを持ってきたのだが、ドアの外から声が聞こえたのでうちのドアをノックしたらしい。
 その場にMさんがいてちょうど良かった。

 Cさんは1階だから自分は階段を使わないのに、マンションの階段の掃除をしてくれる。
 2ヶ月ほど前にもきれいになっていたので、土曜日にキーウイをもらったときにお礼を言った。
 MさんにもCさんがときどき掃除してくれて、Mさんのドアの前からずっと下まで掃いてくれるのだと教えたので、Mさんもお礼を言った。
 Mさんは大家さんがやっているのだと思っていたそうだ。

 ここの大家は以前は年末に廊下と階段を掃きにきたが、掃きおろしたゴミを門の脇の、私がムラサキカタバミを植えた鉢の中に捨てていった。呆れてものが言えない。
 それも2年前までで、去年もおととしも掃除に来なかった。
 Cさんは私が足が悪くて階段を掃きおろせないので、年末だけではなく、ときどき掃いたり掃除機を掛けてくれる。
 自分は使わない階段なのに申し訳ない。
 階段の隅にほこりが溜まったり、蜘蛛の巣がかかっていたりするので、掃除してもらえると助かる。

 3人で町会費がどうとか、町会費を集めにきていた角の家のおばあちゃんが去年亡くなったとか、回覧板がどうとか話していて、また時間が経ってしまいそうになった。
 ときどき3人でお茶しながら情報交換しましょう、と言ってお開きにした。

 水曜日の朝、ゴミ出しに行って戻ってきたら、斜向かいのご主人が鉢植えの割れた鉢を片付けていた。
「入院していたんだって?」と聞くので(奥さんには1週間ほど前に話してあった)、ちょっと立ち話。
 立ち去りぎわに、「何かあったら呼んで」と言ってくれた。
 近所にこういう人がいると心強い。
 これからも近所付き合いを大事にしていこう。


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