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会社の忘年会

 コロナになってから会社の忘年会には出席していなかった。
 今年もパスするつもりでいたら、Aさんがタクシーで迎えに来ると言った。
 私が歩いて行くのが難しいから出ないと言っているのだと思ったらしい。
 それは場所によるので、駅から5分程度のところだったら歩いて行くのは問題ないが、夜9時過ぎたら眠くなるから行きたくない。
 そう言ったら、じゃあ、3時から始めようと言う。
 3時なんて、お昼ご飯の後だし、そんな中途半端な時間に物を食べたら夕飯が食べられなくなるんだけど。

「何がいい?」 と聞くので「蟹が食べたい」と言ったら、「じゃあ、あの店にしよう」と即座に言った。
 6〜7年前に品川のマッドクラブの店で忘年会をしたことがある。
「シンガポール・シーフード・リパブリック」という店で、マッドクラブ(泥蟹)という大きな鋏を持った蟹を、黒胡椒やチリの効いたソースで和えてある。
 手も口の回りもベタベタになるが、食べ始めると無心に食べてしまう。
 コロナになってからも、みんなはもう一度そこで忘年会をした。私は行かなかったが。

 子供の頃、我が家では暮れになると新巻鮭と毛蟹を買うのが恒例になっていた。
 新巻鮭は切って塩焼きにしたり、カマのところは鍋にする。
 毛蟹は大晦日に母がさばいて、みんなで食べた。
 父はもう正月気分で、紅白を見ながら一杯やっている。
 母だけが台所で忙しくおせちを作っていた。

 毛蟹なんて、もう何十年も食べていない。
 お正月用に冷凍のズワイガニやタラバガニを買ったことは何度かあるが、毛蟹とは味が違う。
 毛蟹は食べたくても自分ではさばけないので、買ったことがない。

「マッドクラブじゃなくて、毛蟹が食べたい」
 Aさんにそう言った。
「じゃなきゃ、蟹尽くし」

 もう30年以上前になるが、北海道へラベンダーを見に行った。
 富良野で一泊したホテルの夕食が蟹尽くしだった。
 かにの天ぷら、かに酢、かにの刺身、かに鍋などなど。

 銀座7丁目の博品館の近くに「かに道楽」という蟹専門の店があるので、一度行ってみたいと思っていると言うと、Aさんが、「じゃあ、かに道楽にしよう」と言って、忘年会はそこに決まった。
 そこまで言われたら出席しないわけにはいかない。
 銀座7丁目の「かに道楽」なら新橋駅のすぐ近くだから、タクシーじゃなくても行かれる。

 早速Mさんが予約しようとしたら、暮れはもう予約が一杯だそうでできなかった。
 それで、銀座4丁目の「蟹長者」になった。毛蟹はないけど蟹三昧ということで。
 駅のすぐそばだからタクシーのお迎えは不要だが、帰りの電車が混んで席に座れないと辛い。
 そう思っていたら、私が言う前にAさんが帰りはタクシーを呼んでくれると言った。
 至れり尽くせりで有り難い。
 3時じゃなく5時から7時になったので、いつもの夕飯の時間と同じで生活のリズムも乱れず都合がいい。
 忘年会には九州のサポート担当の技術者も飛んでくることになった。

 それなのに、私は週の初めから胃が痛くなり、漢方胃腸薬を飲んでいたが、食欲はなく、無理して食べたらお腹が下ってしまった。
 忘年会の前日は朝食抜きにしてみたが、昼食も夕食も食べると胃が痛くなった。
 当日の朝も痛かったので、昼食はおっかなびっくりトーストと具のないポタージュで軽く済ませた。

 年末の仕事の忙しさに加えてプライベートでもすることが多いので、あれもしなきゃこれもしなきゃというのがストレスになったのかもしれない。
 特に仕事は神経を使うし、前もって段取り良く準備しておかなくてはならないことが多過ぎる。
 忘年会が終わって休みに入ったら、胃の痛みはピタッと治まったので、おそらく私の性分が原因だと思う。

 当日は久しぶりにみんなの顔も見たいから忘年会に行ったが、食べずにみんなが食べるのを見ているつもりで、マイボトルにお白湯を入れて持っていった。
 私の分はほとんど全部、隣に座ったサポート担当の技術者Oさんと、Aさんにあげた。
 私は蟹酢と、甘エビのいくら和えと、松前漬けをほんの一箸味見して、茶碗蒸しを食べただけ。
 蟹の天ぷらとほぐした蟹を混ぜたご飯は持ち帰り用に包んでもらった。

蟹酢 味見してAさんに。


前菜:  松前漬け、あん肝(最中の皮に入っている)、甘エビのいくら和え。
松前漬けは味見してMさんに、あん肝と甘エビはOさんに。


お造り盛り合わせ
これもOさんに。


ずわい蟹の天ぷら
持ち帰って、翌日の昼食に。


牡蠣の蒸籠蒸し
1人2個ずつだが、私は貝類が苦手なのでAさんにあげた。


デザート:  ゆずのシャーベット、りんご、和菓子。
笹餅みたいなのは、葛でカスタードクリームを包んだ葛桜のようなもの。これは持ち帰って食べた。
シャーベットとりんごはOさんに。


 蟹味噌甲羅焼きと蟹の混ぜご飯と茶碗蒸しは写真を撮り忘れた。
 混ぜご飯は帰ってから食べたが、他の料理は全部食べたら塩分取り過ぎになってしまうし、第一食べきれない。
 OさんやAさんは人の分までよく入るものだ。
 大きな胃袋が羨ましい。

 私は向かいにMさん、隣にOさんが座っていたので、普段あまり話す機会のないMさんと話ができて良かったし、Oさんとも話が弾んで楽しかった。
 あっという間に2時間経ってしまい、Aさんが、「タクシーが来たから」とスマホを片手に席を立って教えに来てくれたので、急いで支度してみんなに挨拶して帰った。

 他の人たちはまだ残っていたが、あの後すぐに終わったはずだ。
 帰りに日比谷のイルミネーションを見に行くように言っておいたので、みんなで見に行ったのではないだろうか。
 私も行きたかったが、銀座4丁目から日比谷までは足が耐えられないので行かなかった。
 Mさんに、Oさんを連れて行ってあげてと頼んでおいた。
 滅多に東京に来ることはないし、ちょうど良い機会だからクリスマスシーズンのキラキラを写真に撮ったらいいと思って。
 Oさんも、写真を撮って家族に「見せびらかします」と言っていた。
 年明けに仕事が始まったら、私もメールに添付して送ってもらおう。

 外に出ると銀座は人が多く、タクシーも多く、どれが私の乗る車かわからなかったが、Aさんが先に立って探してくれた。
 タクシー料金もAさんが払ってくれたので、私はのんびりと乗って帰ってきた。
 とても楽しかったし、途中でお腹も痛くならず、良い忘年会だった。
 行って良かった。


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