『必殺仕置人』:メモ/第17話「恋情すてて死の願い」

(本編でのタイトル表記は「恋情すてて死の願」になっている。最後の「い」がないのだ)
監督:長谷和夫

錠「割と手間食ったな」
鉄「楽して儲かる仕事はそうザラにあるもんじゃねえ」
(人の気配に身を隠す二人。相手が主水だと気づいて)
鉄「おめえか、びっくりするじゃねえか!」
主水「なんだ、お前たちか。今頃、どうしたんだ?」
錠「仕置きを済ましてきた」
主水「例のババア、ぶっ殺したか?」
鉄「分け前貰おうか。そのために出張ってきたんだろ?」

…という会話を「書付泥棒」の姉妹に聞かれる。逃げる二人に主水が石を投げつけると、姉のくるぶしに当たる。姉を捕まえた三人は、口封じに「始末」するつもりだったが、誰もやりたがらず、結局は殺さない(ただし、廃船の隠れ家に監禁する)。

*錠が(妹の成仏のためにも)良かれと思って渡した本物の念書が、姉の命を奪うことになる。

*このエピソードでは仕置きは依頼されていない(番組としては、オープニングの「ババアの仕置き」で「依頼された仕置き」は済ましている?)。

*鉄「今、巷で評判の仕置人だ」。
逃げようとする与力の首に紐を投げて巻きつける鉄(後の「三味線屋の勇次」の原型?)。鉄が紐を使うのはこれが2度目。1度目は瓦版屋のエピソードのとき。別の場所では清七の鉄砲の弾を避けた錠が、恨みを込めて何度も清七を刺す。錠が鉄砲を相手にするのもこれが2度目。1度目は、怪力男とお犬様のエピソードのとき。

*今回仕置きされるのは与力と清七だけなので、堺屋たちは罪を免れたように思いがちだが、それは違う。主水が念書を与力から「買い取って」いるので、これを主水が証拠として提出すれば、堺屋たちはオモテの仕置きを受けることになる。

「残酷」って言葉がアタマに浮かぶエピソード。それも色々な種類の「残酷」。人間同士の関わりは結局全て「残酷」なのか、という気分になる。

【ちょっとしたモヤモヤの考察】

今回の悪巧みの中身は、与力とグルの清七が、但馬屋の娘たちを唆して「念書泥棒騒ぎ」を引き起こすことで、5年前に「火付け」を企てた堺屋たちを慌てさせ、与力が預かっている念書を、堺屋たちに高値で買い取らせようと目論んだ、のはずなのだが、最後にもう一波乱あったせいで、「本当はどっちなのか」が分からなくなる。

(A)
5年前:堺屋が、但馬屋の番頭だった清七に、但馬屋の火付けを依頼する。このとき作られた堺屋たちの「念書」が、のちの不幸の元になる。与力の協力もあって、堺屋たちの目論見通り、但馬屋は火付けの濡れ衣を着せられて処刑される。但馬屋の妻は首を吊り、姉妹は江戸を離れる。

(B)
半年前:但馬屋の姉妹が江戸に戻ってくる。父親の身の潔白を晴らそうという妹の発案で。

(C)
三ヶ月前:清七は姉妹と偶然再会する。おそらく、このとき、姉妹が江戸に戻ってきた動機を知り、「協力」を装って、書付泥棒をやらせた。念書を手に入れて、訴え出れば、父親(但馬屋)の身の潔白が証明されて、逆に、堺屋たちを罪に問うことができる、というのは、おそらく清七の入れ知恵だろう。

(D)
清七は、堺屋たちが与力にあずけていた念書を「買い戻そう」としていることを姉妹に教える。しかしこれは罠で、一人で乗り込んだ妹(姉は足の怪我で動けない)は、待ち伏せていた与力の手下たちに斬り殺される。その上、命がけで奪った念書も、あらかじめ与力が用意しておいた偽物だった。それを知った錠が本物の念書を与力から奪い取って逃げる。

(E)
錠に念書を奪い取られたあと、清七は、堺屋に千両を要求する。千両を払えば、但馬屋の娘が念書を持って奉行所に現れても、与力がその訴えを握り潰してくれる手筈になっている、と。

「本当はどっちなのか」というのは、つまり、(D)と(E)で、清七の振る舞いに矛盾があるように見えるから。(E)の清七が、なかなかの「頭の切れる大悪党ぶり」を見せるので、清七は最初からこの「千両要求」を企んでいたかのような印象を持ってしまうのだが、どうやら、そうでもないらしい、いや、それとも、という混乱。

清七は与力とグルなので、罠だと知った上で、姉妹に情報を渡したことになる。つまり、清七の目論見では、姉妹はあそこで斬り殺され、念書は与力の手元に残る。それで但馬屋の因縁にはケリが付くし、世間を騒がせている「書付泥棒」騒動も解決。その上で、念書は堺屋たちに高額で買い取らせて、万々歳という段取りだった。しかし、ここで「想定外」のことが起き、念書を(錠に)奪われてしまう。念書を姉が持っていることを知った清七は、更なる悪知恵を働かせる。それを持って与力のところへ訴え出るように薦め(もちろん罠)、その一方で(E)のようなことをやる。つまり、「念書が奪われる」という「想定外の事態」を利用して、買取額を「千両箱一つ」に吊り上げた格好。

しかし、そもそもこの「買取額の吊り上げ」は、「想定外」への対応や「怪我の功名」などではなく、当初からの計画としてやればできたこと。つまり、堺屋たちが与力から念書を「買い戻す」あの場所で罠など仕掛けずに、「おとなしく」姉妹に念書を奪わせておいた方が、清七も、清七とグルの与力もずっと「得」のはずなのだ。風呂敷に収まる程度の小判ではなく、「千両箱一つ」を要求できるのだから。なぜ、あれほど悪知恵の働く清七がこんな簡単なことに気づかずに、(D)で姉妹を殺そうとしたのか理解に苦しむ。

いずれにせよ、(D)が清七と与力の当初の計画だとしたら、錠はまったく余計なことをしたことになる。姉が念書を手に入れたことで、清七が「千両箱一つ」の悪巧み(E)を思いつき、それがために、死ななくても良かった(かも知れない)姉まで殺されることになったのだから。


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