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世界こわい話ふしぎな話傑作集 19『古い屋敷に残された話』

 最近、昔読んでいた子供向け怪奇小説集を図書館で借りて読書記録を書くということをやっています。今回読んだ第19巻はアイルランドのレ・ファニュが書いた作品が2つ収録されています。これより前に読んだ巻にも同作者の短編が載っていましたが、おしなべて幻想的な作風と繊細で豊かな風景描写が持ち味だという印象です。どの話にも教訓的な要素が含まれているのが特徴で「怖い、不気味、訳が分からない」という感じではなく「なるほどねぇ」としみじみする読後感が得られます。まぁ、子供向けのシリーズなので敢えて教訓的要素のある作品を選んで収録したのかもしれません。

  1. 『トビーをさらったのは、悪魔か?』…美しい自然に囲まれた小さな町が舞台です。かつてトビーという不良っぽい男が仕事をほっぽり出してどこかへ行方をくらましたのですが、12年後ひょっこり町へ帰ってきました。40歳になったトビーは若いころとはうって変わっておとなしくまじめな物腰で、ひどくやつれていました。町の人たちは昔の彼の素行を水に流して優しく迎え入れ、教会の鐘つきと墓地の仕事を与えました。トビーの働きぶりは真面目でしたが、無愛想で人と話そうとしないので評判は良くありません。日が経つにつれて、町の人々は「一体ここにいない間なにをしていたんだろう」「あいつの人相はよくない」「よからぬことをしていたという噂をきいたぞ」などと言いあうようになります。トビーが改心したのだと信じている教会の牧師だけは、証拠もないのにそんなことを言ってはいけないと皆をたしなめます。結局のところトビーは改心などしておらず、町内の貴重品を盗みまくったあげく教会の鐘まで盗み運搬中に足を滑らせ事故死します。で、埋葬前の遺体を保護しながら酒場に集う人々が「悪人が死ぬと、悪魔が連れにくると言うぜ」などと話しているところへ不気味なよそ者が訪れ、仕方なく宿を提供したところ怪しげな行動を色々したあげくトビーの遺体を担ぎあげ人間離れした動きで去ってしまいます。やっぱりあれは悪魔だったんや~。悪いことをすると死んだあと悪魔に連れていかれるんやねぇ~。という話でした。話の筋はシンプルですが、町へ帰ってきたばかりのトビーが本当に改心したのかな?まだ悪いこと考えてるんじゃないの?と読者が疑心暗鬼になるような描写や突如現れたよそ者の不気味な表現がうまく、話にひき込まれました。

  2. 『古い屋敷に残された話』…大地主のマーストンが急死し、遺言により次男が後を継ぐことになったのをきっかけに長男と次男による骨肉の争いが繰り広げられます。次男は長男を追い出し忠実な執事と屋敷に残るのですが、次第に憔悴し健康を損ない「屋敷になにかいる」「変なことが起きている」などと怯えるようになります。どうやら、やましい隠し事があるようなのですが……。家族間の微妙な人間関係、和解して丸くおさめたほうがいいんだろうなと薄っすら思いつつも顔を合わせると欲に駆られ激しくいがみ合ってしまうやるせなさ、良心と利己心の葛藤が大変読み応えありました。

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