感想『犬神家の一族』

小説のほうです。私のように謎解きや推理小説に苦手意識があったり馴染みがなかったりする人でも楽しく読めるのではないかという印象を持ちました。とにかく話運びが巧みで情景描写のテンポとバランスがよく、登場人物たちの感情のやりとりや場面転換に惹きつけられているうちに最後まで辿り着いて、素直に「うわーおもしろかった!」という読後感が味わえます。
身寄りのない貧しい身から一転、事業で大成功を収め巨万の富と名声を築いた犬神家の総帥が年老いて臨終の床についている場面から始まります。彼の子供たちとその配偶者や孫といった親族が大勢集まっていますが、その間柄はかなり複雑で、遺産の分配を巡って表面上は静かに、しかし激しく対立しているため猜疑と憎しみと焦燥の空気が充満してピリピリしています。後に公開された遺言状は驚くべき内容で、それを発端に惨劇が幕を開ける……といった流れです。
遺産をめぐって憎み合い激しく対立する人たちの様子は毒々しく読者としては鼻白むような気持ちになりますが、犬神家の成り立ちや事件の成り行きを見ていると次第にそれぞれの登場人物たちに同情まではいかないけど(なにせ性格がキツい曲者揃いだし、とくに一部の人たちは過去にかなり非道な行いをしていたことが判明する)彼らの置かれた立場なりに苦心して生き抜こうとした結果なのかなとしんみりさせられます。
あと、創作の恋愛描写には興味が持てないことが多いけど、幼い頃の珠世と佐清が時計の修理をめぐってやりとりをする場面は「いいなぁ〜……なんかいいなぁ〜!!」とテンションが上がってしまいました。この小説は色恋関連の描写もしつこくなくて読みやすかったです。ほかの横溝正史作品も読んでみたくなりました。

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