ネタばれあり感想・三津田信三『怪談のテープ起こし』『のぞきめ』『みみそぎ』
ホラー小説です。最初に断っておくと、文句を言いつつも三津田信三が書く怖い話は(もちろん作品にも依るが)わりと好きです。この三作を挙げたのは、最近たまたま目について読んだからです。面倒なので感想を書くにあたって改めて本を開いて細部を確認などはしません、今頭の中に残っている印象だけで書きます。
『怪談のテープ起こし』
今回読んだなかでは一番好きです。自殺者の遺言音声をかたっぱしから集めて書き起こして本にしようとしている悪趣味なライターがおかしくなって失踪するという導入にまず引き込まれるし、色んな人の怖い体験談を集めているうちに「別々の話だと思ってたけど、妙に繋がってないか?」と読者の不安を高めていく手腕が鮮やかです。自殺を試みるほど追い詰められた人間に対し、仏教やキリスト教といった宗教が実際のところどれほどの助けになるのかといった点に少し触れられているのも気に入りました。私が三津田信三の作品で苦手とする、自身の過去作についてあれこれ列挙するパート(+自称ファンの編集者による称賛付き)や古今東西の怪奇小説について知識や持論を披露するパートが今回はあまり無かったのも読みやすく感じた要因だと思います。怖い現象を比較検討するうえで必要だから書いているのは分かるんだけど、あまりにも詳細にわたり長く書かれるとしらけて怖さが薄れてしまうし、私がひねくれた性格なので「そのなんちゃらっていうシリーズ物の過去作も読めってか?」と反発してしまいます。
『のぞきめ』
夜部屋にひとりでいるとき隙間や暗闇から何かが覗いていたら怖いなぁと想像して怖くなってしまうのは人間あるあるだと思いますが、この話はそれです。序章→山奥の貸し別荘地でバイトした4人の若者が遭遇した怪異→ある民俗学者が若かりし頃いわくつきの村で体験した恐怖の記録→謎解きパートという構成です。怖くて良いのですが、民俗学者のパートの途中まで読むとだんだんホラーよりミステリー要素が強くなってきてるなというのが気になります。その謎解きと真相解明のくだりも、読んでて少し強引じゃない?と思う箇所があったり、語り手の民俗学者の言動が図々しくて(縁の薄い葬式続きの家に好奇心から延々宿泊するなど)私立探偵かよと突っ込みたくなりました。おもしろいからいいけど。
『みみそぎ』
聞いたのを後悔するほどめちゃめちゃ怖い怪談があってなー、と誰かが語る話のなかにまた「私は途轍もなく怖い話をしっているのですが」と語りだす人物が出てきて……という流れをひたすら繰り返す入れ子構造になってる作品で、いわゆるメタ&ループものです。小松左京の『牛の首』を知ってるとよりおもしろいかもしれないです。その後の筆者たちによる解明パートもあれこれ考えてはみたもののやっぱりよく分からないで終わるので、茫洋とした不気味さが残るという点ではおもしろいです。ひとつのエピソードにのめりこんできたタイミングで話が切り替わってしまう、というのがひたすら繰り返されるので読むときのコンディションによってはめんどくさく感じるかもしれません。私は読んでいる途中でこれループものかぁと気づいた瞬間めんどくささが怖さを上回ってしまいました。また、本作品では怪談の話し手が切り替わるごとに書体が変わるという演出がされているのですが、書体によっては読みづらくてそれも怖さから気が逸れた要因かと思います。出てくるエピソードはどれも雰囲気たっぷりで怖いんだけど。
以上が感想です。怖い話によくある演出としてこれらの作品にも「この話を知ってしまった読者のあなたも怖い目に遭うかもね」という脅し文句がありますが、読んだら呪われる系の怪談を昔から読み漁っている私に特に異変がないので大丈夫です。安心してお読みください。
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