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読書記録『ロシア点描』小泉悠

大学図書館の一画にロシア・ウクライナ情勢コーナーがあって、その中で目に付いたので借りた本。著者はロシア軍事が専門で実際にロシアで生活し人々の暮らしをみてきた経験がある人物で、テレビ番組やYoutubeでロシア情勢についてわかりやすく解説しているのを見聞きしたことがある。

PHP研究所、税別1,600円


 ポップな表紙のとおり、かなりとっつきやすい構成になっている。初版の発行は2022年5月となっており、ロシアとはそもそもどんな国で、一体何を考えて無茶な戦争をしているのか知りたいという世間の需要に応えて作られた本なのだろう。著者あとがきに「やたらとロシアを異質な怖い他者として見ていても仕方ない」「国家と民衆の関係をなるべく柔らかく、理解しやすいように努めて書いた」とある通りの内容だ。

第一章 ロシアに暮らす人々編
第二章 ロシア人の住まい編
第三章 魅惑の地下空間編
第四章 変貌する街並み編
第五章 食生活編
第六章 「大国」ロシアと国際関係編
第七章 権力編

という章の並びで、まず民衆の気質や傾向を具体的な生活描写を通じて書き起こし徐々に「そういう国を政治家はどうやって動かそうとしてきたのか」という視点から政治や外交の話にシフトしていくので、政治の話は難しいから苦手だなぁという人でも(私がそうである)無理なく読み通せるのではないかと思う。第六章・第七章でプーチンが国家や民衆をどのようにとらえているのか、他国のことをどう考えているのか分析しているところが特におもしろかった。今までニュースを見ても「プーチンはひどいことをする」「マジで気がくるってんじゃないの」という感想にとどまっていたのだが、こういう背景や経緯があってこんな行動に出ていると考えられる、という解説が丁寧にされているので理解が深まった。理解が深まったことで、いよいよ抜き差しならない切迫した状態にあるんだなという暗澹たる気持ちも強まったが。

 本書159ページ目にあった文章が特に印象に残っているので引用しておく。
「しかし、国家間の関係性というのは、もっと曖昧な場合もあります。協力できるところでは協力するけれども、同時に利害対立も抱えており、あるいは都合が悪くなったらあっさり見捨てる。NATOとか日米同盟のようなカチッとした関係性はむしろ少数派で、こういう変幻自在の関係性の中で生きている国のほうがむしろ多数派なのではないでしょうか」

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