最近のキャンプでたばこを吸わなくても大丈夫だった話
私が鬱状態に苦しんでいた時期でも、夫は私を容赦なくキャンプへ連れ出した。辛くてもとにかく少しでも体を動かせば徐々に世界に体が馴染んでくる、というのが夫の持論である。張り倒してでも、引きずってでも、というのでは無かったが私が同行を拒否するとしばらく不満そうな態度をアピールして私が家で過ごしづらくなるようなプレッシャーを掛けてくるのでそれが嫌な私は同行せざるを得ず、実質強制であった。鬱がひどかった当時はずいぶん文句を言いたかったし、鬱闘病エッセイなんかに出てくる所謂「理解のある模範的なパートナー」像からやや逸脱した言動であったと思われる。しかし、今振り返るとそうした夫の振る舞いが一概に悪かったとは言えないなとも思う。自分の調子が悪い時に非の打ちどころが無いような理想的対応と優しさに包まれるより、多少心身に負荷がかかるような事柄に見舞われなんとかそれに対処することで生きる力を養える、みたいな面もあるのかもしれない。完全に休んだほうがいいフェーズ、すこし心身に負荷をかけたほうがいいフェーズの見極めは重要だが。
鬱状態でキャンプに連れ出されるときは、しんどさを紛らわせるためにキャンプファイヤーで煙草を吸っていた。私は若いころイキッて煙草に手をだしたのだが習慣化には至らず今は一年に2~3本吸うか吸わないかぐらいの状態で、ではどういうタイミングで吸うのかというと、気が休まらない旅先とかこういう気乗りしないイベントとかで気を紛らわせるためにふかすことにしていた。夫は根っからの煙草嫌いだが「しんどいなか仕方なくついてきたんだし、これぐらいいいよね!?」と睨むとこの時ばかりは文句を言わずに黙っていた。今年5月、久々にキャンプに出掛けた。この時になると私も少しずつ元気になってきていたので夫に言われて「いいじゃない。私焼肉食べたい」ぐらいの返しをする余裕があった。鬱の時は死ぬほどつらく感じた荷づくり・テント設営補助などの作業も気軽にこなせたので、やっぱり多少調子よくなってきたのかな?ぐらいの感じだった。夫は久しぶりのキャンプで浮かれたらしく16時の時点から酒を飲み始め、夕方の時点で自分用のハイボールやらチューハイやらを飲みつくしてしまい、私のぶんまで飲み干した挙句「もっと持ってくるんだった」と何度もぼやくのでうざかった。更に酔いでごきげんになってきたらしく「山の手線ゲームしようぜ」「お題はヘビの種類ね!」と強引に自分の得意分野に持ち込み、私はヘビに詳しくないので3、4種類言ってギブアップしたら「ええ~!?それだけ!?」「〇〇(なんか知らんけど異国のヘビの名前)も知らないのお!?」とイキッて一人でいっぱいヘビの名前を言って得意顔をしていてイヤだった。
「そういえば今回のキャンプはたばこ無しで乗り切れたな」と気づいたのは、帰宅後の荷解きでリュックサックの奥底から出てきたアメスピの箱を見た時であった。
終わり