春、三月(ここで二拍おく)

 小学生の頃、三月になると卒業式の予行演習と称し在校生一同が卒業生に向けはなむけの口上を述べる練習をさせられたものだ。今もあるのか分からないが、(代表者)六年生のおにいさんおねえさんご卒業おめでとうございます(全員で声をそろえて)「「「「おめでとうございます!」」」」
みたいなやつだ。授業を何回かつぶしてまでこれの練習をさせられた記憶があって、一連のスピーチの出だしが「春、三月」であったこと、指導する教師がリズムをとるために「では始めますよ……春、三月(ポンポン)」と手拍子を交えながら声を張り上げていたことが印象に残っている。
 思いがけず親しくなって一緒にお茶を飲んだりするような仲になれた人がいるのだが、この春就職で他県に引っ越すらしい。少しさびしいのだが、日本のあちこちに知り合いがいると旅行が楽しくなりますねとその人は語っていたのでものは考えようだなと思った。
 ネットなんかで通称「善意のはやにえ」と呼ばれているもの・行為がある。道端に落ちている帽子や手袋やキーホルダーなど、交番などに届けるのは億劫だけど路傍で汚されるがままになっているのも忍びないという通行人の心理から植え込みの枝やフェンスなどに引っかけてあるものの総称である。私はあれを見かけると微笑ましい気分になるのだが、twitterで「偽善の発露って感じで気に食わない。届ける気概のない奴がいいことをした気分を手軽に味わいたくてやってる」と呟いている人がいて受け取り方は人それぞれだなとおもしろかった。大学構内を歩いていたら善意のはやにえを立て続けに二件見かけて、一件目は握りこぶし大のぬいぐるみストラップで二件目はお守りだった。いずれも木の枝に引っかけてあった。ぬいぐるみのほうはまだ綺麗で落として間もないことが窺え、早く持ち主に気づかれるといいねと思った。お守りのほうは受験生が持っていたもので(ちょうどキャンパスが試験会場となった直後の週だった)、後日入学してきた人が落とし主でこのお守りと感動の再会を果たしたりしたらおもしろいのにな~……と想像した。
 日々こんなことを空想するのに忙しく、有意義なことをする時間がありません。敬具。

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