起き上がれない踊り場[実話怪談③]
これは、大学入学したての4月の頃の話です。
私が住む沖縄は、その頃すでに暑くなっていた記憶があります。
まだ高校を卒業して1ヶ月程度
環境が変わっても、大学の授業が終わると
当たり前のように高校時代の友達と一緒に過ごしていました。
免許を取った友達の運転で、
高校時代ではなかなか行けなかった場所へ深夜に行くことも増えてきて、
行動範囲が広がり、楽しさも倍増していた時期でした。
私を含めて4人の女で、その日はドライブをしていました。
だいぶ遠出になり、時間は深夜1時を過ぎていました。
友人Aが
「ね〜!あの有名な心霊スポット行ってみない!?4人なら怖くなさそうじゃん?」
と言い出すのです。
私は正直嫌でした。初めてみたお化けの衝撃がまだ脳裏にこびりついていたので。(実話怪談①の記事参照)
私「やだよ。怖いもん」
と口に出すものの、他のメンバーは乗り気で、
助手席の私に拒否権はなく心霊スポットの目の前まで車は到着していたのでした。
「そんなに嫌なら、車で待っててもいいよ!」と言われましたが、
辺りは真っ暗で、それこそ出てきそうな雰囲気が漂っていました。
「帰る」という選択肢が取れない状況で、私は一人でいるより四人でいることを選びました。
私たちが行った心霊スポットはすごく有名な場所でした。
現在は取り壊されていますが、昔は米軍の利用施設だったようです。
その利用施設が廃墟となり、心霊スポットと呼ばれるようになっていました。
そこでは
「ダンスホールで火事があり何名もの人が焼死した」という噂や
「肝試しにきた学生が行方不明になり、翌日血だらけの遺体で見つかった」
「ベトナム戦争時代は米軍の遺体一時保管場所だった」
など、様々な噂が飛び交っていました。
今考えると、そんなところに18歳の女の子4人で行くなんて…(笑)
お化けももちろんですが、深夜の廃墟にいる人間なんてまともな訳がないのです。(私たちも含む)
事件に巻き込まれなくて本当によかった。
廃墟の中に入ると空気が一気に変わった気がしました。
カラッと暑かった外の気温が、生ぬるく、じとっとベタつく不快な感覚でした。
廃墟の中は荒れ果てており、ライトで照らすとゴミだらけで壁は埋め尽くされるように落書きだらけでした。
私は1番後ろを歩き、友達の肩に両手を添え、友達のうなじばかり見るようにしていました。
しかし、人間というのは不思議なもので、何かを踏んでしまった音や驚いた声のする場所、ライトを向けられた先を目で追ってしまい、進めば進むほど恐怖感は増していきました。
一通り見て回った頃だと思います。
暗さにも少し慣れて、ジメジメとした暑さにうんざりし、友達にしがみつくことを辞めていました
施設の構造を当時も今も全く把握していないのですが、
階段を降りていました。友人3人が前を歩き、
私はケータイをいじっていて遅れをとってしまい
友人たちとは1.5メートルか2メートルほど距離があったように思います。
ちょうど私が階段の踊り場に差し掛かった時、
先に降りていた友人たちが
「きゃああああああああ」
「いやあああああああ」
と叫びながら、私の方へ駆け上がってきたのです。
びっくりした私は、ケータイを踊り場に落としました。
パニックになりながら急いでケータイを拾い、
3人の背中を追いかけ、猛ダッシュで車へと向かいました。
車に乗り、鍵を閉めた瞬間に
息も絶え絶え、私は思わず大きな声で言いました。
「マジで何?!怖いんだけど!!やめてよ!」
友人3人は
「聞こえんかったの?!下の方から鈴の音がしてめっちゃ低い声で笑ってたよ!」
と言い出したのです。
しまいには、1人泣き出していました。
その子をよそに、私は何も見えんで聞こえんでよかったわ〜と
薄情者の極みですが帰りの車は気が抜けていました。
家に帰り、シャワーを浴びた後私はすぐに眠りにつきました。
しかし、眠りについたその後
また夢の中であの廃墟に向かっているのです。
階段で遅れをとって、歩いているあのシーンがやってきます。
友人たちが叫びながら駆け上がってくる。ここまでは一緒でした。
ただここからが違うのでした。
ケータイを拾おうとした時、踊り場で転んでしまうのです。
目の前にケータイがあるのに、うつ伏せの状態から全く動けないのです。
友人たちの叫び声が上に消えていくのを感じながら、
体を起こそう、ケータイを取ろうとパニックになっていました。
息はどんどん上がっていました。
追い討ちをかけるように絶望の事態がやってきます。
階段の下の方から
シャン…ゴン!シャン…ゴン!!シャン…ゴンゴン!!
と鈴と何かを打ちつけるような音が近づいてくるのです。
その音は、踊り場にうつ伏せに寝る私の足の方までやってきました。
姿を見たくても、首すら少しも動かせず、目を動かすものの
人が立っている影のようなものを感じるだけでした。
シャン…ゴン!シャン…ゴン!
私の下半身の辺りを囲むように歩いているようでした。
シャン…ゴン!シャン…ゴン!シャンシャン…ゴンゴン!
さっきより近くにいる気配がしました。
かろうじて見えたのは、黒い着物のような服に茶色の棒です。
どうやら「ゴン!」という音は、地面に棒をついている音でした。
また、下半身や足先の方を音を立てながら、ウロウロとされます。
見えるか見えないかのストレスで頭がおかしくなりそうでした。
歯を食いしばり、ぎゅっと目を閉じて時間が過ぎるのを待っていました。
シャン…ゴン!シャン…ゴン!シャン…ゴン!シャン…ゴンゴンゴン!!!!!
今までとは違い、明らかに大きな音をたてていました。
目を開けろというメッセージだと感じました。
目を開けると顔の前に、草履と足袋と棒が見えました。
目の前にいるのです。
私の顔は押さえつけられているのかというほど動かないので
目の前に立つ人の表情を見ることはできませんでした。
顔見えないな…と心の中で思った瞬間
地を這うような低い大きな笑い声が目の前から聞こえてきます。
続いて
目の前の男が、膝を折りしゃがもうとしているのを感じました。
男がストンと体を下にさげたであろう瞬間に私は夢から覚めました。
ちなみに私はこの夢を3日間みました。
毎回、汗だくで泣いていました。
3日目の朝に母親に
「行動範囲が広がったからって調子乗んなよ。変な場所行くな。塩なめな。」
と言われ、背中をパンっと叩かれました。
その日以降、夢を見ることはありませんでした。
それから数年後、家族で怖い話をしていました。
弟や母が一人でいる時に
玄関ドアに取り付けていたベルが閉じていた状態から
突然大きな音で揺れだし、しばらく見つめても止まる様子がないので
手で止めていたことがあったそうです。
(ベルはドアの開閉で揺れた際にしか音は鳴りません)
時期を尋ねると、私がその心霊スポットに行った時期ぴったりでした。
私のせいだ…とは思いましたが怒られるので黙っていました(笑)
心霊スポットと呼ばれるところに遊び半分で行くことはおすすめしません。
その時、姿を見ず、声や気配を感じなくても、
あなたの夢や家族の元に現れるかもしれません。