エムポックス (Mpox)
※ このNote記事は2022年8月16日に投稿したものです。現在は「サル痘」ではなく「エムポックス(Mpox)」と呼ばれている感染症に関する記事です。記事を作成した当時の情報、呼び方をもとに作成したものです。
テレビでもサル痘の国内感染者が確認されたニュースが報じられ、サル痘も注目が高まっているかと思います。例えば、https://www.ytv.co.jp/miyaneya/article/page_0tbtjwb95bv2ilbb.html のような感じでサル痘のニュースが報道されています。
本noteでは、サル痘に関する内容を紹介したいと思います。
まとめ資料
サル痘についてまとめた資料はこちらです。この資料はGithubでも公開しています。
サル痘の流行状況
サル痘は一部のアフリカ地域で新型コロナウイルス感染症流行以前から流行していた感染症です。ごく稀に感染の中心地でない欧米地域で感染例が報告されることがありました。ただ、そのような事例はサル痘流行地域に滞在歴のあった人が帰国後に発症したという事例でした。
しかし、2022年になると、特に5月以降になって、複数の感染事例が報告されるようになります(図1参照)。そして、急速に感染者数が増大したことを受けて、WHOは2022/7/23にサル痘に関して緊急事態宣言を発表しました。日本国内でも2022/7/25にサル痘の感染者が初めて確認されました。本記事を投稿する2022/8/16時点で国内で4例の感染事例が確認されています。
欧米地域でのサル痘の急速な感染拡大について、従来サル痘の流行地域といわれた地域に滞在経験のない人が感染していることがわかっています。実際、[Girometti et al., 2022]には、イギリスで確認された感染事例の87%はヨーロッパ由来であるという記述があります。
サル痘感染者の症状
サル痘感染者の症状は2つのフェーズ(Invasion Phase、Eruptive Phase)に分けられ、順番に症状が現れるらしいです。
Invasion Phase:発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、倦怠感
Eruptive Phase:全身に発疹が現れる
Invasion Phaseについては、症状は3日程度続く事例が多いそうです。ただ、その後の全身に発疹が現れる期間(Eruptive Phase)はInvasion Phaseより長いそうです。どのような発疹が現れるかは、上のまとめ資料やサル痘に関する論文([Adler et al., 2022]など)を参照してください。
特に、欧米での感染拡大については、感染者の多くがMSM(men who have sex with men:男性間性交渉者)であるそうです。[Girometti et al., 2022]
そして、そうした感染者の中には男性器や肛門の付近に発疹が現れている方もいるそうです。腕や足、手、顔面だけでなく、全身のいたるところに発疹が現れるため、適切な感染対策をとることが必要です。
サル痘の感染経路
感染症の感染経路には、接触感染、飛沫感染、空気感染(エアロゾル感染)の3種類があります。このうち、サル痘の感染経路は、感染者や感染動物の病変や血液への接触による接触感染、感染者の介護作業時の飛沫曝露による飛沫感染が主な感染経路であると言われています。
上述のようにMSMの方の感染事例が多数報告されていることから、性交渉が感染要因であるように思われますが、このような見方は誤りです。性交渉自体が問題ではなく、感染者あるいは感染の疑いのある人と近距離で接することがサル痘の感染においてが問題となっています。そのため、WHOのウェブページでは人々が集まる際に注意が必要であると呼びかけられています。「三密の回避」はサル痘の感染対策としても有効であると考えられます。
性交渉とサル痘の関係
欧米地域のサル痘の感染者の多くがMSMであるということについては、WHOのウェブページや[Girometti et al., 2022]にコメントが掲載されています。
繰り返しになりますが、性交渉自体はサル痘の直接の感染要因ではありません。性交渉の過程で感染者との距離が近いために、感染者の病変に触れてしまうことや、感染者から放出された飛沫を吸引してしまうことが問題です。(生物学的な性別が)男性の方の感染事例が多数報告されているのは事実ですが、今述べた問題点を考慮すると、女性の方は感染しにくいということではありません。男性、女性関係なくサル痘感染者と近距離で接する機会があれば、サル痘に感染する恐れがあります。
でも、男性の方、特にMSMの方の感染事例が多数報告されているのはなぜなのか?この点について、WHOウェブページには、性感染症の症状とサル痘の症状が類似していることが原因であることが一因として考えられるとコメントが掲載されています。(どのような性感染症の症状とサル痘の症状が類似しているかまでは私は確認できていません。)
文献やWHOウェブページには書かれていませんが、おそらく男性の性感染症発症者に見られる症状とサル痘の症状が類似していて、性感染症の疑いがあって医療機関を受診したら、実はサル痘であったという事例がほとんどなのでしょう。
本記事について
本記事の内容は上述の文献を読んで作成したものです。
私自身は感染症の専門家でも、感染症を専門に学んでいる学生でもありません。内容や専門用語の訳し方などに不備があるかもしれません。もし、本記事の内容及びまとめ資料に誤りがある場合は、noteのコメント機能で教えていただけますと幸いです。
本記事の内容及びまとめ資料は2022/8/13時点での情報(上述の文献のみ)を基にまとめたものです。今後も機会があったときに、サル痘に関する情報を更新したいと思います。更新時に最新の知見によって、一部情報が修正される可能性もあります。
本記事やまとめ資料の作成の際に参照した資料やウェブページ
WHO Webページ:https://worldhealthorg.shinyapps.io/mpx_global/ (22/8/13参照)
WHO Webページ:https://www.who.int/health-topics/monkeypox#tab=tab_1 (22/8/13参照)
WHO Webページ:https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/monkeypox (22/8/13参照)
N. Giromettiet al., “Demographic and clinical characteristics of confirmed human monkeypoxvirus cases in individuals attending a sexual health centrein London, UK: an observational analysis”, The Lancet Infectious Diseases, 2022. (URL: https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00411-X)
N. Kumar et al., “The 2022 outbreak and the pathobiology of the monkeypoxvirus”, Journal of Autoimmunity, vol. 131, p. 102855, 2022. (URL: https://doi.org/10.1016/j.jaut.2022.102855)
H. Adler et al., “Clinical features and management of human monkeypox: a retrospective observational study in the UK”, Lancet Infectious Disease, 2022. (URL: https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00228-6)