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【呪詛】久々に見たことを後悔した【ネタバレあり】

ということでtwitter映画界隈でもざわざわがおさまらず、「日が昇ることを感謝した」とか「見たことを後悔した」とか「邪悪すぎてむり」などと、言われたい放題している「呪詛」を見た。
めちゃくちゃ後悔したのでその後悔を皆様にも共有すべく、この記事を書いている。

追記(7月19日)
意外とこの記事をご覧いただいているようなので、最初に結論を書いておこうと思う。多分みんな知りたいのそこだと思うし。

下でも書いているが、この映画は「お憑かれさまでした」映画であり、最終的に視聴者に呪いが波及してくるタイプの映画だ。そういった映画が苦手であればおすすめできない主人公は子供にかかった呪いを緩和するため、視聴している我々に呪いを振りまく。
「ごめーん!この呪いどうにもならんわ!でも子供が呪われっぱなしだと不味いんで希釈するために、とりまそこで見てるお前も呪われてくれよな!」というのがこの映画だ。身も蓋もない。
このタイプのストーリーを怖いと思わないなら、この映画はさして恐ろしくはなく、虫に苛まれるだけだと思う。
虫が結構後半に現れるので、虫が苦手な人も注意が必要。あと集合恐怖症の人。

重要なところはこれで終わりましたので以下感想文です。

ヘレディタリー+リング

個人的な感想としてはまじでこの映画をまじぇまじぇし、希釈されない映画だった。
宗教物かつ親子の縁を描いたものであるという意味でヘレディタリー要素。
POV形式ということもあって自分の方へと悪意が向けられていることに気づくという意味でリング要素。
この辺の映画が苦手なら、というかそもそも怖いものが苦手なら本当にお勧めできない。

大まかなストーリーはこうだ

かつてある宗教施設で禁忌を破り、呪いを受けたリー・ルオナン。そして6年後、あの時の呪いが今度は自分の娘に降りかかったと知り、必死で我が子を守ろうとするが...。

ネットフリックス 呪詛公式ページより

主人公であるリー・ルオナン。
彼女は6年前、友人たちとともに「呪いや迷信を打ち破る」という大義名分のもと、ゴーストバスターズを結成しブログを運営していた。
ところがそのメンバーの一人であるルオナンのボーイフレンドへ、実家からこんな連絡が来る。
「20年に一度行われる儀式に参加してほしいからすぐ戻ってくるように」。
勘のいい方ならお察しだろう。ここでルオナンは特大の禁忌を犯す。

だがこの禁忌の犯しっぷりが、最早若気の至りでは言い訳ができないレベル。見ている最中は「ああ……(嘆息)」しか言えなかったが、思い出しながら爆笑してしまった。

ルオナンたちが犯した禁忌リスト

まず現代となる以前。
ルオナンの身に、6年前何が起きたのかをまとめよう。
ルオナンと彼女の恋人ドム、そして友人のアーユエン(いかにも中華圏らしい名前だ)の3人で結成した超常現象調査グループは、上述の儀式に参加する。
だがまず、呪いのトンネルへと向かう道中で仏像を車で破壊。
儀式に参加してから思い出すだけでも災いを起こすという「仏母」の名前と呪文を教わる
その儀式の後黙って部屋を抜け出し巫女の少女に導かれたところでカエルを発見するも、石が崩れてきて住民にバレる。
そのことで調査団は監禁されるが、大人しくしておけばいいのに脱出、秘密の儀式を盗み見たうえ、巫女がどうなったのか好奇心に勝てず、「絶対に入ってはいけない秘密の部屋」に侵入
その部屋には全身に呪文を書かれた巫女がいたのに、ここでストップせず、更に奥へと調査団は歩みを進め、結果封印を足蹴にして破壊
その後、穴に入り込んでいたアーユエンは絶叫しながら現れ、ドムの方はすでに死体となっているところを村人に担ぎ出されるところがビデオに写っていた。
ルオナンは混乱しつつもビデオを拾って仲間を探すが「口の中がかゆい」と言い出したアーユエンに噛みつかれてしまう。ところがアーユエンの歯はぼろぼろと口から零れ落ち、彼女は泣き叫び崩れ落ちてしまう
何とかさらに奥へ進んだルオナンだったが、そこでドムが仏像のように立ったまま火葬されるのを目撃
逃げ延びたものの別の呪文を体中に書き入れ裸になった村人たちが、ルオナンを見つめていた

逆にここまでできるのすごくない????
最早やらかしの満漢全席。ホラー映画やっちゃいけない行為リストのフルコースだ。
ちなみにこの後6年後に、ルオナンはなおも「やっちゃいけないことリスト」に新しい項目を追加し続ける。

このストーリーは、何とかその娘を守りたい、生き延びてほしいと思う母の願いでもある。
そして同時に美化されがちな母性神話が、「母は子を守るためであれば手段を選ばない」という形で私たちに悪意となって降りかかってくる話だ。
そう、この映画はPOV形式であることだけではなく、ルオナン自身が最初から私たちに嘘をつき続けている「おつかれさま」映画でもある。
彼女は呪いを受けた愚かな女である以上に、娘を守りたい母親だ。
だが、その母性も神性の前には敵わない。
ハリー・ポッターでは母の愛が悪に打ち勝つが、これはホラー映画なのだ。

自らを呪うのは悪魔ではなく神だ。
人間はその神のまえにただひれ伏すことしかできないのは、日本でもよく見られる「怨霊信仰」に似たようなものだから、われわれ日本人にも非常にわかりやすい。
「神に対して行ってはならない不敬を働いた。だから呪われたのだ」という考え方は非常に恐ろしいと同時に諦めるしかないと思え、またその神がただの神ではなく悪神であるという絶望感は深い。
(ヤハウェの神も洪水を起こしたり硫黄の雨を降らせたりするので、多分キリスト教圏にもこの思考は理解できる。)
そういうカルトな考えを打ち破ってやろうと考えていたルオナンたちにとっては、その恐怖は更なるものだっただろう。
やはり「触らぬ神に祟りなし」なのだ。

台湾とカルト宗教

台湾産のカルト宗教に絡めたホラーといえば還願 Devotionを思い出す。
この話の舞台は1987年の台湾で、主人公は杜豐于(ドゥ・フォンウ)。彼は一世を風靡し天才ともてはやされた脚本家であり、国民的女優である鞏莉芳(ゴン・リホウ)と結婚。母譲りの歌の才能を持った、美心(メィシン)という可愛い娘を持った父親である。
ところがもともと迷信深いところがあった彼は様々な理由から、どっぷりとカルト宗教に漬かり切ってしまい…というストーリーだ。

そもそもこの「還願 Devotion」自体も、カルト宗教に端を発する様々な事件や社会問題から着想を得た作品であり、台湾という国を語る上でもカルト宗教、或いは新興宗教が切っても切れない関係にあることが改めて感じられる。
(新興宗教がイコールカルトであるという論調は間違っているとは思うが、ここではとりあえず一旦同格のものとして表記しておく。)
特に今の蔡英文さんの前代である総統が熱心なキリスト教徒だったこともあって、こうした宗教的活動が台湾では熱心に行われていたのだそうだ。意外にも台湾にはクリスチャンが多くてびっくりする。
またアミニズム信仰なども根強いので、こうしたバックボーンが今回の「呪詛」にも強い影響を与えたことは確かだろう。

一神教を信仰しない人々にとって、神は善でもあり悪でもある。
だがそれ以上に、その神を信仰する周囲が恐ろしいというのは割合良くある話だ。「還願 Devotion」も、そういった類の話だ。
それに対して「呪詛」はその周囲ではなく、最早人間にはどうにもならない超常的な力に屈し続けるしかない姿が描かれている。
やっぱり私たち日本人にとっては、エクソシストよりよほどこうしたホラーの方が恐ろしい。

父も母も子を守ろうとした。
だがこの二つのタイトルはどちらも「親の因果が子に報う」のだ。
その結果どんな末路を辿ることになったのかは…ぜひ映画をご覧いただき、ゲームは遊んでいただければと思う。

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