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【原神】カーンルイアはバベルの塔だなと思った

旧約聖書の創世記をお読みになった方は、そんなに多くないと思う。
でも、そういう人たちでも知っている話はあるだろう。

アダムとイヴが知恵の身を食べたために楽園を追い出される話。
神が堕落した人間たちを皆殺しにしてしまう洪水神話の類型「ノアの方舟」。
あるいは悪徳が栄えたために硫黄の雨が降り注いだ「ソドムとゴモラ」。
神への信仰心の深さを試されたために、年老いてからようやく授かった唯一の嫡子である幼いイサクをささげようとするアブラハムの話。

このいずれもが、「旧約聖書」という沢山の物語の集まった書物の中の「創世記」にあたる話だ。
そして印象深い「バベルの塔」も創世記の中の重要な物語である。

以前ちょっとだけ「カーンルイアはバベルの塔みたいな話だな」と思ったと書いたので、この部分をもう少し深掘りしてみる。

「バベルの塔」とは

全ての地は、同じ言葉と同じ言語を用いていた。東の方から移動した人々は、シンアルの地の平原に至り、そこに住みついた。そして、「さあ、煉瓦を作ろう。火で焼こう」と言い合った。彼らは石の代わりに煉瓦を、漆喰の代わりにアスファルトを用いた。そして、言った、「さあ、我々の街と塔を作ろう。塔の先が天に届くほどの。あらゆる地に散って、消え去ることのないように、我々の為に名をあげよう」。主は、人の子らが作ろうとしていた街と塔とを見ようとしてお下りになり、そして仰せられた、「なるほど、彼らは一つの民で、同じ言葉を話している。この業は彼らの行いの始まりだが、おそらくこのこともやり遂げられないこともあるまい。それなら、我々は下って、彼らの言葉を乱してやろう。彼らが互いに相手の言葉を理解できなくなるように」。主はそこから全ての地に人を散らされたので、彼らは街づくりを取りやめた。その為に、この街はバベルと名付けられた。主がそこで、全地の言葉を乱し、そこから人を全地に散らされたからである。

「創世記」11章1-9節

順番的にはノアの方舟の話の後なので、皆ノアの子孫だ。
神様に助けてもらった優秀な人間の子孫たちも、神に対してでかい態度を取りかねないのが面白い。
また、こんなに有名な話で絵画や映画の題材にもなっているのに、バベルの塔の話はこんなに短い。これ以上、聖書の中でバベルについて詳細は語られていない。(外典や偽典と呼ばれる本の中にはあるらしいが、少なくとも旧約聖書として一般的に流布されている書物の中には登場しない。)

このバベルの塔は「神の領域に近づこうとする人間に対する戒め」であるというのが一般的な考え方だ。
それは

「さあ、煉瓦を作ろう。火で焼こう」と言い合った。彼らは石の代わりに煉瓦を、漆喰の代わりにアスファルトを用いた。

「創世記」11章1-9節

という一文にも表れているように、このバベルの塔の話では新しい技術を用いて塔を作り出していると読み解くことができるからだ。
すでに原型は2000年以上前に完成しているはずの話に、アスファルトが出てくることにも驚く。調べたら紀元前3800年ごろにはすでに接着剤として使用されていたらしい。
この話が完成した頃には、すでにかなり一般的な建築技術だったのかもしれない。

とにかく彼ら人間は一つの言葉を話しているから技術が発達し、ゆえに神を超えようと、或いは同じ高みに上ろうとした。
だから神は人の言葉をバラバラにしてしまって、そのために人の言葉は何種類もあるのだというのが、バベルの塔の話だ。

こういうところを見ると、カーンルイアっぽいなと思う。

カーンルイアはバベルだと思った理由

最初、私はカーンルイアが滅亡した理由は「錬金術」だと思っていた
アルベドの師匠である「黄金」ことレインドットは、優秀な錬金術師ではあったようだ。
だが彼、あるいは彼女が作ったドゥリンは邪悪な龍になり、ウェンティの友人であり四風守護の一角であったトワリンと相打ちになってドラゴンスパインに堕ちた。
これ以外にもどうやら500年前、ありとあらゆる災厄が訪れたとなっている。

ver2.7で追加された魔神任務間章「険路怪跡」でも、カーンルイアから魔物が送り込まれたような話があったし、もしかするとカーンルイアが滅亡したがゆえに、国内にいた魔物があちこちに現れたのかもしれない。
この辺の順序はまだ判然としない。

とにかく、レインドットが作り出した錬金術の技術で、「原初の人間計画」が行われ、結果生まれたのがアルベドだった。
これは命を生み出すという、もはや神の領域に到達した技術だと感じられる。
だからこそ端的にカーンルイアが滅んだのは、これだけ高等技術を持ったからだ、人間を作り出してしまったからだと思っていた。

この「原初の人間計画」こそが「バベルの塔」に当たるのではないか。
「原初の人間計画」を行ったから、ほかの人間と通じ合うことができない別の言葉を持ったヒルチャールに変えられてしまったのではないか。

第一章 第四幕・プロローグ「枝を拾う者・ダインスレイヴ」などを追いかけていた当たりでは、こんな感じなのではないかと思っていた。
考えが変わってきたのは遺跡守衛を「耕運機」と呼び、カーンルイアが侵略戦争を仕掛けていたらしき描写があったあたりからだ。

この辺りから、カーンルイアが滅ぼされた理由は一つだけではなく複合的なものではないか、と思うようになってきた。
それから「神になり替わろうとした」のはもちろん、「知ってはならない重要な禁忌を知ったのではないか」とも感じた。

だから滅亡へと至る道筋としては、カーンルイアの誰かが「知ってはならない禁忌を知った」、それゆえに滅ぼされる運命に対抗するために「耕運機」をはじめとした自律装置を作り、戦争に備えたというルートも考えられるかな、と思う。
ただしその場合「知ってはならない禁忌」とは何だったのかというのが気になるし、耕運機こと遺跡守衛が世界中に散らばっていることの理由が足りない気がする。
いずれにせよオロバシはテイワット外から神々がやってきたことを知ったが故に死ぬ運命をたどったから、それに準ずるものだったのかな、と思う。

それとは別に、神々の支配から逃れようと、文字通り高い塔を作り宇宙に脱出しようとしたがゆえに滅ぼされた…というのも考えた。
崩壊3rdでは実際、宇宙に脱出した船団も存在する。
その船団がたどり着いた先がテイワットではないかという考察もあるから、そこでも崩壊から逃れられないと悟った人々が、更なる脱出を図り失敗した可能性も考えられなくはない。

なぜ鉄と血で争奪する必要があったのか

卵が先か鶏が先かといった感じだが、そもそも先に周囲がカーンルイアに手を出したのか、あるいはカーンルイアが周囲に手を出したのか、この辺もストーリーの中では割と重要な謎ではないかと感じる。
まあ、カーンルイアの国是「土地は農具で耕すものではない、鉄と血で争奪するものだ。」を見るにカーンルイアが先だろうなとは思う。

そうなると国是自体も謎だ。
一体どうしてカーンルイアはそんなに国土の拡充を図ったのだろうか?
なぜそんなに奪い取ろうとしたのだろうか?
この辺はまだまだ考える余地があるなと思うが、あり得るものとしてはカーンルイアの民は神に選ばれていない、つまり「元素力を使いこなせる人がいなかった=神の目を誰も手にすることができなかった」からかもしれない。
テイワットでは、別に元素力が無くても生きていくことはできる。
だが、神の目を授かることはテイワットの人間にとって一種の洗礼であり、それにより人生が好転することも沢山あるだろう。
それが一切できない。受け取ることの希望が無いというのはなかなかに絶望が深い。

だから、神が何も与えてくれないのならば、その神から土地くらいむしりとってやろうという考えになるのもまあ、納得はできなくはない。
土地を鉄と血を流すことで奪い取るしか彼らは生き延びる道が無かったと考えてみると、残酷なまでに原神世界の人間は神々に支配された存在だという風にも感じられる。

原神の世界には決定的なヒエラルキーが存在する。
それは最上の神>七神>七神に仕える眷属>神の目を持った人間>それ以外という、プレイする側としては当然の階級差だ。
実際原神世界で生きる人々にとって、これほど絶望的な物もないだろう。
もしカーンルイアの民が、神を頂かない国であるがゆえに神の目を授かることができず、元素力を使用できなかったとしたら、神の目を持つ人のいる国を侵略するには十分な理由になりえると思う。

その場合、なぜガイアが神の目を所持しているのかという疑問が残る。
ただ、ガイアの目はカーンルイア人であると明確になっているダインスレイヴや、ハールヴダンの目とは微妙にデザインが異なっている。
もしかするとガイアが「最後の希望」と表現されたのは、「神の目を授かることが可能な素養を持っている」という意味なのかもしれないし、瞳のデザインが他のカーンルイア人とことなるのは、そのことを表しているのかもしれない。

まとめ

ということで、大昔に読んだ創世記の記憶を引っ張り出し、改めて読み直して考えてみた。
旧約聖書はmihoyoの社長が大好きなエヴァンゲリオンにも強い影響を与えているだろうし、そういったユダヤ教、キリスト教的な世界の描き方は、日本のゲーム・漫画作品ではよくあるものだ。
一体今後このテイワットのバベル、カーンルイアはどんな運命をたどって滅んだのか、明らかになることはあるんだろうか。

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