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【原神】家族がいない「壁炉の家」の子供たち

こちらの記事はあくまで現実世界に基づいた内容であり、原神の世界では同じようなルールが存在しているとは限りません。
参考までに「そういうもんなんだな」という感覚でお読みください。

また記事を作成した私自身は「ロシア語初級で日常会話に相当困る程度」の知識レベルであるため、説明内容に誤りがある場合がございます。
ご指摘いただいた部分は出典確認後修正させていただきます。

そういえばこれ書いていてふと「そうだ、名前にも違和感があるな」と思ったので、忘れないうちにロシア人の名前のルールについて書いておこうと思う。
これが原神世界において通じるルールではない可能性が高いけれど、なるほどそういうもんか、くらいで流し見してもらえたらとてもうれしい。

また、猛烈に説明がヘッタクソな部分があるので、ああ、そういうもんなんだな、くらいに捉えていただければ幸いです。

ロシア人の名前について

「シュナイツェビッチ」「シュナイツェフナ」

このふたつは壁炉の家の子供たちのコードだ。名前的には「スネージナヤの息子、娘」という意味になるのだが、この名前にも結構違和感がある
というのもスネージナヤのモデルとなったロシアではこの「〇〇ヴィッチ」とか「〇〇ヴナ」とつく部分を父姓と呼び、この部分が苗字ではないからだ
ゲーム内でまるで苗字のように扱われているように見えるから、個人的には違和感を覚えるのだと思う。

基本的にロシア人の名前は
「個人の名前」+「父姓」+「苗字」
で作られている。

父姓とは読んで字のごとく、「その人のお父さんが誰か」を表し、本人が男か女かによって書き方が変わる。
とてもややこしいので、分かりやすく例を挙げてみよう。

男性の場合

男性の場合。みんな知っているロシアの大統領、プーチン大統領の名前を借りてみる。

ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン
Владимир Владимирович Путин

  • ウラジーミル:名前、ファーストネーム

  • ウラジーミロヴィチ:父姓 ←ここがシュナイツェビッチに該当

  • プーチン:苗字、ファミリーネーム

この名前を見ればプーチン大統領は、ウラジーミルという名前でウラジーミルという同じ名前の父を持つ、プーチン家の男性であることが分かる。
プーチン大統領は男性なので、ウラジーミル+ヴィッチで、ウラジーミロヴィチが父姓になる。ここで、子供の性別が男か女か判別できる。

女性の場合

続いて女性の名前について、有名なテニス選手であるシャラポワ選手の名前を例に挙げる。

マリア・ユーリエヴナ・シャラポワ
Мари́я Ю́рьевна Шара́пова

  • マリア:名前

  • ユーリエヴナ:父姓 ←ここがシュナイツェフナに該当

  • シャラポワ:苗字、ファミリーネーム

これでシャラポワ選手は、名前がマリアであり、ユーリーさんというお父さんを持つ、シャラポワ家の女性であることが分かる。
プーチン大統領とは違い、シャラポワ選手は女性だ。
だからユーリー+ヴィッチではなく、ユーリー+ヴナという表記に代わり、「ユーリエヴナ」が父姓となる。

このルールに乗っ取って考えてみると、プーチン大統領が女性だったら
「ウラジーミル・ヴラジーミロヴナ・プーチナ」になるし、
シャラポワ選手が男性だったら「マリア・ユーリエヴィッチ・シャラポフ」になる。
※ロシアでは苗字が性別によって変わるので、父姓、苗字ともに変わってくる。

何が何だか、ということだが、言いたいことはつまりこういうことだ。

もしもこのルールがスネージナヤでも該当すると考えた場合、
壁炉の家の子供たちはファミリーネームを持たない子供たちなのではないかということだ。
そもそも家族がいないから、どこかの家族に属しているわけではないので当然だ。彼らはファミリーネームを持たず、ただスネージナヤの子供たちであるということだけが分かる名前をしている。

召使が経営しているとはいえ、表向きは恐らく国が経営する孤児院扱いに近いのだろう。

だがそうだとしてもまだ、「シュナイツェビッチ」「シュナイツェフナ」に対する違和感がある。

女性は父親になりうるのか?

それは、スネージナヤが明らかに女性名であることが理由だ。

スネージナヤ(Снежная)はロシア語で「雪の」を意味する形容詞снежныйが女性名詞主格に付く時の活用形

原神  Wiki*注釈18より

ドイツ語などを勉強したことがある人なら記憶があるかもしれない。ものに性別が発生する例のアレだ。
めっちゃ強引に、かつ簡単に考えるなら「ロシア語において雪という存在は女性」なので、「スネージナヤ(Снежная)」と女性名詞主格がくっつく。

つまり「スネージナヤ」は直訳で「雪の女」みたいな意味になる。
「雪」は女性だから、「女性」として扱うために「女性名詞主格」がくっつくのだ。(これは本当にざっくりとした解説なので、恐らくロシア人に聞いた方がより詳細にご理解いただけると思います。ですからここでは、まあそういうもんなんだなと思ってください。)

ここで先ほどの「父姓」のルールを思い出してみる。
父姓はその名の通り父親の名前が使われ、ロシア人の名前に存在しないことは絶対にない。たとえシングルマザーの子供だったとしても必ず父姓が存在する。

つまり「スネージナヤ」という女性の名前(実在しない名前だけれど、ここではそういう物だと考える)が、父姓に使用されることは本来ない。
上記のルールにのっとって考えるなら、女性の名前だからであり、父姓とはその子供の父親が誰かを表すものだからだ。

そもそもスネージナヤを統治しているのは「氷の女皇」と呼ばれる通り女性であり、神もまた女性だ。だから国の名前が女皇に合わせて国名が女性であることに違和感はない。
だからこそ「シュナイツェビッチ」「シュナイツェフナ」という、母親の名前の父姓を持った子供たちの存在はちょっと違和感を覚えるのだと思う。

女皇陛下は「慈悲深い方」だそうなので(公子談)、家族のいない壁炉の家の子供たちを憐れみ、国名を名乗ることを許しているのかもしれない。
またメタ的に考えればシュナイツェビッチ、シュナイツェフナは実在しない父姓だ。だから、誰かと重複することがない。
悪役・敵役につけるにはぴったりの名前だ。

もちろん、これは原神世界では当てはまらない可能性も高い。
現実世界のルールと、原神世界のルールは全く違うこともあるからだ。
だが、この名前と歪んだ父姓しか持たぬ彼ら壁炉の家の子供たちのことをちょっとロシア文化的に考えてみると、ものすごく寂しいなと思う。

ロシア文化から名前について考えてみる

というのもロシアは名前で呼び合うということに対して、非常に繊細な感性を持った国だ。
ロシア人はみな名前に紐づいた「愛称」を持っていて、その愛称で呼び合うことが親しさの表れになる。
愛称は名前によって大体決まっていて、例えばプーチン大統領であれば(恐らくだが)「Володя (ヴォロージャ)」、「Вова (ヴォーヴァ)」などと親しい人からは呼ばれているはずだ。(この愛称も仲の良さごとにランクがあるため、この限りではない。一例として考えてほしい。)
とにかくこの愛称で呼び合うことが「貴方に敵意はないですよ」「貴方のことを慕っているんですよ」「貴方のことを友達(や親しい間柄)だと思っていますよ」というロシア的表現なのだ。

この文化の中で名前+父姓で呼ぶというのは、心理的な距離感がめちゃくちゃ遠いことを示している。たとえば職場の上司や同僚には、名前+父姓で呼びかける、と言った感じだろうか。
尊敬する目上の人へ名前+父姓で呼ぶのは普通のことだが、友達には絶対にしない。まして家族や親しい間柄に対しては、必ず愛称で呼び合う。

私の場合、ロシア語を教えてくれたロシア語ネイティブの友人に
「お前は日本人だから、愛称が無く今後困ることもあるはず」と、ロシア風の名前を付けてもらった。
それくらい名前というのはロシア人にとっては大切で、コミュニケーションにおいて重要な地位を占めているということなんだと思う。

ゲームなので実際のところは分からないが、この文化に則って考えてみるならば彼ら「壁炉の家の子供たち」は、同じ境遇の「壁炉の家の子供たち」以外に、あだ名で呼び合うような親しい間柄の人間もおらず、自らの帰属を表す一族の名も分からず、ただ国が所有する存在であると言われているような感覚になる。
きっと「壁炉の家の子供たち」は、そんな同じ境遇の仲間とは強い家族意識で結ばれているんじゃないだろうか。
森林書の最後の「悪い奴」もそういうことなんだろう。

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