いま「ビデオプロトタイピング」が熱い理由とは?
いま、デザイン系の企業のみならず、さまざまな業界で「プロトタイピング」という言葉を耳にするようになってきています。
プロダクトやサービスの創出・改善をしていくうえで、市場調査や事業戦略も重要です。しかしいわゆるVUCA(動的で複雑、不確実で曖昧)な時代においては、プロトタイプを見せることで直接的なフィードバックを受け、さらなる改善につなげていくやり方のほうが、より効果的で目的にあったプロダクト/サービスを生み出せる可能性が高い。プロトタイピングがこれだけ注目を集めるようになったのは、よりユーザー中心的な姿勢が求められているということであり、さらに言えば人間中心的な姿勢が求められているということでもあります。
そんなプロトタイピングの中でも、いわば最強のプロトタイピングとも言えるかもしれない−−それが「ビデオプロトタイピング」です。ビデオプロトタイピングはまだ日本ではあまり一般的ではありませんが、多くの場面において、もっと活用されるべき手法だと考えます。この記事では、ビデオプロトタイピングの特徴や実際のステップ、注意点についてご紹介していきます。
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そもそもビデオプロトタイピングとは?
デザインにおけるプロトタイピングとはアイデア、つまり「こんなプロダクトがあったら人々に喜んでもらえるのではないか?」といった仮説を検証するプロセスのことを指します。仮説を検証する方法には様々な方法があるものの、デザインの改善点や修正点を見極めるために簡単な図面やモデルを作成するなどしてアイデアをクイックに可視化することは、多くの方がイメージするプロトタイピングのひとつでしょう。
そのため、プロトタイピングを行うのは一度とは限りません。むしろプロトタイピングのプロセスを通してプロダクトの改善点を見つけ、イテレーティブに仮説検証を繰り返すことが重要です。プロトタイピングの目的が、プロダクトに関する課題や機会を見出す点であり、このプロセスから得れれたフィードバックをもとにプロダクトの質を高めていくことを踏まえると、プロトタイピングはデザインリサーチの一工程と捉えるべきです。
プロダクトのアイデアをクイックに可視化するにはさまざまな手法があり、それぞれ特徴を持っています。たとえば新しいプロダクトのコンセプトを示す場合は、紙にアイデアをスケッチすれば、もっともすばやく効果的にメッセージを伝えられるかもしれません。また、物理的なプロダクトに関していえば、積み木やクラフト紙を用いたり、3Dプリントを使ったりすることも考えられます。
では、ビデオプロトタイピングの強みはどこにあるのでしょうか。
まず、ビデオならではの特徴が挙げられます。すなわち人、インターフェイス、アニメーション、サウンド、会話など、デザイン体験のさまざまな側面を一度に表現できます。うまくビデオプロトタイプができれば、わずか1分でプロダクトやサービスについて、多くのことを伝えることができます。それだけ映像の力は雄弁なのです。実際、アイデアを多くの人に伝え、共有するという点では、ビデオが最もすぐれています。組織内でも組織外でもそれは変わりません。
ビデオを使ってプロトタイプを作ると、全員が同じ方向を向きやすくなります。というのも、ビデオプロトタイピングなら機能面に関する表現にとどまらず、実際にユーザーがどのように使うのかというところまで描写できるため、ユーザーがやりたいことを実現するために必要な要素がすべて揃っているか、余分なものは何もないかがチェックしやすくなるからです。
しかもビデオプロトタイプなら、プロダクトのすべてを紹介するのではなく、特定の機能や状況に焦点を当てることも容易です。これにより物理的なプロトタイプにありがちな、あまり重要でない細部へのコメントに気を取られることなく、焦点を絞ったフィードバックを得ることが期待できます。
関係者への展開が容易ということもビデオの利点のひとつに挙げられます。ファイル共有サービスを使っても良いでしょうし、YoutubeやVimeoに非公開でアップロードしてURLを伝えても良いでしょう。ビデオはどこでも見ることができますし、ビデオを再生するデバイスの差異も画面サイズのみです。Macでも WindowsでもiPhoneでもAndroidでも、どのようなデバイスであっても同じ内容を再生することができます。これは特に、コロナ禍のような直接的なコミュニケーションが難しくなった場合において重要と要素と言えます。
プロモーションビデオとは何が違う?
ビデオプロトタイプはその性質から、コンセプトビデオやプロモーションビデオと混同されがちですが、これらの目的は大きく異なっています。
ビデオプロトタイプの主な目的は、コンセプトを形に落とし込んでいき、そこにどのようなギャップや欠陥が生じるのかを把握することにあります。実際、ビデオプロトタイプはアイデアをテストするうえで最も効果的な方法のひとつであり、これを反復しておこなうことで、さらに全体の完成度を高めていきます。
一方で一般的なプロモーションビデオは、相手に強い印象を与えるためにデザインされます。そこではストーリーに力点が置かれ、プロダクトやサービスがどのように機能するのかという詳細は省かれがちです。また、完成度の高さが求められることから、必然的に製作期間は長くなり、その分だけコストも高くなります。
ビデオプロトタイピングが目指すのは、あくまでもアイデアを伝えるのに役立つクイック&ダーティなビデオであって、映画のような高品質な作品ではありません。
ここからはビデオプロトタイプの実例をいくつか見ていきましょう。どちらもビデオプロトタイプとしては完成度が高く、初期段階につくったものというより、より多くの視聴者に向けて発信することを意識して制作されたものではありますが、大まかな雰囲気はつかんでもらえると思います。
このビデオプロトタイプでは、「車体の上に進むべき方角を描くと、それと同じ行動を取ってくれる」というおもちゃのコンセプトを示しています。おもちゃの車の上に円を描けば車も円を描き、複雑な螺旋を描けば車も螺旋状に動いてくれることがよく伝わります。このように、ビデオプロトタイプはハードウェアの持つコンセプトを伝えるうえで、きわめて有効な手段のひとつとなります。
ではソフトウェアの場合はどうでしょうか。いまではすっかりおなじみとなったDropboxですが、2012年に公開されたこのビデオプロトタイプでは、Dropboxがどういうプロダクトなのかを、主に技術者ではないユーザーを対象として伝えています。一般的なプロモーションビデオほどの予算をかけずとも、プロダクトがどう機能するのかを見事に伝えています。
ビデオプロトタイプの作り方
ビデオプロトタイピングは、最低でも2回から3回繰り返すことが一般的です。まずストーリーボードを作成し、それに基づいて最小限の機材(最初はスマホのカメラでも十分なはずです)で撮影することから始めます。これを1〜2回繰り返すことで、既存のフローの中にあるギャップをより深く理解し、コンセプトを修正していきます。
特にストーリーボードは、プロセス全体の中でも最も重要なステップといえます。ストーリーボードとは、制作するビデオがどのようなシーンで構成されているのかをラフに表現したものです。動画の撮影には時間がかかります。しかし撮影を始める前にストーリーボードを描けば、必要なシーンを簡単に検討することができます。
このとき注意すべきなのは、ひとつのコンセプトにのみ焦点を当て、それを表現することです。目安としては、長くてせいぜい1分程度の動画を目指すとよいでしょう。長い動画よりも短い動画のほうが、コンセプトやインタラクションを伝えやすいです。
ストーリーボードが用意できたら、基本的な機材を使ってストーリーをビデオに記録します。1回目や2回目の撮影は、スマホと三脚があれば問題ありません。上述したように、ビデオプロトタイプはプロモーションビデオとは異なり、高いクオリティを求められているわけではないからです。
ただし前述したように、UXや使い心地を検討したあと、プロダクトやサービスの持つストーリーをより多くの視聴者に向けて発信する場合は、より高度な機材を使って撮影することもあります。
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ANKRデザインでは、ビデオプロトタイプに力を入れており、映像に関するアイデアがまったくない段階からでも、お手伝いすることができます。この記事を読んで興味をもった方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ!
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