むね肉唐揚げ
親戚のお母さんの作る唐揚げは、むね肉が使われていた。味付けは塩こしょうだけだったんじゃないだろうか。茶色くない唐揚げ。小麦粉なのか片栗粉なのか、衣は薄く、四角張った形。むね肉だから食感はパサっとしてるし、ちょっと固い。いわゆるジュージーな唐揚げではなく、こしょうの効いた塩味。なんだか硬派な唐揚げだった。というか「唐揚げ」と言われて想像する見た目とはかなり違った印象だった。
でもなんだかそれは、妙に美味しかった。
白っぽくて四角くて、パサっとしてちょっと固い、むね肉唐揚げ。きっとお母さんは脂っこい感じの肉が好きじゃなかったのかもしれない。そう、時々年配の人で、魚なんかもしっかり焼いて(焼きすぎて?)固い感じで食べることを好む人もいる。
脂が乗ってる。
ジューシー。
柔らかい。
しっとり。
そういう時代に逆行している。
脂っ気ない。
汁気もない。
固い。
ぱっさり。
でもなんだかそれが、妙に美味しいのだ。
ご相伴にあずかる時には、喜んでいっぱい食べていた。あのこしょうの効いた味。食べててちょっと水分が欲しくなるようなパサっとした食感。独特なんだ。
料理が好きな人だった。
家族の健康を思っていろいろ工夫する人だった。
そんなお母さんの、葬儀の時。
お孫さんが言っていた。
「ばあちゃんの唐揚げが、一番美味しかった」。
お母さんの思いはちゃんと伝わってる。
お母さんはいなくなっても、味は、思いは、残ってる。
受け継いでる。
少し前のことだけど、そのお母さんのことちょっと思い出して、お母さん風にむね肉で唐揚げを作った。
ぱっさりした食感、塩こしょうだけのシンプルな味、四角ばった形。
そうそうこれこれ、この感じ。
お母さんはいなくなっても、味は、思いは、残ってる。
伝わってるよ。
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