国立研究開発法人や大学からの情報流出を防ぐ
2023年6月国立研究開発法人の産業技術総合研究所で働いていた中国人研究者が、不正競争防止法違反容疑で逮捕起訴された際に高市代議士は科学技術政策担当大臣のお立場ですぐに動かれました。
6月中にリスク管理チェックリストを改訂して、全ての国立研究開発法人に行き渡るように手配をされたと記憶しています。
その後リスク管理は改善されましたか?
2023年の話になりますのでおさらいをしますが、国立研究開発法人産業技術総合研究所、通称産総研ということなんですが、ここにいらした中国人の研究員ですが、2023年6月15日に警視庁公安部に逮捕されて、7月5日に起訴をされました。
この中国籍の研究員は、産総研の技術情報を無断で漏えいして、自らが関与している複数の中国企業を通じて、中国で多数の特許出願をしていたということが報じられていたので、皆さまも思い出してくださっているかと思います。
私はあの一件は、むしろ産総研のチェック体制がしっかりと働いた機能していた結果だと、そこは産総研を評価しています。
中国籍研究員の不審な行動に疑問を抱いた産総研側が警視庁と協力して、かなり長期にわたって内々に注意深く調査を続けてきた結果逮捕に至った案件でした。
この研究員なんですけれども、中国在住の親御さんの介護を理由に割と頻繁に出入国を繰り返していたんです。
ですからもしも途中で調査されているということに気づかれて出国されてしまったら、もうそれで身柄の確保ができなかったということで、相当苦労していただいたと思います。
産総研というのは経済産業省が所管する国立研究開発法人なんですが、日本には国立研究開発法人が27もあります。
それぞれ所管官庁があって、経済産業省・総務省・文部科学省・国土交通省・農林水産省・厚生労働省・環境省と7つの役所にわたっています。
事件が起きた2023年の6月時点で、ここで働いていらっしゃる職員の数を見ますと、27の国立研究開発法人で常勤の職員数は合計約2万6,000人でした。
そのうち外国籍の常勤の職員数は26法人に1,194人で、中国籍の常勤職員数は22法人に362人だったんです。
私は産総研の職員が逮捕された一方を受けて、これは氷山の一角かもしれないなと考えました。
まず各役所、7つの役所に所管が働きますので、自分の科学技術政策の担当大臣としてすぐにできることはないかなと考えましたので、まずは6月20日朝の閣議の直後の閣僚懇談会で、その7つの役所を所管する7人の所管大臣に対してご協力をお願いしました。
その日のうちに27の国立研究開発法人を所管している7つの省の担当局長に対して、私の名前で研究インテグリティの確保の徹底を要請する通知を発出しました。
その後6月29日になるんですが、研究の国際化・オープン化に伴う新たなリスクに対するチェックリストの改訂版、リニューアルしたやつを作って、これを添付した事務レベルの通知も発出をしました。
ちょうどその6月29日の日にたまたまではあったんですが、国立研究開発法人の理事長さんたちが集まる国立研究開発法人協議会というのが開かれて、その総会の場に内閣府の職員に行ってもらって「とにかく気をつけてください」ということをお願いするとともに、あくまでも私の個人の判断なんですけれども、参考資料としてその場で中国の国家情報法の条文を配布してもらいました。
この中国の国家情報法というのは、いかなる国民も国家情報活動に協力する義務を負います。
国はこの協力者を保護するということになっています。
中国の法律ですけれども、これは公開情報ですので、別にその場で配布しても問題にはならない。
私はやっぱりこの国立研究開発法人のマネジメント層に、そういう他の国の法律を知った上で、やはり留意をしていただくということが大事だなと考えたんです。
そこまでが2023年の6月時点についてのおさらいなんですが、政府が研究機関に求めている対応方針というのがあります。
一つは研究者自身による適切な情報開示なんです。
自らの研究活動の透明性を確保するために、所属機関や研究資金の配分機関に対して、必要な情報の報告を適切に行うこと、これは政府としてお願いしている方針です。
二つ目は大学や研究機関などのマネジメントを強化するということで、そこに所属している研究者の人事や組織のリスク管理として必要な情報の報告・更新をしっかりと受ける、リスクへの対処を適切に行う。
ここで研究者からマネジメント層が受け取るべき情報は、職歴・研究経歴・兼業などをしている場合には、所属機関や役職、外部からの研究資金を受けているかどうか、もしくは外部から研究資金以外の支援を受けているかどうか、その場合には、その支援の相手方は誰かということ、これをしっかりと報告を受けてくださいということ。
三つ目は公的な資金でいろいろ応用をしています。
公的資金配分機関による申請をされた時の確認というものも徹底をしています。
要は研究資金を申請された時に、外国資金の受け入れですとか、外国機関との兼業といった情報の提出を求めています。
それから所属機関への適切な報告の制約、誓ってくださいということも求めています。
もしも虚偽申告があった場合には公表する、それからもちろん不採択になる、採択になった後でも発覚した場合には採択は取り消しになる、研究費は返還しなければならない、さらに最長5年応募はもうできないという制限がかかります。
こういった対応をしているんです。
これらの対応方針に基づく取り組み状況については、これも2022年からやっているんですが、フォローアップ調査を実施していて、その役割分担は内閣府が国立研究開発法人といった研究機関や研究資金配分機関を調査して、文部科学省が大学を調査している、そういう形でフォローアップをしています。
フォローアップ調査の内容は具体的にどのような項目がありますか?
事件が起きたので、2023年の4月から2024年の3月までの期間を見越したってことなんですが、2023年度のフォローアップ調査からは少し問いを増やしました。
問いを6問にして、特にリスクが顕在化する前に対処する仕組みの整備ができているかというところ、ここは重点的にチェックをしました。
問1、研究インテグリティの確保に向けて、関係者に適切な理解を促す取り組みを実施しているか。
問2、同じ目的に向けてなんですが、利益相反・責務相反に関する規定を整備しているか。
問3、適切なリスクマネジメントを行うことができる組織体制を整備しているか。
問4、リスクマネジメントするために規定をちゃんと整備しているか。
問5、報告された情報の事実関係を客観的に確認する仕組みを整備しているか。
問6、リスクが高いと判断した場合にリスクが顕在化する前に対処する仕組みを整備しているか。
こういったことが調査項目の内容なんです。
内閣府の方では少し早めに、2023年12月27日に国立研究開発法人・独立行政法人に関するフォローアップ調査の結果を公表しました。
それは令和5年度フォローアップ調査の結果ということで、公表しました。
文部科学省は時間がかかりました。
というのは文部科学省の調査対象というのは医学部です。
あと歯学、薬学、理工学、農学、情報学、あと獣医学系、こういった学部を持つ国公私立大学ということで調査をしてもらったので、合計335大学とものすごい数だったので、文部科学省のフォローアップ調査の結果は2024年2月22日に発表されました。
文部科学省は相当苦労されたと思います。
実際にそれぞれ調査結果を見て高市代議士はどう感じられましたか?
ここは率直に言わせていただきます。
内閣府が担当した国立研究開発法人・独立行政法人については、規定や組織体制の整備を検討していないと回答した数はゼロでした。
だからそれがいずれの問いについても「整備している」と答えた割合が、新しい問いについては63%というのもあったんですが、63%から97%の間でもちゃんと整備しているという割合は高かったです。
いくつかの問いに「検討している」と回答した期間についても、2023年度つまり明日です。
明日3月31日までには整備を終えると。
2024年度中に整備を終える予定だということで回答してくれました。
さっき申し上げた理事長さんたちが集まる国立研究開発法人協議会でも、相当強い問題意識を持っていただいていて、安全保障貿易管理ですとか営業秘密管理、こういったものまで含めて、研究インテグリティとか研究セキュリティ、この確保徹底を図るために議論をしてくださっています。
割と国立研究開発法人などは強い問題意識を持って、急激に改善してくれているなという印象を持ちました。
他方、文部科学省が調査してくださった大学なんですが、国立大学については非常にいい結果が出ました。
国立大学に限定すると結果は良かったんですが、公立大学も私立大学も含めた大学全体ということになると、「まだ検討している」という大学数が多くて、残念だったのは「検討していない」とか回答もしてくれない大学もあって、それはきついなと思いました。
文部科学省の官僚の中で本音を聞くと、学問の自由というのもあるのでなかなか大学に対して強く言いにくいと仰っていた方もいらっしゃったんです。
だから大学の方でもう少し改善というのが進んでいく、そのためにも文部科学省も頑張ってくださっているので、そこは期待をしています。
国立研究開発法人にも、大学にも貴重な税金が使われています。
そこで研究開発された成果が勝手に国外に持ち出されるのはとても悔しいです。
研究機関や大学に対応してほしいことは何ですか?
国立研究開発法人については、まずそれぞれの研究開発法人の設置法というのがあります。
法人を作る根拠となる法律があります。
27の国立研究開発法人のいわゆる設置法では、全て秘密保持義務と罰則を規定しています。
例えば事件が起きた産総研の設置法である国立研究開発法人産業技術総合研究所法では、研究所の役員及び職員は職務上を知ることのできた秘密を漏らし、または盗用してはならない、盗んじゃいけない。
その職を退いた後も同様とする。
退職しても守秘義務がかかっているんです。
秘密を漏らしまたは盗用したものは1年以下の懲役、または30万円以下の罰金に処すると規定しています。
これは国立研究開発法人によって違うのは罰金の額、これは微妙に違っているんですけれども、懲役刑もありますので、こういう内容をまず各法人のマネジメント層が日本人であれ外国人であれ、全ての職員にちゃんとこういう法律があって、職務上知り得た秘密を漏らしたらこういうことになるかもしれないんだよ、それをしっかり周知していただくということがまず第一段階だと思ってます。
その次にやってほしいのは、これはもう国立研究開発法人でも大学でもそれから民間企業の研究所でも同じなんですが、やはり今ある法律を最大限活用してほしい。
それは不正競争防止法です。
不正競争防止法というのは営業秘密の侵害罪と罰則を規定している。
営業秘密の侵害罪というのは有用な技術上または営業上の情報ということですから、技術開発されてこれから商品化するよ、そういったものも当然含まれるし、取引をしている先の情報というのも含まれる。
刑事罰は非常に厳しいです。
10年以下の懲役、または2,000万円以下の罰金です。
海外でやらかした場合、営業秘密を海外で使った場合には、この罰金額が3,000万円に上がりますので、非常に重くなってます。
ただこの不正競争防止法をちゃんと適用するためには、営業秘密の要件を満たしておいていただく必要があります。
つまり秘密として管理されていること、当たり前なんですけれども、ちゃんとこれ秘密ですよってことで管理されていること、それからもう一つは有用な技術や営業上の情報であること、3つ目は公然と知られていないことです。
だから保有者の管理化以外では入手できないようにしてある、ということです。
だから本当に国立研究開発法人に限らず大学ですとか企業のマネジメント層に、本当に重要な技術情報については、この不正競争防止法がちゃんと適用できるようにその要件を満たす環境を整えていただきたいなと思ってます。