犬がごはんを食べない!これってワガママ?見分け方を獣医師が解説
「先生、うちの犬、ご飯の食べが悪いんです。」
「カリカリを全然食べてくれません。」
・・・という悩みをお持ちの方のための記事です。
愛犬のごはんの食べが悪いとき、我々獣医師は大きく分けて以下の2つの可能性を考えます。
何か体調が悪い
わがまま病
「食欲不振」という症状は本当にいろいろな病気で起こります。
そりゃそうですよね。人だってどこか体調が悪ければ食欲が落ちます。
恋煩いですら食欲が落ちるのですから(笑)
お腹が痛かったり、気持ち悪かったり、吐き気がしたり、頭痛がしたり。
いろいろなことで食欲は無くなります。
でも、中には「わがまま」が行き過ぎて、美味しい食べ物しか食べなくなってしまうことも多いです。
この見分けがつかずに困っている飼い主さんもよく見かけます。
この記事では、犬の食欲不振に関して、
どこか体調が悪いのか、
それとも単にわがままになってしまったのか、
見分ける方法を解説していきたいと思います。
わがまま病の発祥機序
まず、私が勝手に名付けた「わがまま病」について解説します。
わがまま病は、飼い主さんがわが子可愛さに美味しいものを与えすぎてしまうことが原因で発症します(病気ではないです)。
ドライフードの食べが悪くなったからと、すぐに他のちょっと高めのフードに切り替えたり、美味しい缶詰を与えたりしていませんか?
これを繰り返すうちに犬は以下のようにインプットされます。
「ちょっと食べるのを渋ればもっと美味しいものが貰える」
すると、「もっと美味しいものを美味しいものを」と、どんどんエスカレートしていき、最終的には安い市販ドライフードを食べてくれなくなるというわけです。
要するに、人で例えるならば、「高級寿司に舌鼓をうつ生活を送っていたら、次第に回転寿司が不味く感じて食べられなくなる」現象と同じです。
犬の飼い主の悩みあるあるだと思います。
食欲不振の原因を探る質問集
元気がある?ない?
食欲不振と一緒になんとなく元気もないような場合は、心配です。
わがまま病の子は食べなくても元気はモリモリであることが多く、いつもどおりおもちゃで遊んだり呼びかけたら駆け寄ってきたり、お散歩にいきたがったりします。
それを嫌がってあまり動きたがらない場合は、どこか本当に体調が悪い可能性があります。
他の症状がある?ない?
食欲不振というのは、とても非特異的な症状の一つです。
非特異的というのは、「何かの病気に特化した症状ではなく、様々な病気が原因で出現する」という意味。
つまり、「食欲不振の症状だけが出る」というのはあまり無いことでして、よくよく見たり聞いたり調べたりすると、実は他にも症状が現れていたということが多いです。
多いパターンとしては、
嘔吐、軟便などの消化器症状
体のどこかの痛み
おしっこが出ていない
熱がある
みたいな症状。
特に痛みや熱などは、飼い主さんが気づきにくいかもしれませんね。
痛みがあるかどうかは、触診である程度分かります(後述)。
抱っこした時や撫でた時にちょっと熱っぽいな〜と思ったら発熱があるかもしれません。
また、排尿の異常がある場合も要注意。意外と気づかないことがあります。
特におしっこが出ない尿閉と言われる状態はかなり危険。尿として排泄するはずの毒素が、体に蓄積して食欲が無くなります。
尿閉の原因が尿路結石であれば、痛みでごはんを食べなくなります。
何だか食欲が無いなと思ったら、とにかくよく動物を観察しましょう。
お水を飲むか、おしっこは出ているか、うんちが出ているか、動き方歩き方は変ではないか、色々気にして見てあげてください。
他の症状が何も無いけどごはんの食べが悪い→わがまま病の可能性
他の症状も一緒に出ている→体調不良の可能性
といった感じで見分けます。
他の食べ物なら食べたそう?
カリカリだけ食べないとか、いつも食べているごはんを食べない場合は、いつもよりちょっと美味しいものをあげてみて下さい。
例えばウェットフードとか、チュールとか。
美味しいものだったら食べる状況なら、少なくとも今すぐ病院へ!!という状況ではありません。(あんまり連日続くなら病院へ。)
逆に大好きなおやつすら食べないというのであれば、何か不調があることが多いです。病院へ連れていきましょう。
抱っこを嫌がらない?
痛み症状の有無を確認するためのひとつの方法は、「抱っこ」です。
例えば、お腹が痛かったり、背中が痛かったり、首が痛かったりすると、抱き上げた時にキャイン!と鳴くことがあります。
酷い痛みがある場合は、いつも怒らない子が怒ったりします。
抱っこ以外の痛みチェック方法は以下の通りです。
・お腹の痛み
お腹を下から少し摘むようにぐっと押さえます。
柔らかくてフニャフニャなら「痛みなし」、反発してお腹にチカラをいれるようだったら「痛みがある」可能性があります。
⇒考えられる主な疾患:膵炎、腹膜炎、腸閉塞、腸重積、尿路結石、腫瘍など
・背中の痛み
背中のゴツゴツした突起(棘突起)の左右を、2本の指でグッグッと指で押していきます。
尾側から頭側に向けて、位置を少しずつずらしながら、全体を押していくとき、どこか一箇所でも腰が抜けたり、鳴いたり、頭が振り向いて嫌がる様子があれば、そこが痛む場所です。
⇒考えられる主な疾患:椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍、椎間板脊椎炎など
・首の痛み
頭を後ろ側からもち、上下左右にゆっくりと動かします。真上真下を向いた時や真横を向く時に、キャインと鳴いたり、あるいは特定の位置までは曲がるけどそれ以上曲がらない場合は、首に痛みがある可能性があります。
⇒考えられる主な疾患:頚部椎間板ヘルニア、COMS、環軸不安定症
足が痛くて食欲がなくなるような場合は、足が相当痛いので、明らかにびっこを引いたり片足だけ地面につけなかったりするはずです。
歩き方も注目してみてあげましょう。
思い当たるきっかけは?
例えば、ストレスになるような環境の変化や、今まで与えたことがないものを食べさせたとか、そういった思い当たる節みたいなことはないですか?
引っ越し
お客さんが来た
同居の犬が亡くなった
といったことがあるだけで、ストレスに弱い犬は結構ダメージを食らいます。
またいつもと違うフードやおやつを食べた時は、消化速度の違いなどから一時的に食欲がないように見えるかもしれません。
そういう「ちょっと思い当たる節」みたいなのがある場合は、少し時間をおいて観察してみてください。
環境の変化に慣れてくれば、次第に食べるようになる可能性もあります。
数日経っても食欲が変わりないのであれば、動物病院へ相談しましょう。
飼い主さんの直感は結構大切
実は、飼い主さん自身の直感もとっても大切です。
お腹が空いて目で訴えてくる
ドライフードを入れると「これじゃない」みたいな顔をする
目を離すと諦めて渋々少しだけ食べる
・・・みたいなこと、無いですか?
いつもペットを見ている飼い主様なら、そういった細かい機微が分かるはずです。
「あ、これわがまま病かもな。」
っていう直感は案外当たっていることがあります。
逆も然り。
これはいつもと様子が明らかに違う。
ちょっと体調が悪そう
・・・みたいなことは、その子の「いつも」を見ている飼い主さんが1番よく分かるんですよ。
直感的に嫌な予感がするならば、早めに動物病院へ連れて行きましょう。
何日間なら食べなくて平気か?
我々獣医師は、上記の内容を問診で細かく聞き取りしたり触診したりすることで、食欲不振の原因を追求します。
最終的に何も体調に異常なく、ただのわがままだと判明したとき、飼い主さんには「美味しい物を与えるのを少し我慢して、諦めてドックフードを食べるまで粘ってください。」とお伝えします。
そんな時、何日くらいなら粘っていいのかと尋ねられます。
その子の状況にもよりますが、健康な成犬ならば2日くらい食べていなくてもよっぽど平気です。
※水はちゃんと飲んでいることが前提です。
※犬の話です。猫は絶食時間が長いと肝臓にガタが来ます。
※子犬は例外。空腹時間が長いと低血糖を起こします。
丸2日粘って食べなければそれは何かしら体の不調があるのかもしれません。再度、病院に連れていきましょう。
まとめ
食欲不振の原因はたくさんありますが、体の不調なのか、ただのわがままなのかは、大きな違いです。
色々と書いてきましたが、大前提をお伝えします。
不安なら即刻動物病院へ行くこと。
その不安を解消するための検査にも意味はあります。
検査は何か異常があったときだけ価値があるわけではなく、「何も異常なかった」という安心感を得られたときにも十分価値があります。
心配ならかかりつけの先生に相談してもらうことをおすすめします。