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やがてマサラ#9 マレーシア留学とインド映画

みなさんこんにちは。楽しいインド案内人アンジャリです。なぜ私はここまでインドに惹かれたのか? その理由はきっと生い立ちにまでさかのぼるのだろうなあと思ってこの半生記を書き始めました。

オリジナルは2020年2月に書いたもの。現在、その後出てきた新たな写真なども加え再構成、再掲しています。46億光年を振り返るのはなかなか大変、やっと半分来たところです。


ペナン島留学

ときは就職氷河期でした。

旅がおもしろくて就職する気などまったくなかった私は、卒業を遅らせようと大学を1年間休学。最初の数か月は費用稼ぎのアルバイトに精を出し、後半はマレーシアのペナン島にあるマレーシア科学大学に語学聴講生として留学しました。

ペナン島は外国人観光客の多い北部のリゾート地を避ければ物価も安く、南部の大学近くの超ローカルなフラット(アパート)の家賃も当時はまだ安く、気候は温かく、なにを食べてもごはんが美味しい、まことに結構な場所でした。3ベッドルームのフラットはシェアメイトがいて賑やかだったり、私ひとりで広々使ったり。

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就職したくないという理由で留学していますから、大学には学食にごはんを食べに行くのがメインという不届きな学生です。当初フラットメイトだったリビア人学生にバイクの運転を習い、スズキのオフロードタイプのバイクを中古で買い、「マサラ1号」と名づけて島内外を乗り回していました。

その年は日本で『ムトゥ 踊るマハラジャ』が公開された年でもあり、すっかりハマった私は上映館だった渋谷のシネマライズにいったい何度通ったことでしょう。現在アンジャリツアーのお客様は熱烈な『バーフバリ』ファンの方が多いのですが、その熱狂と渇望と、何を欲しているのかが手に取るように分かるのは、私自身が熱狂の渦に身を置いたことがあるからです。

歌って踊って祭りだホイ!

ペナン島留学時代はなぜか、1979年のイラン革命で国外に亡命したというイラン人写真家のオジサンや、首都クアラルンプールで証明写真を撮りにたまたま入った写真館のモデルを務めたりしました。その後の人生ですくすく(横に)育ち、モデルというにはどうにもたっぷりした体型に変遷していきましたので、まだ細かった時代を写真に残せてとてもよかったです……。ええ、シレッと載せちゃえ企画です。

こちらはイラン人のオジサンのほうのとき。名前をすっかり忘れていましたら、パンドラの箱から当時いただいたお手紙が出てきました。マルコという名の、三千里旅して訪ねて行きたくなるようなオジサンでした。

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こちらはクアラルンプールのアイドル風変身写真館のカメラマン氏に撮っていただいたもの。証明写真を撮りに行ったら「モデルになってくれたらタダで撮ってあげる」の言葉にもちろん答えはSay Yesです。

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これらの大変身写真は、クアラルンプールのショッピングセンターで当該写真館の看板になりました。探してももうないよ(笑)

このときのカメラマン氏はいまはシンガポールでウェディング専門のビデオグラファーとなり、飲食店の経営もこなし、日本へも何度も来日。大成功したビジネスパーソンになっています。おまけに男前。ちょっといい感じだったのに、なぜあのとき口説かなかったのでしょう。まこと後悔は先に立ちません。

オーディション番組でシンガポールへ

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留学後、まだ曙橋にあったフジテレビまで深夜のオーディション番組"Asia Bagus"のオーディションに行きました。東南アジアが放映圏の番組で、インドネシア語専攻とマレーシア留学というレア感から採用になり、シンガポールまで収録に行きました。年1回のグランドチャンピオン大会で優勝すると東南アジアで歌手(アーティストという呼び方はしていない時代です)デビューできるという、かの地では超人気番組で、出演者も各国から。1週だけ勝ち抜きましたのよ、おほほ。

※2022.7.24.訂正:この番組に出演したのは1996年、留学前のことでした!詳しくはこちらで!(記憶ヤバい!)

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この方どなたか全然覚えていませんが、番組にゲスト出演していたラッパーさんだったかしら。

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インド人街通いで運命の出会い

さて時計を少々巻き戻しまして、留学時代再び。留学先のペナン島は中国系マレーシア人の多い土地ですが、タミル系住民も多くインド人街がありました。私の日課はそのインド人街にバイクで乗り付け、当時主流だったインド映画のVCD(ビデオCD)を買い漁ることでした。すっかり顔なじみになり、新しいブツが入荷すると黙っていても目の前に出てくるようになりました。

そこで出会った一枚のVCD。店のお兄さんが「これ先週インドで公開されたばかり、『買い』だよ」と差し出してきました。当時はオンライン配信などない時代です。なぜ公開直後のインド映画のVCDがマレーシアのペナン島にあるのか。

その謎は再生して分かりました。

人影が映る、画面が揺れる。そう、それは映画館で盗撮したイケないシロモノだったのです。そんなにまでして最新作が観たいのかインド人。半ば呆れつつ、愛機IBMのアプティバくんの前に座り、鑑賞。

何かが起きている"Kuch Kuch Hota Hai"

開始数十分の印象はあまりよくはありませんでした。あ、大昔の作品とはいえそこそこネタバレしているのでこれから観たい方は以後閲覧厳禁ですよー!

物語前半、当時30歳を超えたぐらいだったボリウッドの帝王シャー・ルク・カーンがかなり無理のある若造りで学生を演じていました。なにそのダッサいパーカー。なにその嬉し恥ずかし学園生活。私が観たいのはね、血湧き肉躍り興奮のるつぼのコッテコテのインド映画なのに。なんなのこのダルい展開。ちょっと見てくださいよ、このダサさ。

※以後、ダンスシーンで進行する物語を追ってまいります。

はいはい、ちょっとワルのあいつと私は、なんだかんだいがみ合いながらもベストフレンド。少女漫画の世界よね、そこからときめきが始まるのよね。

などと斜にかまえつつ物語は進行していく。

突如現れたきれいなあの子。あいつとあの子は仲のよさを隠そうともしない。

相変わらず生ぬるい学園風景はダサいし、あいつはぴちぴちTシャツ似合ってないし。あれ、でも、ダンスのフォーメーションとカメラワークはちょっといいな。目で語るやんちゃなあいつもわりと……きゅんとしてしまうかも。

どんどん近づいていくふたりを指をくわえて眺める私は……、色気のイの字もないドジっ子。え、待って。これはなに? なぜこんなに胸がざわつくの?

Tum paas aaye Yoon muskuraye
Tumne na jaane kya Sapne dikhaye
Ab toh mera dil Jaage na sota hai
Kya karon haai Kuch kuch hota hai
きみがそばにやってきて、笑顔を見せてくれて
ぼくがどんな未来を描いたか、きみは知ってるかい?
心に湧き上がる不思議な気持ち
ああどうしたものだろう、なにかが起きている

そんな歌詞に乗せて、きゃっきゃする恋人たちの姿。

あいつと私はベストフレンド。きれいなあの子とあいつはお似合いのカップル。あいつは親友、私の相棒。恋心なんて持ってない。

ダルかった展開に、気づけば引き込まれていました。これは、大好きだった少女漫画雑誌『りぼん』の世界ではないか。

ふたりのアンジャリ

その後、きれいなあの子とあいつは結ばれ一女をもうけるものの、産後の経過が悪く母親は亡くなってしまう。男親と祖母に育てられたその子の名はアンジャリ。母との唯一の絆は、母が亡くなる前に書き残してくれた手紙。毎年誕生日に一通ずつ渡されてきた。

8歳の誕生日に開いた手紙には一枚の写真とともにこんなことが書いてあった。

「あなたももうずいぶんしっかりした年になったわね。そこでママからお願いがあります。お父さんには学生時代こんな親友がいたの。私はこの世を去っていくけれど、この人を探し出してお父さんにまた引き合わせて。それが私の願い。その人の名前はアンジャリ、あなたの名前は彼女からとったのよ」

8歳アンジャリが意を決して探した結果、父の親友アンジャリは見つかったが、ころはまさに、美しく成長したアンジャリがようやく遅い結婚を決めたタイミング。その優しくハンサムな婚約者は最近マッチョな兄貴で名を馳せているあの人でした。

再会したときには彼女はすでに誰かのもの。おまけに婚約者はやたら甘ったるく見た目も言動もイケメンでいやがる。それにしても、あのドジっ子がこんなにきれいになっているなんて。

と、前半の女子ふたりに男子ひとりのドリカム構成から、後半は女子ひとりに男子ふたりのwith B構成になります(例えが古いのはご容赦ください)。
※2022.7.24. 注:これドリカム構成ちゃう!(笑)

子持ちのヤモメゆえ想いを口に出せない父親の葛藤とか、子アンジャリのパパの幸せを願う気持ちとか、イケメンの最後まで圧倒的なイケメンぶりとか。シャー・ルク・カーン(あいつ)は目で語る。相手役カジョール(元ドジっ子)も目で語る。当時はヒンディー語はほとんど分からなかったけれど、表情や仕草だけで充分すぎるほど伝わりました。インドの俳優の演技力すごいなと思いました。

脇を固める味に溢れた俳優陣もたまらなくいい。あちこちに仕掛けられた伏線もホエーっとなる。つまり脚本がとてもいい(ちなみに監督・脚本はこの作品がデビューかついきなりの大ヒットだったKaran Johar氏です)。

そして数々の名台詞。乙女心はこういうベッタベタな台詞を聞きたいものなの!

Pyar dosti hai ... agar woh meri sab se achchi dost nahin ban sakti, to main usse kabhi pyar kar hi nahi sakta ... kyun ki dosti bina toh pyar hota hi nahin ... simple, pyar dosti hai(愛とは友情のこと。一番の友人になれてこそ愛が生まれる。なぜなら愛とは友情なしには成り立たないものだから。愛とは友情のこと)

Hum ek baar jeete hai, ek baar marte hai, shaadi bhi ek baar hoti hai ... aur pyar ek baar hi hota hai(人の人生は一度、それを終えるのも一度。夫婦の誓いも一度、そして誰かを愛するのも一度)

気づけば流れ流れる涙。どれだけ泣いたか分からない。ひどいクオリティのイケない海賊版を、何度も観て、その度に目が腫れるほど泣きました。

はい。私のビジネスネーム「アンジャリ」はこの映画からいただいてます。

この作品の印象があまりに強く、これをきっかけに私はいよいよ本格的にインド映画の世界にハマっていくことになりました。そんなお話は次回に。

残念ながら我が思い出の本作は、2021年4月現在、日本で観られる配信サービスはないようです。Youtubeにドイツ語吹き替えとインドネシア語吹き替えのフルムービーがあるのは確認しました。公式ではないのでリンクは貼りませんが、ご興味のある方は探してみてね。

2023.9.2.追記: 現在はNetflixを英語設定にすると英語字幕で観られます。ヒンディー語全然分からなかった25年前の私が理解できたくらいだから強火のみんなは念力で理解できると思う。





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