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大手声優事務所がAI声優を世界進出させる一方で、声優有志26名が無断生成AIに反対

声優業界で2つのビッグニュースがありました。

1つめは、大手声優事務所・青二プロダクションが、AI音声サービス・CoeFontとグローバル戦略パートナーシップを締結したニュースです。

プレスリリースによれば、青二プロダクションに所属する人気声優のAI音声をグローバルに展開するとのことですが、そうなると以下の声優のAI音声が利用できることになります。

  • 野沢雅子

  • 悠木碧

  • 佐倉綾音

  • 沢城みゆき

  • 田中真弓

  • 大空直美

  • 皆口裕子

  • 神谷浩史

  • 島崎信長

  • 緑川光

この布陣はすごいですね……。

そしてもう1つのニュースが、26名の声優有志が『NOMORE無断生成AI』を訴えかける動画が公開されたことです。

『ドラゴンボール』のフリーザ役で知られる中尾隆聖さんを始め、山寺宏一さん、梶裕貴さんなどの有名声優が、生成AIの無断利用に対して警鐘を鳴らしています。

今、生成AIを巡って声優業界に大きな転換点が訪れようとしてます。本記事では、この2つのニュースを元に、AI声優の未来について解説しようと思います。


【大前提】生成AIとの共存は必須

まず前提として、もう生成AIのムーブメントに抗うのは不可能だと考えます。

今回、業界最大手の声優事務所・青二プロダクションがCoeFontとパートナーシップを締結していることから分かる通り、声優および声優事務所は生成AIを前提としたビジネスモデルに切り替える必要があるでしょう。

例えば、AI音声サービス・CoeFontは、1ヶ月3,300円〜でAI音声の商用利用が可能で、実際に声優を起用するよりも遥かに安く利用できます。多くの人々が、AI音声サービスを使ってコンテンツを制作するようになるのは間違いありません。

音楽配信サービスの登場と非常によく似ている

この状況は、当時CDが収入源だった音楽業界と非常によく似ていると感じます。

従来の音楽業界は、CDやアルバムの売り上げが収入源でしたが、インターネットの普及で楽曲データが違法でコピーされるようになり、CDを軸にしたビジネスモデルは崩壊します。

今は音楽配信サービスが普及していますが、1曲あたりの販売単価は劇的に小さくなり、多くのミュージシャン及びレコード会社は、ビジネスモデルの大転換に迫られました。結果として音楽業界は、音楽配信サービスをプロモーション手段の1つとして捉えるようになり、ライブや物販に力を入れるようになっていきます。

同じく声優業界でも、AI音声サービスの登場により、ちょっとしたナレーションやデモ音源であれば、わざわざ声優を直接起用する必要性はありません。その代わりに、これまで以上に多くの人が、声優の「声」を利用するようになると予想されます。

そう考えると、音楽業界と同じように、AI音声サービスをプロモーションの1つとして捉え、声優自身が持つ演技力やトーク力に大きな価値が生まれる可能性が高くなるのではないでしょうか?

日本人声優のグローバルでの需要

現在、日本のアニメ人気も相まって、日本人声優のグローバル需要が拡大しているのではないかと考えられています。

やはり世界各国を見ても、これほどまで声優文化が成熟している国は日本以外存在しません。日本には多種多様の「声」が存在しており、これをAI音声で多言語展開できるようになれば、ビジネスチャンスは大きく広がります。

AI声優にできないこと

生成AIと共存するにせよ、対抗するにせよ、AI声優にできないことを追求する必要があるのは言うまでもありません。

では、AI声優にできないこととは、一体何でしょうか?

まずは感情表現及び演技力です。現時点では、やはり人間の声優の方が圧倒的に演技力が優れているため、クリエイティブな領域では人間の声優の方が有利です。ただし、AIの進化は凄まじいので、近い将来、80点ぐらいの演技はできるようになるのではないでしょうか? そうなると、演技に強くない声優が淘汰される可能性は十分にありえます。

また、現時点でAI声優は「提案」ができません。実際に音声を録音する際、登場人物になり切る声優が提案・工夫することがあると思いますが、これもAI声優には難しいです。

そして何よりも、AI声優は所詮バーチャルな存在です。実際に現実世界に存在する「本物の声優」になれるわけではありません。その声優の容姿や存在そのものは代替できないわけです。そうなると、現場での歌唱ライブやトークイベントは、AI声優の代替が難しいと思われます。

無断生成AIの利用

次に、声優有志26名が訴えている『NOMORE無断生成AI』について解説していきましょう。

まず勘違いしてほしくないのは、あくまでも声優有志の方々は「無断」を許していないだけで、生成AIの利用に反対しているわけではありません。例えば、声優有志に参加している梶裕貴さんは、自身の声のAI音声ソフトを発表しています。

どんな無断利用がある?

具体的には、以下のような無断利用があるようです。

  • 声優の承諾がない歌ってみた動画

  • 声優の音声データの無断販売

  • キャラクターボイスとして無断販売

「声」は法律で保護されていない

この問題が厄介なのは、「声」が法律で保護されていないことです。

著名人の場合、著名人の商業的価値を守るパブリシティ権が適用される可能性がありますが、まだ裁判が実施されていないため、法的に曖昧になっています。

「声」の認証制度が2025年に開始予定

これに対してAI業界とエンタメ業界は、AI音声の認証制度を整備する団体「AILAS」を設立。声優の方々が認証団体に音声データを登録し、その利用権をAI音声サービス提供事業者に発行することで、用途を追跡することが可能になるそうです。

少なくとも商用利用で無断利用はない

私が思うに、ちゃんとした企業・個人であれば、無断生成AIでAI音声を利用することはないと思います。なぜならCoeFontで、既に格安でAI音声を利用できるためです。無料とはいえ、無断生成AIを利用するリスクの方が明らかに大きい。

少なくとも私であれば、おとなしくCoeFontを使って、ナレーション音声を作成すると思います。

完全に「声」を保護するのは無理説

個人的な推測の域を出ませんが、仮に「AILAS」で認証制度が確立されたとしても、完全に「声」を保護するのは不可能ではないでしょうか?

結局今も、違法動画や違法音源がSNS上でアップロードされています。それどころか、多くの権利者は違法動画等をスルーしているように思えますし、何なら「プロモーションの一環」ということで放置しているようにも見えます。

例えば、『涼宮ハルヒの憂鬱』の名曲『God knows……』のYouTube動画は、元々は完全にブラックでしたが、現在は1.2億回再生され、最終的にはKADOKAWAも公認しました。

有志?のMAD制作者が持つスピード感と創造性は、バカにできないものがあり、このネットカルチャーはそのままプロモーションにも応用できます。

きっと声優の方々の中でも、違法MADを完全容認し、それを元にプロモーション戦略を練る人が現れるでしょう。

訴えられないのが問題

今回の『NOMORE無断生成AI』の最大の問題点は、法整備が進んでいないために、声優が訴えることができないということです。MADを容認するかどうかは一旦置いておいて、声優が「No」を選べない状態は、よろしくないと思います。

この問題を解決するには、2つの方法があります。1つめは、法律を整備し直すこと。「声」に対してパブリシティ権が適用されるようになれば、声優が無断生成AIに訴えることが可能になります。

2つめは、TikTokやYouTubeを始めとするプラットフォームが規制を強化すること。というより、スパムを報告したらちゃんと適用されるようにすること。YouTubeはちゃんと報告すれば違法動画を排除してくれるので、これがTikTokやInstagramにも適用されるようにしてほしいですね。

権利の完全保護ではなく、YesかNoか選べることが大事

一方で私が危惧しているのが、認証団体の権利が強くなりすぎて、声優が「Yes」か「No」か選べなくなってしまうことです。

これは既得権益とかいう話ではなく、文化の発展の問題になります。

例えば世界の音楽業界では、サンプリングやリミックスが当たり前で、DJやアーティストもそれを許容できます。。一方で日本の場合、JASRACが権利を管理することが多いため、アーティストが「Yes」か「No」が選べない状況が続いています。日本の音楽業界が衰退した理由として、JASRACによる権利保護が強すぎることが挙げられているくらいです。

このような認証団体は、基本的に「事務所及び企業」がまとめて登録することが多いため、アーティストや声優の方々が主体的に判断しづらい状況が続いています。

そう考えると、今後生成AIを味方につけるには、権利管理に関しても声優が主体的に取り組んでいく必要があるのかもしれません。

【編集後記】未来の声優のマーケティング戦略

さいごに「未来の声優のプロモーション戦略」を、私見たっぷりに解説しようと思います。

これまでのインターネット文化の成長を考えても、「無料」を活用してプロモーション戦略を進めた方がいいのは間違いありません。生成AIがもたらす「無料」は、法律的な問題を無視すれば、非常に強い拡散力を持ちます。

まず前提として、CoeFontを始めとするAI音声サービスにデータを登録。それからMAD動画や二次創作に関しても、ガイドラインだけ公開して、可能な限り寛容な態度を取るのがいいと思います。特に、海外のミーム動画とかに採用されれば最高です。

それと同時に、マネタイズポイントに関しては、生成AIにできないところ(複雑な演技・ライブ)に設定するのがいいでしょう。

そしてここが一番重要だと思うのですが、事務所選びに関してはストイックに考えるべきです。場合によっては、事務所に所属せず、完全にフリーで活動していいかもしれません。なぜなら、AI音声サービスが登場した以上、結局は声優自らが営業・プロデュースしなければ生き残れない時代が到来するからです。

はたして今後、声優文化はどのようなステップで成長していくのでしょうか? 近い将来、声優業界について深く取材したいと思います。

参考文献


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