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ジブリのサイン色紙が3,000万円越え!?アニメ・マンガの中間素材の可能性についてまとめてみた

2018年5月5日、『鉄腕アトム』の原画がフランス・パリで競売にかけられ、26万9,400ユーロ(当時で約3,500万円)で落札されました。

日本のアニメ・漫画文化の芸術的価値が認められた瞬間です。

2022年9月7日には、まんだらけのオークションにて、宮崎駿さんの『風の谷のナウシカ』のサイン色紙が3,250万円で落札。2024年10月20日には、京アニ出身のアニメーターである故・池田晶子の『響け!ユーフォニアム』のサイン色紙が100万円で落札されています。

このように、アニメや漫画の中間生成物は、大きな価値を持つようになっており、これからも高騰していくことが予想されています。

当然、これはコンテンツビジネスの視点でも、注目すべきテーマです。いずれ、1枚の原画で何億円もの値が付くようになるとしたら、それに合わせてビジネスモデルを変更していく必要があるでしょう。

そこで本記事では、アニメ・漫画の中間生成物について、まとめていきます。


【前提】アートに価値がつく理由

まず前提として、なぜアートに価値がつくのかを解説します。

アートの世界で、1枚の絵に凄まじい価値がつく理由は以下の通りです。

  • 希少性

  • 作家のブランド

  • 美的センスと技術力

  • 美術市場の需要と供給

  • 社会への影響力

  • 歴史的価値

  • 投資価値

理由1.希少性

アーティストが制作した芸術品は、基本的に一点もので、複製が不可能であることが多いです。

「絵ぐらい簡単に複製できるでしょ?」と思うかもしれませんが、実は多くの芸術作品は、極めて難しい制作技法で制作されているため、複製は簡単ではありません。

また、アーティストが既に亡くなっている場合、もう作品が制作されることがありませんので、希少価値が高まります。

理由2.作家のブランド

一般人が描いたサイン色紙と、ジョン・レノンが描いたサイン色紙では、どちらも同じクオリティだったとしても、価値が全く異なるものになります。

作家にブランドや知名度がある場合は、それがそのまま価値に乗っかります。

理由3.美的センスと技術力

そのアートのビジュアルが素晴らしいかどうかでも、価値は決定されます。

これは、作家の美的センスと技術力によって決定され、ビジュアルが素晴らしいかどうかの判断は、批評家や同業者によって下されることが多いです。

理由4.美術市場の需要と供給

アートとは言え、売買される以上は、需要と供給によって価格が決定されます。

また、美術市場のギャラリーが、作品の価値を戦略的に高めることもあります。

理由5.社会への影響力

作品の社会への影響力も重要な指標です。

例えば、2024年7月13日の選挙集会で撮影されたトランプ前・大統領の写真は、大統領選の流れを大きく変えたことから、社会への影響力は絶大だと考えられます。当然、この写真には高値がつくことでしょう。

理由6.歴史的価値

アートは、時が経つにつれて歴史的価値を有するようになります。

例えば、中世のルネサンスや、江戸時代の大衆芸術は、当時の社会情勢を象徴するものなので、美術的価値だけでなく文化的価値も有しています。

理由7.投資価値

近年はアートが、株式や不動産に並ぶ資産として位置付けられることが多いです。

歴史的価値を有するアートは、保存状態が良好であれば、時が経つにつれて価値が高まります。

また、金融緩和でお金が余ると、それが美術市場に流れて、結果的に価値が高まることもあります。

アニメ・漫画の中間生成物に価値がつく理由

以上の前提知識を踏まえた上で、なぜアニメ・漫画の中間生成物に価値がつくのかを考えてみます。

理由1.原画は唯一無二のもの

アニメや漫画を制作する際に生成される「原画」は、この世に1つしかない唯一性を持っています。

そのため、希少価値は極めて高いと言えます。

理由2.作品の社会的影響が大きい

アニメには、社会的影響の大きい名作が数多く存在します。ある特定のアニメで「人生が変わった」という人も珍しくありません。

社会的影響が大きい作品は、必然的に価値が高まります。

理由3.アニメがクールなものに

現在、世界的にアニメブームが到来しており、特に海外では、日本アニメがクールなものとして認識されるようになっています。

アニメは美術品に匹敵するセンスや雰囲気を纏うようになっており、価格が高騰してもおかしくない状況です。

理由4.投資価値が見込める

中長期的に、アニメ市場は大きく成長する見込みとなっています。

市場規模が大きくなれば、アニメマネーも増えてくるので、アニメ・漫画の価値が高騰しても不思議ではありません。

アニメ・漫画は、浮世絵や絵画に比べて歴史が浅いので、今後どうなるかは、まだわからないところではあります。

現状の課題は何?

アニメ・漫画の中間生成物は、長期的に大きなポテンシャルがあると個人的に考えます。

鳥山明先生が亡くなられた今、『ドラゴンボール』の原画が高騰するのはおかしくない話ですし、100年も経てば凄まじい価値になっている可能性も否めません。

江戸時代の大衆メディアだった浮世絵は、現在、凄まじい価値になっています。そう考えれば、アニメ・漫画どころか、同人誌で凄まじい価値がついてもおかしくないでしょう。

一方で、アニメ・漫画の中間生成物を長期的なビジネスに昇華させるには、いくつかの課題を乗り越えなければいけません。

一般層に理解されづらい

アニメの原画に限らず、アートの価値というものは、一般層には中々理解されないものです。

これの何がマズいかと言うと、価値を知らないまま、原画が廃棄される可能性があるということです。

はたして縄文時代の人々は、土偶に凄まじい価値がつくことを想像できたでしょうか?

同じく、同人誌も「所詮500円だから」ということで、廃棄されることがあるかもしれません。

漫画家の親族が「邪魔だから」ということで、原画を処分してしまうのはよくある話です。

このような悲劇を生み出さないためにも、可能な限り多くの人に、アニメ・漫画の中間生成物の価値を啓蒙する必要があります。

所蔵システムが完備されていない

海外では、アート活動が盛んなので、美術品の所蔵システムが充実しています。

一方で日本のアニメや漫画の場合、中間生成物の所蔵システムが未整備なので、そのまま廃棄されることが珍しくありません。

アニメ・漫画の原画は、本来はアニメスタジオや作家が保管すべきなのでしょうが、当然、保管スペースにも限りがあります。それに、価値が見出されるまで100年以上経過する可能性もあります。

そのため、「民間ではなく国や政府の主導でアーカイブシステムを構築したほうがいいのではないか」という意見が広まりつつある状況です。

学芸員の不足

また、博物館や美術館に勤務する学芸員が不足しているのも問題です。

学芸員が不足している理由はいくつかありますが、もっとも大きいのが「予算の削減」です。美術館に回る予算が削減されているため、労働量が多い割に給与が低い状況が続いています。

そのうえ、もしアニメ・漫画の中間生成物のアーカイブ拠点を本格的に立ち上げるとき、必要になる人材は真贋判定ができる学芸員です。

真贋判定には専門的な知識が必要になるため、今のうちに業界全体で育成を進める必要があるのではないでしょうか?

利益がクリエイターに還元されない

アニメ業界はブラックな労働環境が話題になることが多いですが、中間生成物に高い価値がつくなら、それを収入源の1つに組み込む方法が考えられます。

しかし現状として、中間生成物の取引利益がクリエイターに還元されることは、ほとんどありません、

ロイヤリティ分配のルールを記述できるNFTには、大きな可能性がありますが、世に出回るほとんどのNFTがフルオンチェーンではないことを考えると、将来的に凄まじい価値がつく可能性は低いのではないかと、個人的に考えます。

フルオンチェーンとは、データを完全にブロックチェーン上に記載したもの。一般的なNFTは、所有者情報やトークンIDしか記載されていないため、データそのものが未来永劫残り続けるわけではありません。そのため、永続性が担保されるフルオンチェーンが理想ですが、データ量が増えると保管コストが劇的に大きくなるデメリットがあります。そのため、フルオンチェーンNFTのほとんどがドット絵です。

著作権管理の複雑さ

中間生成物は、著作権管理が複雑です。

漫画の場合、漫画家が著作者になりますが、アニメの場合、アニメーターではなくアニメスタジオが著作者になるケースが多いようです。契約によっては製作委員会が著作権を有しているケースもあるかもしれません。

そうなると、中間生成物を収集・取引したい場合に、複雑な交渉が必要になるケースが考えられます。

アニメ・漫画の中間生成物で注目すべきポイント

では今後、アニメ・漫画の中間生成物の動向を追っていきたい場合は、何に注目すればいいのでしょうか?

まずは中野ブロードウェイへ

東京圏に居住している方は、まずは中野ブロードウェイに訪れましょう。

東京のオタク街と言えば秋葉原と池袋ですが、原画に関して言えば、中野ブロードウェイがホットスポーツです。

世界で唯一のセル画専門店「アップルシンフォニー」や、まんだらけの「アニメ館」など、アニメ制作の中間生成物が多く取引されています。

もちろん、ほかのレトロなオタクアイテムを見て回れるのも、中野ブロードウェイの魅力の1つです。ぜひ一度訪れてみてください。

新潟大学アニメ・アーカイブ研究センター

新潟大学では、2016年からアニメ・アーカイブ研究センターが発足され、アニメ中間素材の収集・保管・研究に努めています。

元々、新潟市は「マンガ・アニメのまち」としてプロモーション戦略を組んでいた地域で、2023年からは新潟国際アニメーション映画祭が開催されるようになっています。

アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)

庵野秀明さんが理事長を務めるアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)も要注目です。

ATACはアニメの原画や特撮のミニチュアの永久保存を目的として非営利組織で、庵野秀明さん自身が、政府の委員会で「アーカイブ保存の重要性」を説明したこともあります。

定期的に講演会やワークショップを開催しているようなので、時間があれば参加してみるといいのではないでしょうか?

【編集後記】アニメの中間生成物はアートになる

完成物のアニメやマンガとは異なり、中間生成物は、基本的に一点もので、広く普及していません。そのために希少価値がつき、高値で取引されている現状があります。

以前、YouTubeの動画で現代アーティストの村上隆さんが「鳥山明が亡くなったから、孫悟空の絵を見て人が涙を流すようになる」みたいなことを言及していました。そして自分自身を「日本のポップカルチャーと世界の現代アートの橋渡し的な役割」と位置付けており、「ドラえもんの原画はもっとすごい価値がつくようになる」とも述べていました。

たしかにあと数十年すれば、孫悟空の絵は凄まじいプレミアがついているかと思います。

というのも現にヴィンテージTシャツの世界では、80年代から90年代に製造された超希少アニメTシャツが、数十万円ほどの高値で取引されているためです。たった30年ほどの「熟成」で、これだけの価値が出るのですから、ここからさらに時が経てば、もっと高い価値がつくようになると思います。

そう考えると、今後コンテンツを制作する際は、長期的に愛される作品を作っていくべきかもしれません。ここで言う「長期的」とは、10年や20年ではなく、100年後や1000年後のことです。

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