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魔女の宅急便@ほぼ全画面分析その10

前回「その9」はこちら


【211】雨のなか、びしょびしょになって帰宅するキキ。
トレードマークの赤いリボンがくたくたになっているあたりが、『造形的に』濡れそぼった感じがよく出ています。
衣服の胸のあたりのシワのつけ方も濡れた感じに。


【212】キキは帰宅し、トンボはパーティーのお誘いをあきらめて帰る。『2つの運動』がすれ違う。
これもまた『複数の運動性』ですね。


【213】キキの帰宅に気がついて、オソノさんが窓を開ける。
このとき開くのは右側の窓だけ。
だから右側の窓は『目立たない』ように、セル画として処理されていますね。
左側の窓は背景画でしょうか。


【214】ここも『空間造形の処理』が見事ですね。
家宅の2階から顔を出し声をかけるオソノさんが左側の空間に。
右側の空間に、自分の部屋へ戻るべく階段を上るキキ。
2つの存在を中間に空洞をおいて、運動・存在を交錯させる。
画面中央の車の存在も、目立たないながら空間処理として活きていますね。


【215】傷心のキキはオソノさんの言葉も虚しくひびきます。
思わず階段をかけあがって、部屋へ逃げ込もうとする。
ここで、これまでさんざん強調してきた『腰まわりの存在感』が、階段をのぼる後ろ姿でも確認できますね。


【216】作品としての物語的余白を生み出す、情景のインサート。鉢植えの花の葉に、雨だれが落ち、葉が揺れる。
本当にささやかなカットですが、『葉と雨だれがぶつかり合う・運動としての作用と反作用』が表現されています。
ささやかなカットすら、ゆるがせにしない贅沢なカット。


【217】濡れそぼった衣服を吊るして干す。
濡れた感触を『普通色・影色・ハイライト(輝き)』の3色で表現していますね。
モノ干す行為は『トトロ』や『ハウル』でも見られた宮崎アニメ定番の家事の営みですね。


【218】キキの傷心に鈍感で、寝床のなかでうずくまるキキにあれこれ問いかけるジジ。
こういうのを『狂言まわし』と言いますね。
観客の心の動きに寄り添いつつ、言わずもがなな野暮な言動を代わりにして、ドラマの造形・輪郭を引き立てます。


【219】翌朝、窓をあけようとするジジ。
このときのジジは、オソノさん目線のジジなので、ふつうのネコのような仕草。
窓にあたる光でジジのからだが半分色が薄くなっていますね。
これはアニメ撮影効果=『ダブラシ』を使ってますね。
一般的な用語でいえば、撮影で『二重露光』の技術効果をつかっています。


【220】ジブリの定番場面=『ジブリ飯』のシーンですね。
風邪をひいたキキに、オソノさんが作ってあげる『ミルクがゆ』。
クリーム色のなかに影色をうまく使ってアクセント。椀やお皿の造形・配色も見事ですね。


【221】トンボがお見舞いに来たいと言ってたと、オソノさんに告げられて、おもわず上掛けで顔を隠すキキ。
表情と動作がとても独創的。誰の作画でしょうね。

ぼくはあまり、「誰々が原画だった~」の詮索に興味がないです。
「ここの原画は誰々だった~」とか「誰々がここを担当した~」とかって、「だから誰々は偉かった」の追認にしかならないようなので、それに加担したくない、というのがあります。
誰であろうと、自分にとってここのカットはいいなと思う、それでいいのだと思います。
もちろん、考証として記録しておくことは別問題としてあります。


【222】看病してくれたオソノさんへの感謝が感じられるキキの表情が、シンプルな造形でいながら、とてもよく表現されていますね。
上掛け(毛布?)の素材感、枕のボリューム感、氷嚢の弾力感とあいまって、レイアウトとしても見事で、印象的ですね。


【223】キキの衣服が戸外で干されて、風になびいています。
『作用=風の吹く力/反作用=風に抵抗するようになびく衣服の力感』というアニメの基本的な動きがここでも見事に表現されていますね。


【224】雨のなか帰宅して風邪をひいたキキは、病から回復してホットケーキの食事の準備をします。
『ジブリ飯』がよく話題になりますが、『ジブリ飯を・つくるプロセス』も宮崎アニメでは大事な場面です。
丁寧な描写と作画。


【225】キキがホットケーキを焼いている間に、ジジは外でガールフレンドに恋に落ちます。
ぞわぞわっとするジジのからだ。
宮崎アニメは『性の匂い』を忌避しがちですが、動物の姿形を借りてセクシュアルな表現をしていますね。


【226】
キキにはまだ無縁な【性の圏域】へと、ジジが移行していく。
結果、ジジは【半=動物/半=ヒト】から、【ただのネコ】へ変異する。

ジジは生殖上のオスになり、キキは「飛ぶ」ことを一度失い、再度新しい(自覚で)「飛ぶこと」を獲得する。
ふたりは「成熟」という通過点をたどる。
言ってしまえば『魔女』とは「通過儀礼」の物語なんですね。
(あまりやらない「物語解説」してしまった)


【227】ジジが『セクシャルな圏域』に移行しつつあるのも知らずに、朝食の準備が整ったのを窓から呼ぶキキ。
そこへオソノさんが一階のパン店の裏から声をかける。
このときふたりの視線が90度に直角の交わっているのが分かりますか。
宮崎アニメお得意の『90度の視線の交錯』です。


【228】オソノさんから頼まれ仕事に出かけるのでジジを呼ぶキキ。ここでも1階と2階とで【高低差を使った・運動としての視線の交錯】が活用されていますね。

【性への越境】はひと足さきに、ジジが達成していて、言葉を発さなくなる。


【229】ゆるやかな斜面をくだるキキ。
ただの平坦な道を歩ませるのでなく、勾配を使った【下る力】を配慮した【歩きという基本動作・の応用】が、なげなく披露されています。


【230】お届けものをするキキが路地裏に入ります。
出ましたね。
【両側を壁ではさまれて・斜め奥にパースが続く道】。
宮崎アニメお得意の空間設計。

参考にハウルともののけ姫の『斜め奥』の空間設計を挙げておきます。
そっくりでしょう?


【231】裏道を歩くと、【壁にうがたれた穴】から見える【奥への空間】。
これが一枚絵の背景画で描かれているとは信じられない。
【空間の立体性】が、きわめて鮮やかに提示されていすね。


【232】ここでまた、宮崎アニメお得意の『T字型に交わる空間』が提示されていますね。
宮崎アニメのDNAは本人監督作だけでなく受け継がれていて、『耳をすませば』や『コクリコ坂から』でも【T字型】が登場していますね。

これは『耳をすませば』から。
『コクリコ坂から』。
きれいなT字型空間の造形。


【233】『バルコニー(的空間)』も、宮崎アニメではお馴染みの『特別な空間』ですね。
『耳をすませば』と『紅の豚』からも引用しておきましょう。

あっちこっちにバルコニー的空間が登場しますね。


【234】キキがバルコニー(的空間)で心が解放されている絶好のタイミングで、トンボが背後から現れて声をかけます。
これも【L字型=90度状に交錯する・視線という運動の複数性】。
【アニメの・てにをは】に馴染んだフォロワーなら、ウンウンと同意してくれることでしょう。


【235】
【お互いに・距離のある遠さで・コミュニケーションをとる仕草】がたびたび現れていることに気づかされますね。
これは新しい発見かも。


【237】トンボの家の裏庭でランデブーするキキとトンボ。
ここでも【L字型】にふたりが出会ってますね。
【L字型交錯】とか【T字型空間】とか、そんな言葉でジブリアニメを解説・分析しているのに出くわしたのは、これが初めてのひとも多いんじゃないでしょうか?
これが『アニメの・てにをは』です。


【238】ふたりは画面から見て【遠景】に位置して、動作=『お届け物の受け渡し』するのですが、注目ポイントはトンボが庭の石柱に身を預けるところですね。
この動作によって、ただの背景画だと思っていたものが、一気に『実在するモノとして・活性化』される。
書き割りなんかじゃない背景美術のリアリティが、セル画の動作によって生まれる。セルと背景の協業・共犯関係。


【239】ふたりの背後を、カモメや飛行機が飛んでいますね。
どれも、どうしても必要!というわけでもない細部。
でもこれがあるだけで、空間としての解放感が違うし、この作品の【飛ぶ】というテーマを暗に告げ知らせていますね。


【240】人力飛行機をキキに披露するトンボ。
この作画の妙は、ぼくの解読の能力を超えていますね。
どういうタイミングで【①回転はじめ⇒②回転⇒③回転やみ】が作画されているのか。
ひとつ確かなのは、ここでも【二重露光】の撮影効果を使った『ダブラシ』によって、プロペラが半透明になっています。


このへんで「その10」を終わりにしましょう。
「その11」でまた会いましょう。

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