魔女の宅急便@ほぼ全画面分析~その8
ストーリーやテーマに注目するのではなくて、アニメの「表現」そのものを見据える。
そういう試み=「アニメの『てにをは』」の、『魔女の宅急便』ほぼ全画面の分析、その8です。
前回分はこちらから。
【165】キキの帰還を待ちわびるグーチョキパン店の若旦那。
気になるのは通行人の存在。
中年太り、両手をポケットに、おそらく禿頭を隠すための帽子。
前にも似ているおじさん、登場してますよね。
【166】こういう看板代わりのパンは何か名称があるんですかね?
それはともかく、これもまたジブリ伝統の『料理をセル画化する』作業ですね。
奥さんが新聞読んでて、キキの帰還に無関心なのも、夫婦の対比が活きてます。
【167】「黒猫ぬいぐるみ」のエピソード終わって、一転、時が経過したのを示すための、中心街の様子と、そこから町はずれにあるパン屋さん。
「パン屋が中心街から外れている」というロケーションの対比は、正直、生きていないような気がします……。
パン屋を中心街に置くとモブシーンで忙しいので、群衆が現れるシーンはラストにとっておく。そのために「郊外」を主舞台にした、という憶測もできます。
【168】店番で退屈しているキキの表情。
二、三秒の短いカットですが、こんな微細なニュアンスの表情の変化が描かれて、驚かされます。
これは担当アニメーターの力か、作画監督の力量か、気になるところです。
【169】有名なガニ股&貧乏ゆすりシーン。
ここでもキキの「腰の位置の低さ」が強調されているように感じられるのです。
ここ!というところでミリ単位でプロポーションをいじっているのかと。
【170】退屈しているショーケースのガラスに透けて見える店頭のパン(~ダブラシ)。
【170~2】貧乏ゆすりしている姿のときの、脇にある電話の「セル画」感。あるいは「ハーモニー」処理でしょうか?
【171】留守番しながらお届け物の依頼がなくてジジに愚痴るキキの、百面相。
こういう「表情の多彩さ」を「分析」する言葉は、まだ見つかってないなあ……
【172】トンボが来ても、つっけんどんのこのキキの仕草。
仕草なり表情って、描く者(アニメーターなり演出なり)の「発見」を介さないと観客に提示できない。
だから「らしさ」をなぞるんじゃないんです。
宮崎さんがさかんにスタッフに「観察」を言うんですが、「リアリズムたれ」じゃないと思うんです。
「日常から発見をする営み」を奨励していると思うんです。
【174】キキの頬の赤味に注目。
上はセル絵の具で仕上げていますが、下のはブラシ(セルに直接、スプレーで着色する、ぼかし効果を出した効果)。
違いがわかりますか?
【175】広げている地図の折り目と影のつけ方。これは動画で見てほしいですね。
トンボからパーティーの招待状を提示されてガサッと地図が揺れた瞬間の折り目と影の動き!
【176】パーティーの招待状にかけられたリボンの光沢感!
シンプルな色指定が決まっています。
キキが先日ショーウィンドウでみかけた赤い靴の光沢感と響き合っています。
【177】「情報」同士が、ひとつの画面のなかで交錯していますね。
①お届け物の注文を受けて確認する地図。
②パーティーの招待状。
③ドアの向こうで新しいお客さん。
それと、地図の描きこみがすごい。
【178】アニメに「本当らしさ」を生む、【重さが生み出す作用(持ち上げる力)】と【反作用(荷物の重み)】。
3人3様の表情とポーズも見逃せません。
【179】重い荷物を運び、計量器に乗せる。
その一連の動作でぼくの目が行ってしまうのはキキの腰の存在感。
腰の位置が低いのか、腰の量感があるのか。
キキの腰は随所でその「カッコわるい」存在感を出しています。
宮崎さんなら「働くことの滑稽さと尊厳を表現した」と言うことでしょう。
【180】じーっと画面を見てしまいます。
オソノさんの編み物のあれは黒のトレース線じゃない。
でもピンクの色トレースでもないし……
そしてまた「アニメの画面の中にまた別のアニメ」が映っているテレビ。
【181】ここは確かにピンクの色トレース。
部分的に色トレースを使う場合、トレースマシーンで機械で着色するのでなく、仕上げさんが一枚一枚、動画を下に敷きながら描いた線なんでしょうね。
そういう意味では仕上げさんは動画マン並みの繊細な腕前が必要とされます。
【182】重い荷物をぶらさげているので、塔の頂上でバウンドしながら飛んでいます。
ここも、荷物の重さと柱にバウンドする2種の【作用/反作用】の原理が活かされています。
『カリ城』の塔頂ジャンプや『ハウル』の空中散歩を連想させますね。
【183】この箇所は本編の映像を実際に観てもらうしかないですね。
ホウキにぶらさがった重量級の荷物をしばったヒモが、重すぎて・たわんで起こる、ヒモと荷物の「びよん・びよん」感。
【184】うわー、すごい細かさ。
上空を飛んでいるキキの姿が、街灯ごしに通過するのが見えます。
街灯の「向こう」を飛んでいるように見えますが、街灯(背景)の「上に」キキのセル画が「乗って」撮影されているのではないでしょうか。うがちすぎ?
こんな細かいこと、わざわざしなくてもいいのに……
【185】ここもアニメの基本原理『重さの作用/反作用』が活かされています。
大塚康生さんもアニメスタジオ入社試験で「鉄で出来た重い槌」を振り上げ・振り下ろす『作用/反作用』を盛り込んだ作画試験を受けたそうですね。【DVD『大塚康生の動かす喜び』より】
【186】やっぱりキキに腰を踏ん張らせる。
カッコ悪い。
宮崎さんの労働観に全賛成ではないですが、「労働ってこうもカッコ悪くて、でも尊いんだぜ」って言ってるかのようです。
『魔女』では、この労働の滑稽さと尊厳を「腰」で提示している。
【186】さまざまに優れたアニメーターがいて、演出家がいるなかで、宮崎さんの「飛行シーン」に独自の魅力があるのは、重力と逆らう『作用/反作用の原理』が常に意識されているからだと思うんですね。
空気に乗っていますね。やわらかい飛行。
こんな日常があったら……って思春期をこじらせそう。
さて「その8」はここまでにします。
次の「その9」をお待ちを。
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