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アニメのてにをは、基礎表現(1の3)~作用と反作用(後編)

ジブリアニメを見ていくのにお役立ちの「てにをは」=《アニメの基礎表現》を見ていきます。
今回は基礎表現その1~作用と反作用の最終編です。

作用と反作用とは、力がくわわって(=作用)、その力に反発する力(=反作用)が起きるというもの。

モノを持ったり、歩いたり、空を飛ぶ。
それぞれが「作用と反作用の原理」に従っています。

おさらいとして、前篇へのリンクが下記になります。

今回は特に、ジブリアニメの魅力と言われる『飛ぶシーン』を中心に、『作用と反作用の原理』に従って確認していきます。


1.『天空の城ラピュタ』より~あらためて作用と反作用を

シーンとしては、連れ去れたヒロイン・シータを奪還するため、ドーラたち空賊の助けを得て、助けに行く主人公パズー。
城塞の塔のひとつにいたシータを助けようと接近して、小型飛行機フラップターが岩壁に当たって救出に失敗したところです。

一度上空に逃げて、再度の救出にチャレンジしようとするのですが、

同乗していたドーラの顔面に、ブロックの破片が直撃します。

このブロックの直撃も、ブロックが直撃する『作用』と、顔がその力をうけた『反作用』として表現されていて、いかにも『痛そう』ですね。

操縦手を失い、フラップターは落下します。

気絶したドーラのかわりに、パズーが操縦桿を握ります。

水面ぎりぎりで羽ばたき始めるフラップター。

羽ばたきという『力の作用』が、波がしらという『反作用』の力として表現されています。

『中編』でもすこし指摘した『構図としての・斜め奥方向』が採用され、躍動感が生まれていますね。


2.『ラピュタ』~暴風に翻弄される造形性の妙

同じく『ラピュタ』より。
さきほどは水面上を飛びました。
今度はシータ救出なったパズーたちがムスカたちと競う形でラピュタ島へと目指します。
パズーとシータは現在位置ならびにムスカたちとの位置関係を確かめるため、カイトで飛び立ちます。

雲海からカイトは飛び立ちます。

ひとつながりの運動としてダイナミックに羽ばたきが描かれます。

暴風にカイトは揺すられます。

風という作用と、それに抗うカイトの反作用『見えて』きましたでしょうか?

立体的な造形物(カイトや人物たち)が、風に揺すられるダイナミックな動きを、3次元的な造形性を保って描き込む作画の力にも注意を向けましょう。


3.『魔女の宅急便』~飛ぶために、最初からもう一度

『魔女の宅急便』のクライマックスより。
飛ぶという魔法が消えかかっているなか、ヒロイン・キキは、友人トンボの危機を前にして渾身の力をふりしぼります。

飛び始めています。とてもゆっくりと。
かくも微速度で、浮くように飛びます。

この『飛ぶ・作用と反作用』が、ダイナミックにではなく、微速度で上昇させて、あらためて『飛ぶ』ことの魅惑を再確認するように描かれます。
同時に、キキのスカートが風でゆるやかにひるがえる『作用と反作用』も、飛行の表現をきわだたせています。

飛びます。

使い慣れていないデッキブラシで再度、『飛ぶ』ことにふたたび目覚めるキキ。
不安定に飛び、住宅の壁に直撃しそうになります。
それを足であしらう衝撃も『作用と反作用』の表現ですね。

向かいの壁にも当たりそうになり、両脚で跳躍します。

壁から壁へと伝うように跳躍して飛んでいくのがわかります。

ここで注意したいのは、飛ぶとはこの瞬間、なにものからも解放された抽象的な飛行ではない、ということです。
それはいつだって、障害物との『作用と反作用』の関係にあって、『飛べるかな?飛べないかな?』という迷いや緊張とともにあるのです。
ジブリアニメの『飛ぶいとなみ』がほかのアニメの飛ぶシーンと際立った違いがあるとすれば、その『飛ぶ』はただ快い行為ではなく、いつだって『飛べるかな?飛べないかな?』の危うさ、緊張感、迷いとともに表現されていることです。

いつだってジブリの『飛ぶ』は、飛ぶことの迷いや葛藤や緊張とともにあるのです。このキキのように、あらためて飛ぶことを試し、挑戦するように。

このクライマックスのシーンの前、キキは一度飛べなくなりました。
いや、飛べなく『なりそう』だったのです。
その姿を見てみましょう。

飛べなくなったと思い、キキはひそかに練習して、必死に飛ぼうとしています。

でも、よく見ると『飛べている』んですね。そっと『浮かんでいる』。

少しだけど、飛べている。しかしキキにとっては、飛べていないんです。

かつてアニメで、こんなささやかな『飛ぶ』が披露されたことがあったでしょうか?
えてしてスペクタクルにあつかわれがちな、アニメにおける『飛ぶ』を、あらためて最小限に・ミニマムに表現し『なおす』
ジブリアニメにあって、『飛ぶ』とは当たり前な行為ではないのです。
それはいつだって『飛べるかな?飛べないかな?』の葛藤や迷いのなかではじめて成立する。
それこそがジブリアニメ・オリジナルな『飛ぶ』であり、この講座の基本に立ち戻れば、飛ぶはいつだって『作用と反作用』の繊細な仕組みによってできている表現なのでした。

これで『アニメのてにをは~基礎表現その1=作用と反作用』を終わりにします。

さて、次回は何をしましょうかね。

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