息が合わなくても共に生きていけるくらい好き 「リズと青い鳥」感想と解題その6
本作も終盤、ラストに向かって静かに秘めやかに盛り上がっていきます。ここでも「リズと青い鳥」独自の間とゆらぎが効果的に使われ、普通のアニメーション映画とは異なる静謐な雰囲気を創り出しています。また、カメラワークが冴え渡ります。画角だけでなく、被写界深度を浅くして焦点を合わなくしたり、絶妙に揺れたり、じんわりとカメラが寄っていったりします。これらがすべて合わさって一つの場面を創り出します。
巧みに抽出されたみぞれと希美の対話
原作の小説は群像劇であり、様々な登場人物が入れ替わり立ち替わり話の主人公になります。基本的には主人公である黄前久美子の視線を追いかけていきますが、彼女は絶妙な立ち位置に配置され、吹奏楽部内に起こる様々な出来事に関わる形で話は進んでいきます。
そんな中の一つの物語が、みぞれと希美のお話です。繊細で静かな物語が原作の小説から抽出され、ふたりの物語として煮詰められて「リズと青い鳥」が作られているのです。そのせいで、原作ではなかった会話の展開が起きるのです。
しかし、それでもふたりの会話は成り立っているようで成り立ちません。どちらか片方が一方的に話しかけるような対話ならざる対話が、すれ違ったまま進んでいきます。この一言がみぞれから発せられるまでは。
「聞いて!」
一方的な解釈で自虐し続ける希美の言葉を、みぞれはこの一言で強制的に遮断します。そして初めて、希美はみぞれの言葉に耳を傾けるのです。みぞれが自分の思いを伝えるための一歩を踏み出し、それに巻き込まれるようにして希美はみぞれの想いを受けとめることになります。
小説では、以下に引用するように映画とは異なる展開になっていました。
映画では、みぞれが両腕を上げても希美は反応しませんでした。みぞれの方から希美に飛びつくように抱きしめるのです。そして、希美はそれにおずおずと答えるように希美の背中に手を回します。
この一言、
「聞いて!」
があってから、みぞれはそれまで話すことも出来なかった自分の思いを、大好きを希美にぶつけます。希美はもう、その言葉を受けとめるしかありません。それでも、希美が一番欲しい言葉はみぞれからは出てこない、というのがここの場面の辛いところです。
次の記事で「リズと青い鳥」の感想と解題は締めくくりです。
ではまた次回。