ネタバレが多いクロス解題「僕の心のヤバイやつ 8」(原作)×「義妹生活 10」 その2
今回は「逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences : ACEs)」と、特に「義妹生活9巻、10巻」についてのお話です。
逆境的小児期体験とは、以下のように説明されます。
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192011/201907005B_upload/201907005B0011.pdf
こう書くと「トラウマのことじゃね?」と思う方も多いでしょう。実際、これらは小児期においてトラウマを作るものでもあります。
一方で、明白なトラウマが確認できない場合でも、生まれてから18歳になるまでの間に経験する逆境的体験があれば、ACEsに曝されたと見なします。これがあると、精神的困難が起きやすくなるだけでなく、肥満や心筋梗塞、脳卒中などの身体の疾患にもかかりやすくなることが分かってきています。
カリフォルニア外科医臨床諮問委員会による「逆境的小児期体験 質問票改訂版」の翻訳版を見てみると、どのようなことがACEsに含まれるかが具体的に書かれています。https://www.acesaware.org/wp-content/uploads/2020/06/ACE-Questionnaire-for-Adults-De-Identified-Japanese.pdf
「僕の心のヤバイやつ」の主人公たちはまだ中学3年生。「義妹生活」の主人公たちも高校3年生で、当てはまる何かがあると「逆境的小児期体験」を経験したヒトということになります。
しかし、作品を見て見れば一目瞭然ですが、「僕ヤバ」の市川京太郎や山田杏奈は周囲の人的環境に関してはかなり恵まれていることが分かります。これは作者の意図もあるようです。(僕の心のヤバイやつ4 Postscript)
京太郎も杏奈も、とっさの一言や行動がいちいち相手にとっての「正解」をつかんでいく、というより「こころと行動の瞬発力」があるキャラクターとして描かれています。そこかある種の「気持ちよさ」を作品に与えています。
それに対し、「義妹生活」の浅村悠太と綾瀬沙季を見て見ると、この歳になるまでに逆境的小児期体験を経験してきています。
浅村悠太の場合は「両親の離婚」「母親からの精神的虐待(に準じる行為)」など、綾瀬沙季の場合は「両親の離婚」「父親からの精神的虐待(に準じる行為)」など、複数項目が当てはまります。
そして10巻で彼らが突き当たる「傾向」が、そのまま項目として語られます。
このために、彼らは自己評価が低かったり、「愛される自信」がなかったりと、社会生活を生きていく上での困難を抱えることになった、といえるでしょう。
しかし、ただそれだけでは終わりません。実際ここで紹介した「質問表」を最後まで読むと、このように書かれています。
「義妹生活」は、悠太と沙季の「ゆっくり歩くような癒やしの物語」と読むこともできるのです。
次は「僕の心のヤバイやつ」の京太郎と杏奈の“Ad hoc intelligence"について語ります。
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