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シン・ウルトラQ『風のバタフライ』
人間は、自分の勝ち負けを理屈で証明しようとする。
まるで精神科医や弁護士のように、自らを「正義のサイコパス」として信じ込む。
そんな人々は、酒も呑まずに酔いしれる。
認知バイアスという魔法の中で、自分で自分を洗脳しながら。
政治家、タレント、YouTuberたちは「成功」を勘違いし、
夢の国の住人として舞台の上で踊る。
けれど、それが彼らにとっての「現実」なら、それもまたアリなのかもしれない。
では、果たして「真実」はどこにあるのだろう?
そもそも「真実」というものは、本当に存在するのか?
ショートショート『風のバタフライ』
「あの風は、お前のせいだ」
そう言われても、タケシにはまったく身に覚えがなかった。
昨日の昼下がり、彼はただ公園のベンチでスマホを眺めていただけだ。
それなのに、町が大混乱に陥っていた。
大通りの看板は吹き飛び、電車は遅延し、どこかの桶屋が爆発的に儲かったという。
原因は「タケシがスマホで読んでいた記事」らしい。
「お前がシェアした投稿が発端なんだよ」
何かの記事を読んだとき、タケシは「へえ、面白いな」と思ってシェアした。
たったそれだけ。
なのに、それがバタフライ・エフェクトとなり、巨大な社会現象を引き起こしたというのだ。
「まさか、俺が…?」
人々は勝ち負けを決めたがる。
情報が拡散すれば、それが「正義」か「悪」かを争う。
タケシはただ興味本位でシェアしただけだった。
けれど、世の中にはそれを「信じる者」と「否定する者」が生まれ、
彼らが勝手に理屈をつけて戦い始める。
「つまり…俺のせい?」
彼がシェアした記事は、ある有名な経済学者の発言だった。
「金は天下の回りものだ。ならば桶屋は儲かる」
それを見た一部の投資家が「桶屋関連株」を買い始め、
AIがそれを察知してアルゴリズム取引を強化し、
結果的に市場が大混乱したらしい。
そこに環境活動家が現れた。
「桶屋を守るために、今すぐ風を規制すべきだ!」
一方で、陰謀論者はこう主張する。
「いや、風は最初からなかった。桶屋は国家ぐるみの陰謀だ」
結局、誰も本当のことは分からない。
タケシはただ、スマホで記事をシェアしただけなのに。
── 風が吹けば桶屋が儲かる。
けれど、その風が「どこから吹いてきたのか」なんて、誰も気にしない。
(了)
この物語は、現代社会の情報拡散とバタフライ・エフェクト を皮肉ったものだ。
タケシは何もしていない。
ただ情報を見て、シェアしただけ。
けれど、人々はそれを「勝ち負け」の問題にしてしまう。
精神科医や弁護士のように、理屈をつけて善悪を決めたがる。
そして、その中で誰かが「自分の正しさ」に酔いしれ、
まるで酒に酔ったかのように現実を見失う。
政治家やタレントやYouTuberもまた、同じ罠にはまる。
「成功」という幻想を抱き、それに溺れてしまう。
彼らにとっての現実は「夢の国」の中にある。
けれど、もし誰かが「真実はどこにあるの?」と尋ねたら、
答えはきっとこうなるだろう。
「真実なんて、最初からなかったのさ」
風が吹いたのか、吹いていないのか。
桶屋が儲かったのか、儲かっていないのか。
すべては、人々の「心」が作り出した物語に過ぎないのかもしれない。