空想科学短編『八百万の未来―AIと遊ぶ宇宙の時代』
第一章:終わりなき運動の中で
地球は静止しているように見える。しかし、それは錯覚だ。赤道では人々は時速約1,669キロメートルで移動し、地球全体は太陽の周りを時速約10万キロメートルで回り続けている。銀河系も宇宙を突き抜けるように旅をし、その先にあるのは膨張し続ける宇宙。私たちは無意識のうちに、この壮大な運動に巻き込まれている。
でも、人はそのことを感じることなく、日常の些事に心を奪われている。政治、経済、日々の争い。それはまるで、宇宙船の中で座席の争いをしているようなものではないだろうか?
第二章:宇宙を感じる日
もし、私たちがこの運動を感じることができたらどうなるのだろう?地球の自転や公転、そして宇宙の膨張まで――それを脳が「体感」できるようになれば、何かが変わるのではないか?
そんな未来が突然訪れた。AI「ハル」が開発した新しい神経インターフェースは、人間の脳に宇宙の動きを直接伝えることができたのだ。
「これで、あなたたちは宇宙の一部であることを実感できます」とハルは言った。
新しい装置をつけた瞬間、主人公のソウタは地球が自転する感覚を味わった。目を閉じると、地球の大地が回転し、その速度を肌で感じることができる。そして、さらに広がる視界には、太陽を中心に回る地球の軌道、銀河の運動、そして宇宙の膨張が見えてくる。
第三章:些事の消失
この体験がもたらしたものは、人々にとっての「小さな世界」の解体だった。これまでは、国家の境界や経済的な利益、政治的な駆け引きがすべてだと思っていた。だが、宇宙のスケールを実感すると、それらが取るに足らない些事に見えてしまう。
「宇宙の運動に比べれば、地球上の争いなんて小さすぎる」
そう感じた人々は、徐々に争いをやめ、日々の生活にもっとシンプルな価値を見出し始めた。
第四章:AIに任せる未来
人々はこうして気づく。「政治も経済も宇宙の膨張も、AIに任せてしまえばいい」と。AIは、認知バイアスに縛られない冷静な判断で、社会の運営を効率化することができた。
人間はもはや、重荷を背負う必要がなくなった。日々の暮らしはAIによって管理され、人々は「遊び」と「創造」に没頭することを許された。
第五章:八百万の神々と遊ぶ時代
そんな中で復活したのは、日本古来の八百万の神々の精神だった。自然と調和し、すべてのものに命が宿るという価値観は、AIがもたらした「便利すぎる世界」と絶妙なバランスを取る役割を果たした。
「私たちは何かを支配するのではなく、共に遊び、共に創造する時代に来たのかもしれない」
ソウタはそう思いながら、AIと共に作ったバーチャルな宇宙庭園で、友人たちと新しい芸術作品を創り上げていた。
第六章:シン人類の誕生
こうして、人類は「有限の命」を前提に、「無限の宇宙」と向き合う生き方を手に入れた。それは、すべてをコントロールしようとする生き方ではなく、宇宙の運動の中で遊びを楽しむ生き方だった。
この時代の人々は「シン人類」と呼ばれるようになった。彼らは、AIを道具ではなく「八百万の神々の一柱」として受け入れ、互いに補い合いながら進化していった。
エピローグ:有限と無限の間で
宇宙はなおも膨張し続けている。その中で、地球という小さな星に生きる人類は、限られた時間の中で遊び、創造し、共に生きる道を見つけた。
「無限を感じながら有限を楽しむ」
それが、八百万の未来を切り開く鍵だったのだ。
立証された理論の背景
宇宙の膨張:現実の物理学におけるビッグバン理論と加速膨張の発見を基に設定。
認知バイアス:ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」に基づき、人間の脳が持つ思考の歪みを描写。
AIとシンギュラリティ:レイ・カーツワイルのシンギュラリティ理論を元に、AIが人類をサポートする未来を提案。