動物実験のシミュレーター【Mimicky® Mouse】の開発秘話をインタビュー!
こんばんは!
私たちは1月の中旬に、実験動物のシミュレーターを開発した三協ラボサービス株式会社の鎌田薫さんにお話を伺ってきました。
実験動物のシミュレーターとは、実験をする前段階の訓練や動物実験の指導をする時に、生体のかわりに使う模型のことです。鎌田さんは、2016年にマウス型実験動物シミュレーター「Mimicky」を開発されました。
今回は開発に至った経緯や苦労されたこと、動物実験業界からの反応、そして開発にかけた熱い想いをお話していただきました。
まずは、三協ラボサービスさんの事業内容について教えてください。
実験動物とその関連商材を販売する営業部と、研究所などに実験動物の管理ができる人材を派遣する受託部の大きく分けて2つの事業があります。
現在、私は受託部で働いています。仕事内容は、お客さんのいる研究機関で動物実験のお手伝いをしています。シンプルに言うと、実験助手です。
日々お忙しいかとは思いますが、休日は何をして過ごされることが多いですか?
エアプランツなど、植物の水やりをして過ごしています。釣りも好きですが、最近は行けていないですね。
お仕事では実験動物たちを、お家では植物を眺めて過ごされているのですね。この「Mimicky」は、どういった経緯があって開発しようと思われたのですか?
後輩に動物実験の技術を指導する際に、生きた動物を使いながら教えることに限界を感じていました。
動物を扱いながら教えることは難しく、いくら先生が動物の扱いに慣れているとは言っても、長時間触られると動物は疲れてしまいます。教えてもらう側は生きた動物を扱いながら慣れていくしかないのですが、教える側である先生は生体を使わなくてもいいのではないかと思いました。
先生はすでに動物の扱いは慣れているので、シミュレーターを本物のように扱って教えることが出来るんじゃないかと、そう考えたわけです。教わる側も、最初はシミュレーターでノウハウを学んで、そのあとに生体を触ることで習得も早くなることが期待されます。
それに、動物実験をするときはなるべく動物たちに負担をかけないよう、スピーディーに実験を実施することも大切です。そのためには、自分の使いやすい位置に道具を並べるなどの事前準備をすることが必要です。そういった準備のイメージトレーニングにも使って欲しいと思っていました。
あとは、シミュレーターを使っての練習は、動物エリアに入らずにできるので着替えも必要ないですし、気軽に、そして何度も練習ができます。
そんなことを考えている時に出会ったのが、NATSUME RAT(注釈1)でした。学会で初めて触ったとき、「ラットではなく、マウスでも出来ないだろうか?」と思ったことが、大きなきっかけになりました。いろいろと調べてみたのですが、当時は世界中どこを探してもマウスのシミュレーターはありませんでした。
(注釈1)株式会社夏目製作所が販売しているラットのシミュレーター
そこで、実験用マウスの中でも世界で一番よく使われているC57BL/6という名前の黒い品種を模してシミュレーターを作ることにしました。
「Mimicky」のアイデアの種はそうやって生まれたのですね。製作にあたっては、どのような人たちが関わって作られたのでしょうか?
当時は、事業推進室という部署にいました。学会でのきっかけから、開発の意図を理解して許可を出してくれた社長の存在は大きかったですね。
実際にシミュレーターを作る前に、粘土で模型を作ったのですが、これは私の妹が作ってくれました。妹は実は彫金屋で、美術系の大学を出ていまして。粘土での模型は、リアルに作ることにこだわりました。この粘土で造った模型を3Dプリンターで出力して、元となる型を作りました。この模型に骨格を書き込んでくれたのが、三協ラボサービスの獣医師です。
そして、シミュレーター製作を請け負ってくれたのは、大阪にある看護師さん用のシミュレーターを作っている会社です。人体用のシミュレーターには、腕とかお尻とか、いろんな種類があるんですよ。シミュレーターづくりのプロの会社ではありましたが、マウスのシミュレーターづくりは、かなり細かくて苦労されたみたいです。
そうでしたか。具体的に苦労された部分やこだわった部分を詳しく教えてください。
シミュレーターを作ってくださった会社に一番ご苦労をおかけしたのは、この尻尾の部分です。直径4ミリで、2本の尾静脈が表面から0.5mmのところになるように作ってください、とお願いしたんですね。この薄さにすることで、採血や投与の練習をするときに血管が少し透けている様子を再現したかったんです。
ほかにも、いろいろな無理難題に協力いただきながら、現実的にできる範囲でリアル感を出していきました。
例えば、マウスのやわらかくて危うい皮膚の感じにもこだわりました。それを再現するために、シミュレーターの中にオイルを充填するようにしました。マウスを上から押さえるようにして持ち上げるときに、締めすぎてはいけない感覚が伝わるといいなと思っています。購入された方には、時々オイルを補充していただくようお願いしています。
あとは、生体であれば、表面に毛が生えていてさらさらしていますよね。シミュレーターでは、このままの状態だとどうしてもゴム感があるので、ベビーパウダーをまぶして、毛のさらさらした感じを再現しています。これには劣化を防ぐ意味もあるんですよ。オイルの充填とベビーパウダーをまぶすことは、使う前に実施していただいています。
「Mimicky」は一回使って終わりではなく、中性洗剤で洗って干せば何度でも使っていただけるようになっています。それに実は愛着をもって使っていただきたくて、見た目のかわいさにもこだわりました。
たくさんのこだわりが詰まっていますね。実際に販売を始めてみて、動物実験業界での反応はいかがでしたか?
販売当初は、私の熱を感じた身近なお客さんが購入してくださいました。営業をしていく中で、「練習用の動物はいるから」という理由で断られたこともあります。シミュレーターの意義がなかなか伝わらないということはありましたね。
でも、転機があったのは海外の学会への出展でした。夏目製作所さんが海外の学会に「Mimicky」を連れて行ってくれたんです。そのときに私の名刺も一緒に置いてもらっていました。そのあと、ノルウェーから連絡が来てびっくりしました。海外からの反応はとても速かったです。定価が8万円と安くはないので、国内からは高いという声がどうしても多いのですが、それだけこだわりがつまっています。今でも、海外からの反応はとてもいいですよ。
今後作っていきたいものはありますか?
マウスの解剖練習用のシミュレーターを作ってみたいと考えていた頃はありました。でも、1つ1つの臓器の型をとって、柔らかさもこだわって…なんて考えていたら、とんでもない価格になることが分かりました。予算と利益、それからこだわりのバランスが難しいですね。採血練習用のサルの腕「Mimicky vessel」は作りましたね。
鎌田さん、お話を聞かせていただきありがとうございました。
おわりに
今回のインタビューを通して、鎌田さんの「Mimicky」にかけるこだわりをお伺いすることができて大変勉強になりました。この製品には、動物たちの使用数や拘束時間が少しでも減らせたらという鎌田さんの優しさが詰まっていることが分かりました。改めて、たくさんの方に手に取っていただきたいなと思いました。
お忙しい中お時間をいただきました鎌田さんをはじめ、三協ラボサービスの皆さま、本当にありがとうございました。
三協ラボサービス株式会社
Mimicky® Mouse 紹介ページ