第4夜 猿回しの歴史と動物福祉
今回の記事は、「猿回しの歴史と動物福祉」です。
このテーマは、参加者さんの質問から生まれました。
あなたは猿回しを見たことがありますか?
この記事を通して、ぜひ猿回しのことを考えてみましょう!
1.猿回しの歴史
まず、猿回しの歴史をみていきました。
猿回しは、日本最古の大道芸で、歌舞伎や狂言に並ぶ伝統芸能といわれています。
猿は、馬の守り神とされていて、馬の病気を防ぐために馬の前で舞ったのが起源といわれています。その後、江戸時代から宗教性がなくなり、大衆芸能へ発展しました。明治時代から徐々に集団が減っていき、昭和30年頃に消滅しています。
しかしその後、山口県光市の市議会議員であった村崎義正が地元の芸能の猿回しを復活させ、2004年には市の指定無形民俗文化財に指定されています。そんな猿回しは現在、栃木の日光さる軍団、山口県の周防猿回しの会などがあり、全国各地の観光地などで見ることができます。
また、猿回しをする人は、猿回し師といいますが、この職業を担っていたのは部落差別を受けていた人々だったそうです。部落差別と猿回しの関係は、有名な太郎次郎コンビの「村崎太郎」さんのインタビューに載っています。
(参考文献:東京人権啓発センター)
2.動物福祉の視点からみてみよう
次に私たちは、この猿回しを動物福祉の視点からみてみることにしました。
その前に、ニホンザルがどんな動物かおさらいしましょう。
こちらの図を参照ください。
このようなニホンザルの生態から、私たちが着目したのは
①二足歩行
②服を着せること
③トレーニング方法
こちらの3点です。
それでは、順番に考えていきましょう。
①二足歩行
まず注目したのが、本来ニホンザルがほとんど行わない二足歩行をさせる点です。
猿回しのサルの骨格を調べた論文がありましたので、ここで紹介しました。
(参考文献:二足性を獲得した周防猿まわしサルの生体維持機構の追跡調査)
論文によると、ヒトの背骨のS字カーブは二足歩行をさせるために機能していますが、猿回しのサルも同様なカーブに似た形をしていることが分かりました。
しかし、具体的な疾患などはないという結果でした。骨に異常がなくとも、筋肉に負担がかかっているのではないかというお話をしました。
②服を着せること
次は猿回しのサルには着せることが多い、服についてです。
ニホンザルだけではなく、動物の体毛は、体温調節をするという重要な機能を持っています。
この体温調節が、服を着ることによってどうなるのか?という点について考えていきました。
服を着ている状態というのは、本来の動物の姿ではないという観点からすると、動物福祉に配慮されていないという見方もできるかもしれません。
しかし、服を着せること自体は、悪い面だけではありません。
馬やウシには防寒のために着せることはありますし、寒さが苦手な犬の場合は着せたほうがいいこともあります。
猿回しの場合は、神事としておこなっていた頃には、儀式的に服を着せることが必須だったのかもしれませんね。
③トレーニング方法
3つ目は、猿回しの芸を教えるときのトレーニング方法についてです。
私たちはいろいろな猿回し劇場のホームページを見ていきましたが、トレーニング方法を詳しく書いているところはほとんどありませんでした。
現在は、芸ができたら褒める方法が主流のようですが、かつては四足歩行をさせないために上下関係を重視するトレーニングが行われていたようです。
芸は一子相伝(親から子へ伝える)の秘儀のため詳しいトレーニング方法は言えないといった記事も見かけました。しかし、伝統芸能だからといって、動物の心と体を害するようなトレーニング方法は行われないほうがよいですね。
3.考えてみよう!
ここまで、猿回しをさまざまな面から見ていきました。
ここからは、「猿回しはどうなっていくべき?」というテーマで議論していきました。
議論では、文化と動物福祉を切り離すのは難しいこと、その上で、どのようにサルに配慮して文化を続けていくのがよいかを考えました。
4.むすび
文化というのは、人や時代背景によって生み出され、時代と共に忘れられたり、追加されたり変化していくものです。
今回考えていったことは、猿回しだけでなく、捕鯨や闘牛などにも当てはまるでしょう。
人と動物にとってよくないものであれば、変化していくということも、文化の一つのあり方なのかもしれません。
5.次回の掲載予告
次回は
『第5夜 「ゲームに使われる?」どうぶつたち』の内容を掲載します。
どうぞお楽しみに!
【第5夜で使用した参考文献】
・山口県光市HP
・周防猿回しの会
・おさるランド 日光さる軍団
・10代の人権情報ネットワーク ふらっと
・東京人権啓発センター
・阿蘇猿まわし劇場