花と野ウサギ、葦と蜜蜂。ファラオ。【国士舘アニ研ブログ】
どもども、あねもねです。
最近のわたしは、通学やアルバイトでの電車移動中に本を読むように心がけています。
そんな時に読んだ本からひとつ美しい話題を皆様にもご紹介しようと思います。
Ⅰ.ヒエログリフと象形文字
みなさんはヒエログリフを見たことがあるでしょうか?
おそらくどこかで見かけたことがあるでしょう。
𓀀 とか、𓄿 とか、𓆣 とか、こんな感じの文字です。
これらは、古代エジプトで使われていた言語です。
ここで、ナポレオンのエジプト遠征が思い浮かんだ方はお見事です。
高校の世界史で出てきた、ロゼッタストーンがなんだのとか、シャンポリオンがどうしただのというあれです。
みなさんはヒエログリフは象形文字と習ったかと思います。
まずは、そもそも象形文字とはなんだというところから簡単におさらいしましょう。
・象形文字
「物体や事象の形を模倣したり、再現したりする」
まさに、ヒエログリフはこれですね。
𓀀 →座っている男(人)
𓄿 →ハゲワシ(鳥)
𓆣 →スカラベ(昆虫)
それぞれ、実際にあるものを象っています。
座っている男の人はそのままですね、そう、あなたみたいな人のことです。
これと似ているものとして、絵文字があります。
みなさんもSNSで使ったことがあるでしょうか。
おじさん構文などと揶揄される可哀想な奴らです。
象形文字と絵文字は、どちらも物体や事象を模倣しているので、一見似ています。
が、似ているだけで全然別物です。
象形文字には音表があり、ひとつの文字に音節が付いています。
ヒエログリフの𓄿(ハゲワシ)はフランス語音でア〔A〕-母音のAではなく、ヘブライ語の弱子音-の音を持っています。
一方、絵文字の(例えば)😀は何も音を持っていません。
みなさんは😀これ1文字(?)をなんと読みますか?おそらく読めないでしょう。そういうことです。
象形文字と絵文字の違いは、文字に音が付いているか否かという認識で大丈夫だと思います。
Ⅱ.絵文字とヒエログリフ、曖昧さ回避
ヒエログリフは端末によっては、絵文字欄に乗っている場合もあります。皆さんの端末にはあるでしょうか?
しかし、ヒエログリフは象形文字であって、絵文字ではありません。
絵文字も同じく物体や事象を模倣したものではありますが、それらが連なり文章になっても言語としての法則は存在しません。
例えば、
😁😁😮や😮😃😗😁は絵文字だけで挨拶を表した文章です。
😁😁😮は「いいよ」という肯定の文、
😮😃😗😁は「おやすみ」という挨拶らしいです。
この憎たらしい顔の一つ一つが絵文字で、それが連なって文を作っています。
これらにはある法則があります。
お気づきのとおり、口の形で音を表現しているわけです。しかし、これはあくまでも母音の音しか表せていませんので、😁😁😮が「いいよ」ではなく「いいこ(いい子)」「いちど(一度)」とも読めてしまいます。
このように、ひとつの文章が如何様にも読めてしまうため言語としての法則が成り立っていないことになります。
日本語でも、同じ漢字で複数の読み方がある場合もありますが、音読みや訓読み、熟字訓という法則によって曖昧さを回避しているので、言語として成立しているのです。
ヒエログリフにもこの絵文字のように意味が決して一つには絞り切れない単語というものが多いようです。
ヒエログリフのmr(i)という単語は「愛」「ミルク壷」「闘牛」など複数の意味が候補に挙がってしまい、これらのどれを指し示しているのかはハッキリと判別できません。
これをそれぞれの意味に区別できるようにしているヒエログリフ特有の要素が決定詞です。
「𓌻𓂋」がmr(i)という単語で、その後ろにそれぞれの決定詞をつけることで一つ一つの単語を区別しています。
[𓌻𓂋決定詞]
𓌻𓂋𓀁 →愛
𓌻𓂋𓏊 →ミルク壷
𓌻𓂋𓃒 →闘牛
と、それぞれこうなるらしいです。
ただし、この決定詞は発音しないため、上の3つの単語は全て同じ「mr(i)」の音で読むことになります。
とはいえ決定詞を用い、このような形をとることでヒエログリフは曖昧さを回避しながら確実に意味を伝えることを可能にしているのです。
Ⅲ.花と野ウサギ
ここからは具体的な意味を持つヒエログリフとそれらを取り巻く小話?をご紹介します。
ヒエログリフの「𓇬」これは花を象ったものです。
この文字の意味は「存在する」です。
神殿の壁画に描かれる花束や、供物として捧げられる花々、「存在する」という意味には直結しないですが、神への捧げ物という神聖で高次なものという意味では、
「存在する」という概念的、高次な意味を思わせるこの言葉と釣り合う気がします。
そして、同じく「存在する」という意味を持つヒエログリフが「𓃹」です。こちらは見ての通り、野ウサギを表した文字です。
なぜ野ウサギが「存在する」という意味を持つかは、エジプト神の逸話から導き出されました。
エジプト神話において、野ウサギはオシリス神のシンボルだそうです。
このオシリス神は、弟のセト神に一度殺されましたが、妻のイシス女神のおかげで再生されました。
つまり、野ウサギは一度死んでも蘇ったオシリス神の”不滅性”を表しているのです。「不滅≒存在し続ける」というつながりで理解するといいでしょう。
Ⅳ.葦とミツバチ、そして花
エジプトの遺跡やヒエログリフの文章の中でよく登場するふたつの表現があります。
「𓇓𓏏𓈖」と「𓆤𓏏」のふたつです。
(本来は𓏏と𓈖が上下に並んでいるんですが、ここでは上手く表記できないので横並びにしてます)
「𓇓𓏏𓈖」こちらは「葦に属するもの」、
「𓆤𓏏」こちらは「ミツバチの人」という意味があります。そしてこの両方ともが"ファラオ"を表しています。
なぜ葦やミツバチがファラオを表すのかというところですね。
葦はイグサやパピルスなどの植物と同一視されていました。パピルスと聞いてピンと来たかもしれません。
これらの植物は紙や文を書く台、サンダルを作るのに使われていました。この植物たちは文字をかける上級民だけでなく、一般の人々にとっても欠かせない存在ということです。同じくファラオも人民にとってなくてはならない存在です。
ミツバチはものすごく厳密な幾何学の法則にのっとって、巣を作ったり、蜜の場所を仲間に伝達したりします。特に蜂蜜は黄金の液体と呼ばれ、特別な医薬として利用されていたようです。
「𓆤𓏏」はBIT(ビイト)と発音し、同じ語幹で「良い行い」「良い性格」「品性のある人」と書く際にも使われています。同じ語幹のこれらの言葉から、ファラオを表そうとしたのかもしれません。
また、ハチは花(𓇬)にも欠かせない存在です。ハチが蜜を求めて花々の間を飛び回るうちに、花たちの受粉を助けています。つまり、ハチは花(𓇬)の繁栄に欠かせない存在であるということです。
そして花(𓇬)は「存在する」という意味を持つ言葉でした。
ヒエログリフでは、ファラオを示すミツバチなくして花(𓇬=存在する)はあり得ないという構図になっているのです。
今からほど遠い時代にこれほど完成度の高い言語が確立されていたことは、改めて驚くべきことですよね。古代エジプトがいかに発展した文明だったかがこんな見方でもわかります。
ということで今回は、私が本を読んでいて出会ったヒエログリフの面白い小話でした。それでは皆様もよい読書ライフを。
《引用・参考》
weblio国語辞典
https://www.weblio.jp/
Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%A8%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%95
チョコバットの逆襲
https://chocobat-gyakushu.com/archives/4399
クリスチャン・ジャック,鳥取絹子 訳:『楽しいヒエログリフ入門』,草思社,2024.