どじょうになる女
相方の田辺さんは私の息子をとても可愛がってくれるのですが、
田辺さん「私ってみたらしの何なんだろう?」
そう言って、よく悩んでいました。私としては二人の関係は『ともだち』が一番しっくりくるのですが、田辺さんとしては、
田辺さん「勿論、ともだちなんだけど、なんか気持ち的にはみたらし(私の息子のあだ名)のじいさんでもあり、ばあさんでもあるんだよね」
私「ばあさんはまだわかるけどじいさんでもあるんだ」
あんりちゃん「確かに田辺さんはみたらしの小学校入学の時にランドセル買いそう」
田辺さん「それは流石にしないよ!本物のじいさんばあさんに申し訳ないよ!じいさんばあさんが買うつもりないならわたしが贈りたいけど」
はるちゃん「みたらしの田辺さんで言いじゃないですか」
田辺さん「田辺さんじゃわかんないよ!田辺さんって何者だよ!わたし自身もわかんないよ!」
わたし「自分のことがわからなくなっている」
そんな田辺さんがある日、こんなことを言いました。
田辺さん「私はみたらしのヒデじいになるよ」
ヒデじいはさくらももこさんの作品『ちびまる子ちゃん』に登場するキャラクターです。お金持ちの少年花輪クンの執事であり、優しく温厚な性格で花輪クンからとても慕われています。花輪クンにとっては親同然とも言える存在です。
田辺さん「私が目指すのはヒデじいだよ」
私は、(田辺さんは考えた結果、息子の特別なじいさんを目指すのか)と、思いました。
私(ヒデじいの主な花輪クンのお世話は通学の送迎だけど、田辺さんは車の免許を持っていないのにそこはどうカバーするんだろう)
私が田辺さんは一体どうやってヒデじいを目指すのかと疑問に思っていると、彼女のヒデじいはとてもシンプルなことがわかりました。
田辺さん「ぼっちゃん!」
田辺さんは息子に会った際、ヒデじいが花輪クンを呼ぶときの【ぼっちゃん呼び】を息子にするだけだったのです。彼女のヒデじいは【ぼっちゃん呼び】が全てでした。これなら車の免許はいりません。しかし、ここで問題が発生しました。
息子「僕はぼっちゃんじゃない!」
息子(4歳)は田辺さんの【ぼっちゃん呼び】に激怒したのです。
田辺さん「いや、ぼっちゃんだよ!よっ!ぼっちゃん!」
息子「ぼっちゃんじゃない!」
田辺さん「焼肉食べ子はぼっちゃんだよ!」
息子「ぼっちゃんじゃない!」
ヒデじいへの切符が【ぼっちゃん呼び】しかない田辺さんは果敢に【ぼっちゃん呼び】を息子にしていましたが、息子はその度に激怒。
田辺さん「このままだとヒデじいどころか嫌われるね」
流石の田辺さんも【ぼっちゃん呼び】をストップ。田辺さんのヒデじいへの道は断たれたかに思われました。
息子「ママ!」
そこから月日は流れ、私が家で寝転がっているっと、息子がやってきてこう言いました。
息子「ぼっちゃんって呼んで」
私「え!?もう一回言って!」
息子「ぼっちゃんって呼んで」
私は息子が初めて「ママ」と呼んでくれたときに似た衝撃を受けました。
私(なんで?って聞きたいけど、ここで息子の望んでいる以外の言葉を発して息子の機嫌を損ねてぼっちゃん呼び拒否になったら困る…)
私「…ぼっちゃん」
息子「はーい!」
私(ぼっちゃんを認めた!)
息子「ぼっちゃん一緒に遊びましょうって言って!」
理由は簡単、息子に童謡「どんぐりころころ」ブームがきていたのです。私は田辺さんに「息子がぼっちゃんって呼んでって言ったよ」と連絡しました。田辺さんからはすぐに
田辺さん「え!なんで?!」
という返事がきました。私は「どうやら息子にどんぐりころころブームがきている」と、ことの経緯を説明すると、田辺さんから、
田辺さん「みたらしに『田辺さんでてきて こんにちは ぼっちゃん 一緒に 遊びましょう』って歌って!」
そうお願いされました。私は彼女の願いを聞き入れ、息子に歌いました。
私「田辺さんでてきて こんにちは ぼっちゃん 一緒に 遊びましょう♪」
息子「面白いね!」
田辺さんにこんにちはをされた息子は笑顔でした。私が田辺さんにそれを報告すると、
田辺さん「あんなにぼっちゃんに怒ったのに!でもこれからはぼっちゃんって呼べるね!」
とても喜んで、「ぼっちゃ~んこんにちは~」と、田辺さん自らがこんにちはする動画を送ってきました。息子はそれにも笑っていました。
…普通はここでハッピーエンドなのですが、田辺さんは違いました。後日会った田辺さんは浮かない顔でこう言いました。
田辺さん「よく考えたらさ、どじょうのおかげだよね」
私「なにが?」
田辺さん「みたらしはさ、どんぐりころころにハマったわけでしょ?あの歌詞どじょうがぼっちゃんって呼んでるじゃない?田辺さんのぼっちゃんはあんなに怒ったのにどじょうのぼっちゃんは嬉しいってことでしょ」
私「でも田辺さんのぼっちゃんも笑ってたよ」
田辺さん「どじょうのおかげなんだよ!私はどじょうのお情けで笑ってもらってるんだよ!」
田辺さんは真剣な顔で言いました。
田辺さん「決めた!私はどじょうになるよ」
私「え」
田辺さん「私がどじょうになったらもう私もどじょうだから他のどじょうにでかい顔されないでしょ(?)」
私「別にどじょうにならなくてもぼっちゃんって呼べるよ?」
田辺さん「嫌よ!みたらしの今の笑顔は私じゃなくて遠くのほうにいるどじょうに向けてるんだよ!」
私「だってどじょうになってこれからどうするの?!漫才の挨拶で『はーい!良い女の田辺よ~』って言ってるんだよ!」
田辺さん「『はーい!どじょうの田辺よ~』になるね」
私「お客さんびっくりするよ!」
田辺さん「いやお客さんも『ああ、どじょうか』って思うくらいだよ」
私「スイーツの仕事は?スイーツ女王もどじょうでやるの?!」
田辺さん「これからはスイーツどじょうになるよ。スイーツに詳しいどじょうだよ」
私「どじょうになるって田辺さんはそれで良いの?!」
田辺さん「みたらしが笑ってくれるなら私はどじょうになるよ!!」
私はこんな愛の言葉があるなんて知りませんでした。私はそれを聞いて、中島みゆきさんの歌で「君がわらってくれるなら僕は悪にでもなる」というものがあったなと思い出しました。
私「わかったよ。これからは田辺さんのことはどじょうとして接すれば良い?」
田辺さん「いや、まだだね。みたらしに直接会って、私が『ぼっちゃん』って呼んで『はーい』って言われた瞬間私はどじょうになるよ」
私は(そんなこと言われると会わせにくくなるな)って思いました。
おわり
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