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伊職人、sartoriaをかく語りき

[イタリア仕立て文化に興味がある方向け]



Sartoria 『女性名詞』

 1、仕立て屋の仕事場、裁縫場、デザイナーのアトリエ、洋裁店、仕立て屋の店、服飾店、[総称的]デザイナーとその活動
 2、洋服を仕立てる技術[職業]、仕立て業、裁縫業

伊和中辞典 第2版(小学館)より抜粋

 

 ある嗜好を持つ方々にはもっとも馴染み深いイタリア語の一つではないでしょうか。 改めて辞書をのぞき込めば上記が日本語としての正しい意味だそうです。

 その仕事に従事する私の感想としては、その通りでもあり、物足らなくも感じます。

 私の知る範囲で、彼らイタリアの仕立て職人がどのような思いを込めてSartoria と自称していたのか。 思うに任せて書いてみようと思います。


 ジャンカルロ(Giancarlo=Rossi   一番はじめの仕立て屋で私を指導してくれた職人) は、いわゆる日本人が想像する「チャオ、アモーレ」的なステレオタイプなイタリア人ではありませんでした。

 どちらかといえば実直で真面目な人柄で、当時60歳を少し上回っていたと思いますが、朝早くから毎日のように働いていました。

 
 仕立て屋のビジネスは一着作って仕立て代をいただくという単純な収支構造ですから、自ずとその世界で存在感をみせる為には、一定水準の仕立て技術の質と速度、両方が要求されます。

 私は数十名の仕立て職人にお会いしましたが、彼は、その中でも特に高いバランスを感じます。

 彼は製作工程の中でも、重要で難しい箇所を専門で請け負っていました。

 初心者であった私でも、どの工程が重要で難しいかは既に知っていましたから、ずいぶん羨望の眼差しで彼の仕事を見ていたと思います。



 幼児の人格形成がそうであるように、
人間は人生で初めて見た事、初めて経験した事、大きな影響を受け、それを自身の一般常識として物事を判断していきます。
 
 私にとってとても幸運だったのは、初めて深く付き合った職人が彼であり、その彼から見聞きした経験が、未だ一定の法度(はっと)のような役割を私に課しているわけです。


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