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血流維持型汎用血管内視鏡(NOGA)でみる大動脈の汚れの真実

これまでの大動脈への認識

大動脈は全身の高速道路ともいえる全身に血液を送る経路です。大動脈の異常はこれまであまり注目されてきませんでした。多少汚れはあるけど寿命と関係ないんだ、という言い伝えもありました。一方で血管の壁に亀裂が入る大動脈解離という病気は、血管壁に大きな損傷が起こるため、破裂すると一瞬で生命を奪います。大動脈は血管が膨れる病気です。これもその部分が膨れて壁が薄くなるため、破裂の危険があります。一方で大動脈に異常が起こると、その下流である臓器にも影響を及ぼすことが考えられます。大動脈の先の方の病気、脳や腎臓、下肢の血管が詰まる病気があります。それはそれぞれの分野として調べられて、治療されています。それぞれに原因のわからない病気が一定の割合であり、それぞれの科の先生方が懸命に診療にあたっています。

従来の大動脈検査法の問題点

大動脈は主にCTで調べられてきました。ほかにも必要であればMRIや経食道エコーで調べることができます。CT、特に造影CTは長年大動脈の評価のゴールドスタンダードであったといえます。CTを研究していた時期もありましたので、CTは好きですし、本当にすごいです。体を切り開かなくても、おおよその全体像を診ることができます。しかも立体像を作れます。骨だけ、とか、内臓だけ、とか、血管だけ、とかだけ選択して3次元で表現でき、360度回転した像を表示することが日常の診療でできます。CTも動いている心臓の血管、これは2- 4 mmと細いのですが、それを撮影できるほど進歩しています。それで見つかる病気も多く、信頼できる検査法ではあり、多くの人がそれで助かってきたのですが、我々はそれに頼りすぎていました。MRIは大動脈の壁の異常を少し詳しく見ることができます。CTで使う造影剤も、アレルギーなどで使えない人もいますが、MRIは造影剤が必要ない場合が多いです。しかし空間分解能がCTに比べて低い、すなわち画像が粗いです。しかもこれらは、静止画です。心電図同期といって、拍動しているときの様子を表現できなくはないですが、実際は仮想的です。経食道エコーは、リアルタイムに表現はできますが、微細な物質の飛散や亀裂などは十分に表現できません。病理検索もありますが、手術サンプル、剖検サンプルといった生体内で起こっている状態から離れた状態の分析です。すなわち、これらのわかる情報で大動脈はこのようなものだと長年考えられてきました。その常識が大きく変わったといえます。

血流維持型汎用血管内視鏡(NOGA)でみた大動脈の世界

血流維持型汎用血管内視鏡(NOGA)で大動脈を見ると、何が見えるのか?それまでは部分的に観察した例はありましたが、大動脈を系統的にスクリーニングする方法を世界で初めて作ったのは、約10年前の2013年ごろです。今のところ13種類ほどの自然破綻プラーク(spontaneously ruptured aortic plaques)を認めました。しかしこれらはCTやMRIでほぼ正常のようなところにみえます。中でもおどろきなのは、内視鏡の光源に反射してきらきら光りながら飛散していくものがありました。数ミリメートルの範囲内です。これは塞栓の原因になるのでは、と考え慌てましたが、病状に変化はありません。あとになって、それは中年期以降に特に冠動脈疾患患者で日常的に見られるものであることが分かりました。これには名前がなく、きらきらと光りながら、ふわふわと飛んでいくため、puff-chandelier rupture(パフ・シャンデリア型破綻)という名前を付けました。基本的にはNPO法人日本血管映像化研究機構での画像標準化委員会で名称のコンセンサスを得ましたが、命名する貴重な機会を得ることができました。

下記論文Video 1 に動画があります。(必要に応じてブラウザで翻訳してください。)Cureus. 2024 Jan 25;16(1):e52949.

https://www.cureus.com/articles/221328-different-characteristics-and-interleukin-6-ratios-of-scattering-type-aortic-plaques#!/

日常飛散するプラークの影響とは

日常的にプラークが飛散している?ここまできて日常疑問に思ってこられた医師、医療関係者のみなさまはピンとくる患者様がいらっしゃるのではないでしょうか?局所の問題では説明のつかない広い傷害の頭や足の梗塞、一過性心房細動もごく短時間で本当にこんな広い範囲で、心原性脳梗塞といっていいのか?せっかく下肢動脈の経皮的大動脈形成術(PTA)に成功したのに、すぐに詰まる、はたまた原因不明で段階的に悪化する慢性腎臓病など、原因が判然としない場合が少なくありません。

また一方で、まずこういうものを見て、カテーテルを通したからそういうことが起こったのでは?と考えるのが普通です。しかし実際は違うのです。先ほどの論文は848例で、このpuff-chandelier ruptureは冠動脈疾患及び疑い症例でおおむね2個はあり、光らないpuff rupture(パフ型破綻)も含めれば3個あります。しかも80.9%の自然破綻プラークを医原性にそれだけの数傷つける方がほぼ無理なレベルです。その昔と比べて、カテーテルのサイズ(直径)は小さくなり、性能も向上してやわらかくなり、傷つける方が困難です。

飛散したプラークはどうなるのか?


飛散したプラークの成分は粥腫(アテローマ)、フィブリン、石灰化、マクロファージ、サイトカインなどの炎症物質などです。そこではっきりわかったのがコレステロール結晶です。内視鏡光源にきらきら反射する物質の正体です。ろ紙に落とすと半乾きの状態できらきら光ります。
Angioscopic Evaluation of Spontaneously Ruptured Aortic Plaques - ScienceDirectのFig 2や、
Hypothesis on the role of cholesterol crystals in spontaneously ruptured aortic plaques: Potential triggers for inflammation and systemic effects - ScienceDirect のFig 5をご覧ください。
色々な方法を使ってこれがコレステロール結晶であることを突き止めました。

コレステロール結晶の大きさは平衡六面体をしていて60X40μmです。しかし、それらが何十層にも重なり合い、数百μmにもなることがあります。このブログの一番上の画像もそうです。
Angioscopic Evaluation of Spontaneously Ruptured Aortic Plaques - ScienceDirect のFigure 4を見ていただけるとわかりますが、自然が作り出したように思えないような神秘的な形状をしています。(偏光顕微鏡で見ているので、色がついているように思いますが、本来は透明です。)そしてそれが末梢の小血管、毛細血管に詰まります。

こんな形のものが血管に詰まっても血流をふさぐかな、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。そうなのです、粥腫(アテローマ)がふさぐならわかるのですが、こんな結晶が引っかかっても虚血にならないように思います。機序は虚血のほかに、先天免疫という、我々にある生まれ持った決勝への免疫により、塞栓の部位で無菌性炎症反応が起きるわけです。これは免疫の分野で盛んに議論されています。わずかな炎症が積み重なって、その臓器を傷害させて、機能低下を起こすと考えられます。もちろんそれだけではないと思います。基礎的なプラーク破綻、塞栓その他の機序は無数に説があります。なので、これ一つが唯一の説であるとまでは言いませんが、自然破綻プラークの炎症レベルを見る限り、これは有力なものであると思われます。

これはどの科の分野か?

ここまでの話をお読みになって、これは、何の科の話だろうか?と思われる医療関係者もいらっしゃるでしょう。大動脈でCTなら放射線科、大動脈の治療なら循環器内科か心臓外科、脳は脳神経内科、しまいに先天免疫という基礎医学の話も出てきました。そうなのです、大動脈を中心に各臓器、各診療分野がつながっているのです。最近は技術偏重で、ある科でも、ある分野しかしない、この手技しかしないという話も少なくありません。一方で、学問分野が広がり、系統的になる時には、いろんな分野を巻き込んで大きくなるものです。今の専門分化はそれはそれで必要なことですが、それ以外に包括的な学問の構築があってもいいと思います。

分野の垣根のない議論をお聞きになりたい方へ

こういった各分野にまたいだ新しい医学の内容を、血流維持型汎用血管内視鏡所見(NOGA)とともに聞かれたいというかたは下記の学会がおすすめです。認定NPO法人日本血管映像化研究機構主催でTrans Catheter Imaging Forum (TCIF) 2025が2025年6月6日ー7日に開催されます。これは、オンライン開催で、特にNOGA所見を中心に、症例をもとに病態を考えていくものです。NOGAを導入していなくても、新しい医学の進歩にご興味のあるかたは下記のサイトからお申し込みください。

また、認定NPO法人日本血管映像化研究機構のホームページはこちら。新しい医学などの情報が掲載されています。