イタリア女一人旅 旅立ち編
一人旅は孤独だ。寂しくて、不安で、毎回後悔する。
進んで一人を選んだのではない。私の休みに合わせてついてきてくれる友達がいないのだ。コミュ障過ぎて、友達の母数が少ないし、支離滅裂な私の話を辛抱強く聞いてくれる、数少ない物好きな友人に対しても、休みをわざわざとってもらうこと、大金をかけてもらうことへの申し訳なさで、なかなか一緒に行こうよ、と言い出せない。いや、本当は申し訳ないのではない。断られて、道中を共にするほどの深い中ではなかったと再確認するのが怖いからだ。
行きたい場所が見つかったら、旅のお供を募るより先に、自分の都合の良い日程で航空券のチケットを取ってしまう。それから、奇遇にも参加できる人を探す。見つからなくても、最初から一人旅のつもりなので、ショックが少ない。今年のゴールデンウィークはイタリアに行こうと決めていた。なんと、仲の良い職場の先輩とその恋人もイタリア旅行を計画しており、一緒にローマの街を巡る話になりかけ、寂しさを回避できるとほっとしていたのもつかの間、先輩が身ごもったのでその話は立ち消えとなった。また、ヨーロッパ人の友人や、過去何度か一緒に旅をした高校時代の同級生にも声をかけたが、絶妙に日程が合わず、今回も一人旅を決行することになった。
実際、それでもよかった。
旅立ちは4月の下旬、水曜日だった。エジプト航空という格安のエアラインで、カイロを経由し、ローマにつく旅程だ。そういえば、ヨーロッパへの旅はかなり久しぶりだ。大学生の時にパリにこれまた一人で訪れたのが最後だから、少なくとも5年は経過していることになる。不思議なことだが、西欧諸国は身近な存在に感じており、何度も長期滞在していたような気持がしている。
エコノミーのシートは薄く硬く狭く、時間がたつほどに体のあちこちがこわばってきて辛かったが、仕事で中南米へ出張したときのことを思えばすべてがソフトに思える。あの時は、エコノミーシートでメキシコシティまで10時間、チリまで10時間、さらにコロンビアに飛ぶ旅程だった。予定通りでも耐えがたいのに、さらにトランジットでフライトスケジュールが乱れに乱れ、27時間ほど不眠状態で待たされた。その後、季節が真逆の南半球で取引先のオフィスやら工場やら倉庫やらを駆け巡りながら商談をし、夜まで接待を受けたのち深夜に、日常業務をこなす日々が続いた。睡眠は5時間。体力の限界だったので正直手が回りきらず、上司には仕事をしなさすぎだ、異常だと怒鳴られた。ついには風邪をひいて、現地の薬局で怪しげな真っ赤な錠剤を買ってしのいだ。これがてきめんに効き、寒気も鼻水もくしゃみもぴたりとやんだ。現地の風邪には現地の薬だ。帰国後、転職活動に邁進し、あっさり会社を辞めた。
カイロでのトランジットは、私にとって初めてのアフリカ上陸となった。初めて生でアラビア語の表示を見た。検査場の列が男女に分けられることを新鮮に感じた。正直、服装も肌の色も違うよそ者にはよそよそしいのではないかと疑う気持ちがあったが、お手洗いの清掃員の女性と目が合うとにっこりしてくれたり、空港のwifiに繋がらないとカフェの店員に助けを求めるとスマホを操作して助けてくれた。自らの根拠のない思い込みに恥ずかしくなった。そしてその間違いを訂正してくれた彼女らに感謝した。
☆ローマ編に続く