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〜あの日の涙〜

私は誕生日だった。

彼を喫茶店で待っていた。

到着は遅くなっていた。

それは、私のために時間を使っていたから。

早く逢いたい気持ちを抑えて

彼のブログ記事に目を通していると

ようやく現れた。

喫茶店ブロンディ。

浅草の賑やかな街中にひっそりとそこにあった。

有名なお店だったようだ。

唯一、父と母が一緒にいた場所に似ていた。

幼少期の自分。

父と母は喫茶店を以前経営していて

その後、喫茶店の流れを残しつつ麻雀屋に改装した。

レトロな喫茶店に入ると

特別な感情になる。

幼少期の頃の自分を思い出して懐かしくなるからだ。

その空間は特別な場所だった。

彼と少しだけ、一緒に喫茶店にいた。

メロンソーダフロートを必ず飲んでしまう自分。

隣で彼はホットコーヒー。

猫舌だからと言って、水を入れていた。

私はちょっと笑ってしまった。

時折コミカルに見える彼は可愛い。

優しくて楽しくて面白い。

マスターが細身の人で

喫茶店の空間に溶け込んでいて

空気みたいな人だった。

そこに馴染みきっていた。

私たちはホテルに向かった。

私はずっと彼のそばにいたかった。

感じたかった。

だから誕生日は密に一緒に過ごしたいと

お願いした。

熱い時間を過ごした。

誕生日プレゼントももらった。

一緒にチョコレートを食べた。

先に全種類、彼に食べてもらった。

たくさんキスをして、顔がキラキラ

ひかるほどに。

好きな人を思い切り愛せる幸せ。

噛み締めていた。

彼の腕に抱かれた。

ふかふかの柔らかい皮膚。

包まれていれば他に何もいらなかった。

時々、彼が少年のような男の子みたいな顔をしていた。

好奇心とドキドキが混ざったような

そして少しだけ挑戦的な眼差し。

彼の全てになった。

帰り道、手を繋いで歩いていた。

こんな暗い時間まで今日は長く一緒に居たね

と、言うと

彼は泣いていた。

家族のような彼。

離れる理由がわからなかった。

駅のホーム

彼のとてつもなく寂しそうな表情が

電車の揺れの中でかき消されていった。

寂しがり屋の甘えん坊の構ってちゃん。

こんなに可愛くて愛しい彼を放っておけるわけがない。

ずっと側において可愛がって愛を注いでいたい。

少年のような好奇心でイタズラに

私を淫らに求め続けさせてあげたい。

そしてまるで父親のように

私を優しく包んで欲しい。

愛してる。

毎日毎時間毎分毎秒。

変わることのない永遠の愛。

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