はじめに
私達がこのアカウントを開設するに至った経緯についてご説明するには、ふたつの要素が欠かせません。
ひとつは、私達がシェアハウスのキッチンで出逢ったということ。
ひとつは、「下」の父親の死です。
シェアハウスのキッチンで
2016年の夏。「上」と「下」は偶然同じシェアハウスに入居し、そこで出会いました。
このシェアハウスは65世帯が入居する5階建の大型のもので、キッチンの設備が充実していることが有名でした。
どのくらい充実しているかと言うと…
・ガスコンロ6口
・ガスオーブン1基
・コンベクションオーブン1基
・調理台10人用
・炊飯器4台
・電子レンジ2台
・業務用冷蔵庫
…というくらい。
このキッチンに惹かれて入居してくる者も多く、つまり同居人たちは総じて料理上手で「美味しいものへの感度」の高い人種でした。
一品持ち寄りのパーティになることは、文字通り日常茶飯事。
休みの日は早朝からみんなで市場に買い物に行き、日中に手の込んだ料理をして、夕方にお互いの料理を褒め称えあい、夜になったら酒酌み交わす…という生活をしていて、仲良くならないわけがありません。
「上」と「下」も、こんな環境で肩を並べて料理をしているうちにすっかり仲良くなっていました。
シェアハウスを退去した今は2人暮らしをしています。1LDKのカウンターキッチンは、私達にとっては団欒の場であり、ストレス解消の場であり、友人を迎える場であり、毎日の想い出が生まれる場です。
「下」の父の死
2019年の4月。父が亡くなりました。
父は私のあらゆることの先生でしたが、特に料理については熱心に教えてくれました。
私が小学生のとき、父と一緒に取り組んだ夏休みの自由研究は、
・電子レンジでゆで卵をつくる方法
・タマゴ料理レシピ集
・味付けゆで卵の作り方から見る浸透圧
と、料理ネタ(なぜかタマゴ縛り)ばかりでしたし、私に折込みパイ生地の作り方を教えてくれたのも父です。
父は几帳面で研究熱心で好奇心旺盛な人であり、休みの日はよく趣味で執筆活動をしていました。自作のレシピや郷土料理に関する研究がある程度の文量になったとき、唐突に自作のホームページ作りに乗り出します。
それがこちら。
食材や調味料の分量を一切書かず、「料理はあくまで作り手の味見によって作り上げるものである」と説くスタイルと、レシピの合間に挟まるエッセイのような日記のような文章は、我が父ながら独特な世界観だと思います。
本来ならば父の死後、このホームページもその役目を終えるはずでしたが、我がパートナーの「上」は私に言いました。
「このレシピを通じてなら、これからもお父さんと対話できるね」と。
ホームページには幼き日の私の写真がたくさん登場します。父が私たち家族にあてたメッセージがたくさん残されています。
何より父の残したレシピが、父の人生そのものです。
料理を通して知り合った「上」が、私と父の最大の絆をそのように捉えてくれている。
このことにとても感動したのを覚えています。
父の残したレシピから、父の想いを感じること。
そうした中で出来た料理を、大切な人に食べてもらうこと。
その喜びを、文章にしてまた誰かに伝えること。
これが私たちのやりたいことです。
私とあなたのあいだに。
父と子のあいだに。
家族と家族のあいだに。
「ロッシーニのあいだ」に、今日も「楽しい」と「美味しい」がありますように。