【彼と彼女のものがたり】 〜side Y〜
「魂」で繋がる彼と彼女のものがたり
現実の光と闇を行き来しながらも
お互いの存在を意識しながら
共に生きていく。
《不調和の調和》〜side Y 〜
「この間に一個なんか欲しいんだよ、、、
なんかねぇ、、、
今のもいいんだけど、
ちょい弱い感じがしていて。
山さん、アイディアない?」
「、、、、こういうこと?」
颯太は一音を鳴らして確認した。
「あぁー!
次それでお願い!」
現場ではよくあることだ。
あの楽器のあの音が欲しい、とオーダーされることもあれば、
採譜やフレーズをすべて任されることもあるし、
現場によって「望まれる仕事」はまちまちだった。
誰かの何気ない音やコトバで
全く別の曲に変化していく場面はとてつもなく面白いものだ、と颯太は思っていた。
スタジオミュージシャンというのは
側から見るよりも
至極地味な作業を繰り返して作品に関わっていく。
「盤の時みたいに
配信もクレジットされたらいいのにね。。
そんなに難しくないことだと思うけどなぁ。」
「誰の音か知りたい人はいっぱいいるし、
そこから手繰る楽しさってあるでしょう?」
「ま、受取り側の意見だけどね。」
「そういう声は多いけどね。
もう少しかかるかもな。。。」
薫の言うことはごもっともだったし、
作り手誰もが指摘する部分だった。
そもそもやること自体は
その時の流行の影響はあるが、基本は変わらない。
伝達方法の選択肢が変化した、ということだ。
そういう中での
表現方法も最善を選んでいけばいいだけだ、と颯太は考えいた。「折衷案」は現場での基本スタンスだった。
「折衷案って妥協してるような
ニュアンス帯びる気がするんだよなぁ。。」
「受け取り方にもよるのかな。いいとこどりしてまとめる、みたいな意味じゃなかった?」
「ん。。
本来はそうなんだけどね。
なんか仕事してると、
最近、ニュアンスが変わってきてるような
気がしたんだよ」
「私もある意味
折衷案がないとできないなー
たしかに。
初めっから諦めてる感
感じると辛い時はあるかも。。」
「色出した方が
いいもの出ると思うんだよなぁ」
「、、、折衷案より
統合案みたいな感じ?」
「あー
そうかぁ、、そっちかも!」
コロナ禍で、
妥協しなければならない面が増えたことでコトバの意味が変容していることを
感じていた。
反応していくのが役割の場所では、
おざなりになりがちな部分を
颯太は見過ごせないでいたのだ。
現場ではスルーして何食わぬ顔を装ってはいたが、
こういうことは
積み重なると自分が滞ることを知っていた。
(素直に音が出せなくなる、、、)
颯太はそんな気がしていた。
「動いてないように感じてても。
もしかしたら新陳代謝は起きてるのかもしれないよ?」
「気づくまでタイムラグがあるだけじゃないかなって
思うなぁ。。。」
薫は色眼鏡を取り払うのがうまいな、、と話せば話すほど感じていた。
「だってさ、
気持ちいいってどんな感覚かは、
よくわかってる人たちだもの。
だからみんな
それを音楽に求めてるんだと思うよ」
「なんか、、
上目線に聞こえたらごめんね、、、」
いたずらっぽく笑う薫は妙に説得力があった。
薫に話して良かった、と颯太は思っていた。
(自分が不調和に思ってただけか、、)
「颯太さんは言わなくても、
表に出てるから 笑
伝わるって思うよ」
にっと笑う薫に
ホッとする自分がいた。