【彼と彼女のものがたり】side Y
「魂」で繋がる彼と彼女のものがたり
現実の光と闇を行き来しながらも
お互いの存在を意識しながら
共に生きていく。
《希望の温度》〜side Y〜
年末年始のこの仕事は
独特の空気感が漂う。
今となっては慣れっこだが、
華やかさとは裏腹に
バックステージは地味過ぎるほど地味に、
分刻みで動いていく。
おまけに、
拘束時間も長いから、
自分なりの息抜きも
自然とスキルが上がっていく。
自分が「ポーカーフェイス」と言われるのは
当然と言えば、
当然なのかもしれない、、、と
颯太は思っていた。
(表面上と中身がイコールでは、
この仕事は務まらない)
なぜ?
どうして?
細かい理由は、いちいち確認する必要はない。
その瞬間「求められること」を
表現するのが自分の役割だ、と
どこかで割り切っていた。
「明けたら、
酒が呑める!!!!」
役割を果たすことは、
自分を抑えつけること
そのバランス調整を
どこかでとっていかないと、
自分が自分でいられない感覚に
陥っていく恐さが常に付き纏っていた。
アルコールや賭け事、、
また、
ある人にとっては
ドラックやSEXもそれに含まれる。
カラダの感覚を研ぎ澄ませれば
研ぎ澄ませる程、、、
どこかを
意図的に麻痺させて、
均衡を保とうとする本能が
あるのかもしれない。
意識的に、その瞬間だけは、
落ち着くことが出来る。
けれども、
それは「一時的なもの」であって
その歪みは
色濃く残ってしまう
ということを颯太は実感していた。
「寝れてるの?」
薫はいつもそんな「歪み」を
気にかけてくれていた。
非日常が続くと、
覚醒し過ぎた神経は
狂いが生じるのを
薫は真っ先に感じとっていたようだ。
(もう誰にも会いたくない、、、
何も見たくない、、、
一切、音も聴きたくない、、、)
すべてをシャットダウンしたくなる感覚に
陥りそうになる時、
決まって
薫から連絡がある。
ある意味、
颯太にとっては「サイン」にもなっていた。
★
(これがハネたら…!!!
会いに行く……!!!)
年始の渋滞が落ち着きはじめた頃、
颯太は薫と約束した海岸に向かっていた。
(、、、、普通なら。
迎えに行くべきだろうな、、)
そんなことも浮かんだが
薫なら
必ずそこにいてくれる、という
安心感があった。
車から降りると、
白いコートに身を包んだ姿が見えた。
「かおるーっっ!!!!」
思わず叫んでいた。。
本当は
駆け寄りたかった。。。。
すぐにでも
抱きしめたかった。。。。
衝動を抑えるのに必死だった。
邪魔するものは何もない、、、
(今は、、、、
まだ、、、、)
そう出来ない自分、と
そうしたい自分が戦っていた。
「、、、おつかれさま」
朝日に照らされ
満面の笑みを浮かべる
薫の輪郭は
何とも言えない
純粋な美しさがあった。
(この衝動は、、、、
すべて手の温もりに集めよう、、、)
泣き出しそうに震える
ココロの振動に
(もうコトバは要らない)
そう、颯太は思った。
いくつか言葉は交わしたかもしれないが、
正直そんなものはどうでもよかった。
「薫の存在があるということ」
それだけで。
ささくれだった自分が
潤っていくのを感じていた。
薫の指は
ぎゅっと握ってしまったら
折れそうにも感じた。
嫌がったとしても
どうしても離すことは
出来なかった。
(俺の勝手なわがままだ、、)
そうわかりながら。
今だけは、、
甘えさせて欲しい、
と思った。
「んー、、、
自由だと思うと、
確かに恐い時もある、、、
あるけどさ。
………薫は
ひとりじゃないだろ……???
……ちゃんと守られてる。」
「………そだね」
「恐いのが悪いわけじゃないって思うよ。
だから、
ちゃんと立とうって思うし、ね」
「ん。。。」
薫が小さな手で微かにキュッと握り返してくれたのを感じて、胸が締め付けられた。
薫に言ったことは、
本当は自分に向けて
言っていたのかもしれない。
甘えたいと思う自分を。
思うように行動出来ない、
自分の不甲斐なさを。
すべて。
すべてを
海に流してしまいたかった。
薫から伝わる温もりを
自分の熱に変換していくように。
「情けない自分は、
卒業する」
颯太は、
絡めた指先に力を込めて
そう決意していた。