忘れたくないものから忘れていく
忘れたくない思い出がある。どんなに願っても戻ってこない存在がある。写真や、動画で姿を見ることはできる。でも、温かさとか、匂いってとっておけない。
私にとってそのとっておけないものって、実は何よりも大切なものだと思う。触れて温かいこと、匂いがすること。存在を感じる。命を感じる。
どうにかして、とっておけないのかなぁ。大切な存在の、匂いや、温かさ。いつも感じていた存在感。私はいまだに写真だってまともに見られないのに、あんなにいとおしかった匂いや温かさをもう思い出せない。
それが、生きている存在なのかもしれない。血がめぐっていること。体温があること。目に光を宿していること。匂いがあること。呼吸をしていること。それらを失う瞬間を見たことがある私にとって、それらはすべて生きているということに感じられる。