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人工股関節置換手術のあとさき36 手術を迷っている方へ

わたしは、2024年6月、63歳で右股関節の人工股関節置換手術を受けた。

1歳の時に股関節脱臼がわかり、40歳くらいのときに変形性股関節症と診断され「いずれは手術をすることになるでしょう」と言われてから20年、末期の状態での手術となった。50歳のときに、階段を登るときに足が上がりにくいと感じてから、どんどん進行して、以後10年間は股関節の痛みとともに暮らしていた。

痛みがひどくなって歩くのも大変になってからも、なかなか手術の決心がつかなかった。母は同じ症状で50代の時から3度手術をしているので「手術したら楽になるよ」と何度もわたしに言っていた。それでもわたしは、自分の身体にメスを入れることや全身麻酔での手術に抵抗があって、痛む足を引きずるようにして暮らしていた。
その傍で骨や関節にいいと言われるものを片っ端から試していた。サプリや食べ物、運動療法、エネルギー療法などもいろいろやってみた。サイキックな方に「過去世で、太ももに大きな矢が刺さったままになっている」と言われて抜いてもらったこともある。けれども何をやってもこの脚の痛みはますばかりだし、脚の長さもどんどん違ってくる。最後に残ったのがあんなに避けていた西洋医学療法(人工股関節置換術)だった。

2024年の1月にリビングで5mmくらいの厚みのラグマットに足を取られて派手に転倒。翌日から脚の付け根の痛みで歩くこともままならなくなって、かつて診てもらった医師のいる整形外科に飛び込んだ。レントゲンを撮ったが骨折はしていなかった。きっと転んだ拍子に筋を違えたのだろう。
でも、その時に撮ったレントゲンで今の股関節の状態がはっきりした。もういつでも手術してよいほど変形が進んで軟骨もすり減っていた。末期だった。
その日はそのまま帰宅して3ヶ月くらいかかってようやく元に戻った。といっても転倒した際に痛めた筋が元に戻っただけで、股関節の痛みは変わらずである。

医師は、現在の状況をていねいに説明してくれるけれど「手術をしましょう!」とは言わない。命にかかわることではないので手術は本人の決断にゆだねられる。

1月に転んだときに、わたしは自分の身体がそう若くはないことを思い知らされた。手術をしないで今から股関節の不全を元に戻すことは難しいとハッキリと自覚した。(生まれつきの股関節形成不全だから考えてみれば当たり前のことだが、それまでわたしは手術の恐怖から逃げていたのだろう)

この先どれだけ生きるかわからない。それは寿命で決まっていると思っている。けれど、この先の人生をずっと痛みとともに生きて、痛みを我慢しながら、行きたいところにも行けず、やりたいこともできないで暮らしていくのはいやだと思った。

QOL(quality of life)「人生の質」という言葉がある。
わたしは今63歳。夫も退職して自由な時間ができるし、まだまだ人生を楽しみたいと思ったとき、不思議なくらい自然に手術をしようという気持ちになった。
手術を選択することでまさしくQOLを上げられる!


2024年3月、改めて病院を訪れ、長いお付き合いになった医師に手術の意向を伝えて、その時にいちばん早い手術可能日を選んだのだが、それが3か月後の6月だった。
それからの3か月は自分でも不思議なくらい気持ちが明るく前向きになって、あんなに怖がっていた手術が楽しみにさえ思えてきた。もう戻ってこないと思っていた両脚そろった足の長さや、行きたいところに行ける、今までできなかったことができる暮らしが待っている、という思いがわたしを前向きにさせていた。

そして手術。

入院の翌日に手術を受けて、術後の大変な日々が過ぎて少しずつ身体が動けるようになると、病棟の廊下で同じ手術を受けた方々とお話する機会が増える。
そのとき感じたのは、手術を受けた方は、皆さん、痛みから開放されてまた歩けるようになりたい!と強く思い、また、なれる!と信じていることだ。
また山に登りたい!孫にも会いに行きたい!そんな未来を見ている。だから最初の地獄のようなリハビリの痛みにも耐えられる。皆さん明るくて前向きだった!わたしは、そんな方々に大変勇気をいただいた。

そして、いろんな方から伝え聞いたことなのだが、
この人工股関節置換術を受けた方たちは、ほぼみんな「受けてよかった!」と言っている。「地獄から天国に来たみたい」と言った方もいたそうだ!

わたしは、今まだ回復期にあって筋肉の痛みから完全に開放されたわけではないのだが、それでも、術前の股関節の痛みと、足をひきずるような歩行からは開放されている!足の長さが揃うだけでもずいぶん違う。退院後わたしを見た友人が「顔のゆがみがなくなったみたい」と言ってくれた。足の長さが整うと全身の骨のバランスも変わってくるのだなと思った。

手術を受けた方によると、人によるがだいたい3か月くらいで人工股関節も身体になじんで筋肉もついてくるそうだ。そして、6か月後には「もう何をしてもいい」と言われる状態になるらしい。1年も経つ頃には手術をしたこと(人工股関節にしたこと)も忘れるときがあるそうだ。

そんな話をいろんな人から聞くと、今はまだリハビリで筋肉痛に悩まされているし、まだまだ長距離は歩けないけれど、前向きな気持ちで毎日を過ごせている。

あのとき決断しなかったら、今もまだ絶え間ない股関節の痛みに悩まされていたと思うと、本当にあのとき決断してよかったと思う。
朝、目が覚めて、ベッドから足を下ろして一歩踏み出すときからもう痛かったし、一日じゅう歩くたびに痛みが付きまとっていたのだから。
毎日、これが夢で、夢から覚めたらすべての痛みがなくなっている!そんな風にならないかな、と何度も思った。が、希望は100%打ち砕かれた。

リビングで転倒したのは痛かったが、あのことがわたしに手術を決断させてくれるきっかけになったと思うと、それすらもありがたい。(人は何かきっかけがないと大きな決断はなかなかできない)
もっと早くすればよかったとも思うが、決めたときがわたしにとっては最適なタイミングだったのだと思う。

先にも書いたが、この手術は緊急を要するものではないので、何よりもわたしが決めなければ動き始めない。わたしが決断をした時からいろいろなことが動き始めたし、周り(特に夫)もそれに合わせて動いてくれた。そういう意味では、どんなに大変な手術でも「わたしが決めた!」という思いが、たとえ何が起きても人のせいにはしないでわたしの責任で引き受ける、と思えたのはよかったなと思う。

‥だらだらと長くなってしまいましたが、この記事は、もし今変形股関節症で人工股関節置換術の選択肢が示されていて(そして特に末期の方で)手術を受けようか迷っている方がいらしたら、わたしのことをお話することで何かの参考になればと思って書きました。
もちろんひとりひとり状況も症状も異なるし、年齢もさまざまだと思うので、一つのサンプルとして読んでいただければ幸いです。

【医療費について】
すでにご存知だと思うが、日本には高額医療費制度というありがたい制度がある。
「高額療養費制度とは、同一月に高額な医療費の自己負担が必要となった際に、限度額を超えた分について払い戻しを受けられる制度です。自己負担の限度額は年齢や所得によって異なります。」(Yahoo!より引用)
この制度を適用すると、医療費もそれほど心配することはないと思う。
わたしの場合、30日(月またぎ)の入院でもろもろ入れて26万円ほどだった。
個室使用料や、食事、タオルや院内着その他のサービスも利用したのでそれらも含む。





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