煙の濃淡と見えないものの線描
雨上がりの硝子窓から見えた
水たまりみたいな鏡を
玄関の壁に吊り下げた
手に持った重みはなくなって、それは
家全体が支える何かの重みは
こうやって受け継がれてゆき
それはまたべつの総体となって
かたちを変えてゆくのに違いない
それはきっと、
寝転んだ猫に手を置いて撫でた時に
譲り受けたぬくもりは
少し前に猫がお日様からもらったもの
なのだということに少し似ているかもしれない
◇
たまにしか見ない天気予報が気温の変化
を伝えていた
午前にパロサントに火をつけていたけれど
窓を開けて、外とつながってみようと思った
レースのカーテンが揺れた
揺れ続けた
白色は透明ではない
だなんて当たり前のことに気がついた
普段目には見えない風が
白色のレースを通じて見ることができた
家の中から見ると、静止画にしか見えないことも
多いけれど
いつもせかいは動いている
私も動いているうちのひとつだろうか
目には見えないことが見えると
見えないはずの内側(こころ)が動いているのが
見えることがある
ことばを発すること
ことばを遺すということを
遠ざけるおそらく在る(或る)いくつかの理由
目には見えないものは
動いているせかいのなかに漂泊して
最初からなかったかのように霧消する
それが良いのかもしれないし
それは良くないことなのかもしれない
それに答えを出す必要を今は感じていないから
見えないままで、それでいい
◇
ほとんど買わない詩集を何とはなしに買って
やっぱりあまり深く目を通すことなく
陽の当たるカウンターに置いている
中身と不釣り合いに鮮やかな色の表紙は
今の好みにあまり合わない
飾るための少し大きめのアートポスターが欲しい
と思っている
それもまたモノクロームを思い描いていて
風を線で描くくらいのものが欲しい
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