「桜木町」との17年ぶりの邂逅 ~ゆず新曲「NATSUMONOGATARI」~
はじめに
深夜0時に聴いてしまった。
ゆずの新曲「NATSUMONOGATARI」を。
自分はなんだかんだ何十年とゆずのファンである。
映画「ドラえもん のび太とふしぎ風使い」で主題歌「またあえる日まで」を聴いたのが最初の出会いだと記憶しているが、そこから気づけばずっとゆずを聴いていた。
特に2009年のアルバム『FURUSATO』は収録曲「虹」が好きすぎたこともあり、人生で何百回と聴いたアルバムになった。
高校生のときの部旅行で横浜に行ったときに、無理矢理伊勢佐木町を観光ルートに入れて、ゆずが路上ライブをやっていた松坂屋の跡地に行ったこともあった(そこに行くまでに3人くらいの方に道を聞いたのだが、3人ともその場所を認識していたのが印象的だった)。
以来、今まで新アルバムが出ればほぼ必ずチェックしていたが、最近は以前ほど熱心に新曲を聴かなくなっていた。
だが、今回リリースとなった新曲「NATSUMONOGATARI」は説明文の時点でこちらのノスタルジーというノスタルジーを刺激してきた。
何しろ、
・「桜木町」のアフターストーリー。
マジかよ。あの大名曲の続編かよ。
「桜木町」とは
・2004年6月2日発売の20th Single(「栄光の架橋」の前のシングル)。
・北川悠仁作詞・作曲。
・松任谷正隆プロデュース。
・ジャケット・MVにブレイク寸前の石原さとみ(朝ドラ「てるてる家族」出演直後)が起用された。
個人的に好きな「桜木町」のポイント
・イントロのピアノ。天才としか言いようがない。さすが松任谷正隆。もうほぼほぼ幸せな歌詞にはならないことが暗示されているセンチメンタルなイントロ。
・当たり前だがサビの掛け合いのすごさ。そして歌詞の切なさ。「待ち合わせ場所いつもの桜木町に君はもう来ない」のインパクトの強さ。
・ラスサビ前の岩沢ソロパート。力強く歌っているのにどこか弱さを感じられる奇跡の歌声。
2004年から今までのゆず
「桜木町」リリース当時のゆずは今と違い、音楽トレンドなどほぼ関係ない「普遍的な」楽曲を量産していた。それこそあの「栄光の架橋」も2004年リリースである。
だからこそその後、『FURUSATO』や『2-NI-』期の蔦谷好位置をきっかけに様々なプロデューサーと組み、貪欲に新たなサウンドを吸収しだしたときはビックリもした。
だが、それによってゆずのサウンドイメージの刷新に成功し、グループの発展につながった。
もちろん楽曲のノリやメッセージ自体はずっと一貫している部分も多いのだが、サウンドのメソッドが昔とまったく違う。
ヒャダイン(前山田健一)と制作した「REASON」なんかはまさにデビュー初期のゆずではありえないサウンド・構成になっている。
「桜木町」のリリースからぴったり17年が経ったが、その間自分たちの音楽性を時代によって変形させまくりながらも、ゆずは名曲を残し続けた。
そして時は2021年6月2日。ゆずの2021年初の新曲が例の「NATSUMONOGATARI」だった。
NATSUMONOGATARI
来てしまった、名曲が。
イントロ
まず何といっても「桜木町」のイントロで流れるあのピアノのフレーズ。
「桜木町」の続編だけあって当然期待はしていたのだがやはり出てきた。
でもイントロではなかった。なんと開始から16秒後でスッと登場。最初から登場しないのはちょっといやらしい。
でもその前の15秒間の歌とアコギとピアノ。オシャレだわ。しかも「ベイブリッジ」なんて歌詞が出てきちゃう。
でもちゃんと聴いたらしっかり失恋していた。
臨港パークから見えてる ベイブリッジの向こうに輝く
君と叶わなかった約束 何度も手を振るよ
「NATSUMONOGATARI」
17年経ってもまだ引きづっているのか。
そして出てくる「桜木町」のピアノイントロ。ストリングスも加わってより華やかになった。「桜木町」の松任谷正隆と変わって、今回はゆずと長年仕事をしている蔦谷好位置がアレンジを担当。
「虹」や「with you」でもそうだけど、やっぱ流麗でオシャレなストリングスサウンドはこの人の専売特許だわ。
ゆず以外ならこれも蔦谷好位置アレンジ。
back number「高嶺の花子さん」。要所要所のストリングスがバンドサウンドともマッチしている。
あと松任谷正隆と蔦谷好位置といえば、2020年発売の『YUZUTOWN』に収録された「SEIMEI」のアルバムバージョンでのタッグが記憶に新しい。
このときはタッグだが、今回の蔦谷好位置の起用は一種のピアノJ-POPの継承式のようにも映る。
ともに時代を創ってきた名プロデューサーなだけに。
「桜木町」から「NATSUMONOGATARI」へ。
「松任谷正隆」から「蔦谷好位置」へ。
コーラス
サビ後のコーラス。
夏物語二人語り いろはに想ゑど 行ったりきたり
泣きたくなるほど会いたくて 一二三(ヒフミ)数える四五六七夜(ヨイツムナヤ)
の部分だが、このパートを聴いたときに真っ先にこの曲が思い浮かんだ。
YOASOBI「群青」。28秒からのコーラス部分にもろ影響を受けている!!と思った。
すごい。ついにYOASOBIからも影響を受けたのか。
元々ゆずは後輩アーティストからの影響を隠そうとしない。
「雨のち晴レルヤ」や「TOWA」では当時SEKAI NO OWARIのアレンジャーとしても活躍していたCHRYSANTHEMUM BRIDGEを起用し、「イロトリドリ」や「ヒカレ」ではGReeeeNのプロデューサーでもあるJINとの共作を行っている。
しっかりと後輩アーティストをチェックし(特に北川が)、その中で自分たちの音楽をさらに発展させてくれると思った人とタッグを組む。
この悪く言えば「節操のなさ」は意外と嫌いじゃない。後輩であってもリスペクトし、なんならゆずの流れに積極的に巻き込んでいく。
2010年代以降は特にこの流れが強くなっていた。
そこで話はYOASOBIである。
別にこの曲にYOASOBIは参加していない。
だがこのコーラス部分。影響受けまくっているだろ。確実に。
ゆず2人ではなく男女混成になっているところが自分にはツボだった。
ただ「桜木町」の焼き直しをするのではなく、新たなチャレンジをぶっこんでくるからたまらない。
もちろんあまりにも露骨という意見もあるかもしれないが、常に若いサウンドを獲得し、それらも「ゆずの音楽」として成立させてしまう「ゆず」が自分は好きである。
こうしてくると、ゆずの次のアルバムにはAyaseがサウンドプロデュースで入ってくるという未来も無きにしもあらず、というかマジでやりかねないというか。
まだまだ先のゆずを楽しみにさせてしまう楽曲である。
つないだ手を離した
ラスサビ前。あの歌詞が登場した。
変わり続けてく 見慣れてた街並も
だけど今も目を閉じれば あの日の二人がそこにはいる
「桜木町」
変わり続けてく 見慣れてた街並も
だけど今も目を閉じれば あの日の二人がそこにはいる
「NATSUMONOGATARI」
まったく同じ歌詞である。そしてまったく同じメロディである。
しかしその後の歌詞とメロディに変化が。
繋いだその手をいつまでも離したくなかった
それでも行かなくちゃ 僕らが見つけた答えだから
「桜木町」
つないだ手を離した 辛かった 寄り添うその優しささえも
「いつもそばにいるよ」って両手広げてくれた 飛び込むこと出来たなら
「NATSUMONOGATARI」
「桜木町」は離したくない、と未練がましい様子を見せながらも先へ進む、ある意味「強がり」が前面に出ている歌詞に感じた。
対して「NATSUMONOGATARI」は最初につないだ手を離してしまっている。そのうえで相手の優しさにふれるなど、どこか「吹っ切れた様子」を感じさせる。
そしてその後に出てくる、この先への決意を表したワードも比較ができる。
「桜木町」は「新しい明日へ歩き出した」、「NATSUMONOGATARI」は「振り返らず駆け出した未来」となっている。
「桜木町」の方では「明日」という近い未来を確実に一歩一歩進もうとする姿勢が見て取れるが、「NATSUMONOGATARI」では後ろを見ることなく、その先へ向けて一気に駆け出している様子が感じ取れる。
あの頃から17年も経っているのに、逆に歌詞の力強さがアップしている。
今振り返ると「桜木町」のころのゆずは、売れ方に反してテレビ出演などもあまり行わず、路上時代からのフォークテイストを中心としたサウンドによって、ある種「安定」の道を一歩一歩歩いているようだった(この時期はリアルタイムで熱心にゆずを追っかけていたわけではないので、多少の差異があるかもしれない)。
だが、蔦谷好位置がプロデュースに参加しだした2008年~2009年ごろより、ゆずは本格的にサウンド改革を図り、これが2010年代以降のゆずの発展に繋がった。
自分たちのこれまでの功績をこと新曲制作においてはほぼ振り返らず、ただただ未来に向けて全力で走っていた「ゆず」の姿勢にこの歌詞が重なった。
この部分は、デビューして24年で同世代のアーティストが活動休止や縮小を行うなか、未だにアリーナやドームを満杯にするなどトップランナーとして走っているゆずの「新たな決意」のようにも感じられた。
最後に
ゆずの新曲「NATSUMONOGATARI」は2004年から今までのゆずの活動自体のある種集大成にも捉えられる名曲である。
歌詞のリンクが一番気になるポイントとなると思うが、サウンドなども含めて間違いなく2021年夏を代表するナンバーになると思う。
デビューして24年のベテランなのに2人ともルックスが若すぎて、まったくベテラン感を感じさせないのがすごいところなのだが、サウンド面でも歌詞面でもまったく落ち着きを見せず、まだまだ貪欲に進化をしていこうという姿勢が前面に出ている楽曲だと思う。
できるなら、来年のデビュー25周年でこの曲と「桜木町」を生で聴きたい。頼む。
そしてジャケットの石原さとみ、わけわかんないくらい綺麗だな。
※追記:2021/6/11 「NATSUMONOGATARI」MV記載